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その1





 リマー星系外縁。現在そこには数多の戦艦がひしめいている。

 リマー王国軍の第一艦隊群から第五艦隊群までが勢揃いしているのだ。一つの艦隊ユニットが二十隻前後。それが二十から三十集結して一つの艦隊群が形成される。補給艦などバックアップも含めてとはいえ、総勢二千を超える艦が整然と居並ぶ光景は、なんとも迫力があった。


「このような密集隊形を取るのは、こういうときくらいしかないからなあ」

「左様ですな。戦場では悠長に景色を眺めている余裕もありませんし」


 艦隊を預かる司令官の一人が、モニターの光景を見やりながら感慨深く言う。リマー王国からしても今回のような規模の戦いは初めてのことである。これだけの艦が実際に揃うことなどなかった。シミュレーション上の訓練であればこの倍以上の数が揃うこともあったし、それで戦火を交えたこともある。だが現実にこれだけの数が揃うと、やはり何か感じ入る物があった。

 まもなく艦隊は順次超光速航法へと入る。一気にクレン星系へと到達するわけではなく、重力干渉などの関係上艦隊ごとに細かく分かれ、足並みをそろえるために幾度か小休止を経て至ることになる。単艦であれば1日かそこらでたどり着くが、二千以上の艦隊ともなれば移動するだけでも大変な手間だ。そしてクレン王国もさすがに黙ってみているほど無能ではあるまい。多分。

 普通に考えるのであれば、途中で戦力を布陣し待ち構えているだろう。艦隊が小規模に分かれて移動している時こそ迎撃する絶好の機会なのだから。

 戦端が開くのは、そこだ。恐らく最初の会戦が舞台となるのはクレン星系との中間地点。重力の干渉、星間物質の少ないその宙域が戦場となる。クレン王国軍も大量の艦隊を展開することが出来るが、それはリマー軍も同じ事。時間をかければリマー軍の艦隊は次々と押し寄せてくる。クレン軍の勝機はどれだけ素早くリマーの艦隊一つ一つを削っていけるか、そこにかかっていた。

 いずれにせよこれまでにない規模の戦いとなるだろう。そもそも数百隻を超える艦隊戦など行われなくなって久しい。ましてや千を超える規模など前代未聞だ。リマーにしても実戦で行うのは初めてのことなので、どのようなトラブルが起こるか未知数である。

 かてて加えて。


「此度はリアル姫も出陣しておられる。姫の眼前で恥ずかしい戦いはできんな」

「しかし豪胆なことで。()()()()()()()()()()()()()()()()とは」


 今回の戦いで、リアルは近衛兵を率いて旗艦艦隊直属に配置された……()()()()()()()()()()()。出陣の式にて勇ましい軍服姿で現れたのは記憶に新しい。

 面子がある、とはいえ直々に参戦するなど多くの兵が予想しなかったに違いない。まあ彼女の本性を知っているのはごく一部に限られていたので、一般の兵にはか弱い姫が起ったようにしか見えない。何割かの兵にとっては戦意高揚の効果もあったようだ。


「それにしてもだ」

「なんでしょう?」


 副官の問いに、司令官はニヒルな笑みを浮かべて言う。


「軍服姿のリアル姫が、鞭をぱしぱししながら見下す目で罵ってくるとか想像したら、滾る物がないかね?」

「アンタ不敬もいいところですなこの馬鹿野郎」


 前代未聞の戦いを控えながらも、リマー王国軍はかなり余裕がありそうだった。











 一方、同じリマー軍の中でも余裕がないどころではすまないところもある。

 旗艦艦隊に編入された戦艦【ファルシュ】。優美な外観を持つそのブリッジ、ゲストシートに座しているのは軍服を纏ったリアル……()姿()()()()()()。その人物は内心でこう愚痴る。


(なんでこんなことになってるっすか!?)


 そう、彼女は本人ではなく影武者である。王室直属の諜報部所属である彼女は、本来であれば王宮でのみ職務を果たすはずであった。しかしなぜだかこんなところまで引っ張り出されている。  

 その原因は、先鋒艦隊にあった。


「……胃が痛てェ……」


 きりきりと痛むみぞおちの辺りをさするのは、先鋒艦隊指令。彼の胃袋にダメージを与えているのは、艦隊に編入された一隻の強襲揚陸艦の存在である。

 もう誰が乗っているのか言うまでもない。


「なんで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いや分かるけど。やるんじゃないかって思ってたけど」


 この指令、軍の中でも数少ない『リアルの実態を知ってる人間』であった。何度かリアルが請け負った任務に同行したことがあるからだ。その実績を買われて先鋒艦隊を任されたのだが、真っ先にリアル本人が便乗してくるとは。

 予想できることではあった。この戦いにおいて先鋒艦隊の役目は重要だ。まず間違いなく真っ先にクレン軍と刃を交えることとなる。後続が合流する時間を稼ぐためにも踏みとどまる必要があった。そのために実戦経験が豊富な者たちを選抜して構成されている。

