ついつい『まさか自分が』って
彼と観音と私とでラーメンを食べて以降、時々そうやって三人で外食するようになった。いつも、ラーメン屋かうどん屋かお好み焼き屋かファミレスだけどね。
でも、それが嬉しくて私は幸せだった。最初はそれこそ近所の店だったけど、休日前の夜なんかには、三人で彼の行きつけの美味しいお店とかでゆっくりと食事をするようになった。
彼は食堂楽を趣味としていて、しかもただ高級なとか敷居の高いお店とかじゃなくて、それこそ穴場的な、隠れ家的な、そっち系の店に詳しくて、私も気軽についていけてありがたかった。
変に格調高い店だとどうしても緊張してしまって、きっと楽しめなかったと思う。
実は彼は、そういうお店もそれなりに知っているらしいんだけど、私が苦手としているのを知ってて、気を遣ってくれたらしいんだ。
あと、彼自身、その手の格調高いお店とかは、仕事の上での接待とかに使うことが多かったのと、前の奥さんがどうしてもそういうお店でないと納得してくれなかったので、結果として詳しくなっただけで、彼としては、美味しければ別に、店そのもののランクとか格付けとかには興味がなかったそうだ。
当然、高いお店は、料理も美味しいところが多いけど、格式ばって行儀作法に気を取られて気軽に味を楽しめないことも少なくないし、なにより小さい子供を連れて行くのは憚られることも多いしで、足が向かないんだって。
たまにどうしてもそういうお店で食べたい時には、むしろ一人で行くことが多かった。後は、観音と私を連れて行けるお店探しも兼ねて一人で行くとかね。
私も観音も、彼が一人で行くことを気にしなかった。三人で一緒に行ける店で、三人一緒の時間を過ごせればそれでよかった。
それだけで満たされた。
観音が大きくなったら、年に一度くらいちょっとお高い店に行ければいいかなって思ってた。
結局それは実現しなかったけどさ……
彼が、食べ過ぎでしょっちゅう胃薬とか飲んでたのを気付いてたのにそれに何も言わなかったことを、今でも後悔してる。
だけど、私自身、『まさか』って思ってたくらいなんだから、彼もきっと、『まさか自分が』って思ってたんだろうな。
人間って、そうだよね。ついつい『まさか自分が』って思っちゃう生き物だよね。
彼は、免許は持ってたそうだけど、事故を起こすのが怖くて自動車の運転はしなかったからそれはなかったけど、飲酒運転とかをする人って、それこそ『自分はお酒を飲んで運転しても事故なんか起こさない』って思ってるからそんなことできるんだろうな。
なのに、『事故を起こすかも』って思って彼は自動車を運転しなかったのに、過ぎた食道楽で自分の寿命をこんなにも縮めることになるとは、思ってなかったんだな。
人間って生き物の弱さや難しさを感じるよ……