 そして、一年近くのブランクがあるとは言え、数年で少佐にまで成り上がったリアルは、リマー軍の中でも指折りの実戦経験者である。遊ばせておくにはもったいないと国王は考え、そしてリアルは超乗り気であった。で、こういうことになった。(はしょりすぎ)

 やりやがったこいつら、というのが軍内部で事情を知る前線士官たちの感想である。リアルの気質からすれば当然の結果と言えたが、現場と巻き込まれた人間からすれば堪ったものではない。影武者の人と先鋒艦隊司令を筆頭に、頭を悩ませる人間が続出している。そして胃薬と精神安定剤が飛ぶように売れた。

 しかし悪いことばかりでもない。 王家もごり押しした自覚はあるらしく、先鋒艦隊に対し物資的予算的バックアップを充実させ、十全に実力を発揮できるよう手配している。よほどのことがない限りは後れを取らない布陣だ。


「だが何が起こるのか分からないのが戦場。もし万が一姫に何かあれば……」


 首が飛ぶかなあ、物理的に。胃の辺りを押さえながら遠い目になる先鋒艦隊司令。

 そういった感じで一部関係者の胃壁と精神を削っている当の本人はと言うと。


「シミュレーションパターン、G‐11、いえ14を」

「了解、シミュレーションエンジン、設定を切り替えて再起動。60秒後にミッションを再開します」


 格納庫で自機に乗り込み、シミュレーションに明け暮れていた。

 時間が許す限り己を研ぎ澄ませる。リアルは頭おかしい蛮族脳であるが、己の技量に慢心するような人間ではない。ましてやさび落としをしたとは言えまだ実戦の勘を取り戻したとは言いがたいと自分で思っている。故に鍛錬を怠っていない。

 前線の人間にとっては迷惑かも知れない、という自覚はあった。こんな有様でも王族だ、気をもむどころではないだろう。しかしながら、それでも戦場に立たねばならないという思いがあった。

 異端の才能、図抜けた戦闘適正。『人殺しの才能』に特化している自分のような人間は、王宮でふんぞり返っているよりも戦場で敵を駆逐している方が()()()()。強迫観念めいた思い込みではなく、その方が()()()()()()()と感じる。

 リマーの王族は大なり小なり血の気が多い傾向にあるが、彼女ほどの才覚を持った『先祖返り』は珍しい部類だ。ゆえに扱いに戸惑った部分はあるだろう。だからと言ってこんな有様になるまで鍛え上げるのはどうかと思う。それはさておき、彼女は彼女なりにどうやったら国のためになるかを考えて行動している。そして実際彼女ほどのエース級であれば、戦場にて小さくない働きをすることは間違いない。

 問題なのは身分だけ。しかしその唯一が関係者各位の神経と胃壁をガリガリ削っている。


(……いっそのこと王家から追放された方が良かったかしら。そうしたら一般公募で一から軍隊生活できたでしょうし)


 シミュレーションをこなしながら空恐ろしいことを考える。この女、己が王族であることに何の価値も見いだしていない可能性すらあった。地位が迷惑になるのであれば投げ捨てると、本気で考えている節がある。

 まあさすがにそれは周囲が止めるだろう。……止める、よね? ともかく身分を隠して最前線に赴かせるのが王家と軍の協議で決まった妥協点だ。今のところリアルもそれで納得している。軍からしても腕のいい人形遣いを欲しがっているのは確かであったから矛を収めた形だ。胃の痛い人たちにとってはえらい迷惑でしかないが。

 このように、余裕はあれどリマーにも問題はある。それが戦いにどのような影響をもたらすのか、それはまだ未知数であった。











 先鋒艦隊が超光速航法に入る。

 この時代に使われる超光速航法は【空間圧縮航法プレッシングドライブ】というものだ。進行方向の空間を圧縮――正確には圧縮されたように空間の構造を変質させ、宇宙船自体は光速に至らずとも結果的に超光速現象を引き起こす。理論上の単純な計算では銀河の端から端まで1年とかからずに到達できるはずだが、実際は星系そのものが障害になったり重力や空間の影響があったりして、それほどの速度は得られない。せいぜいが人類の支配領域――銀河系の数%の領域を、半年程度で巡ることが出来る程度であった。

 リマー星系とクレン星系の距離は十数光年。単艦なら1日とかからない行程は、この規模の艦隊群であれば全軍移動するのに4日ほどかかる。その行程の最中に会戦が行われることは間違いない。

 速度調整を行い足並みをそろえるための集結ポイントは3つ。このうちのどれかでクレン王国軍は待ち構えているはずだ。()()()()()()()()()()()

 クレン王国に潜り込ませている工作員、そしてクレンに潜り込んでいる諜報員に情報を流したのだ。ある意味疑うことを知らない純粋(笑)なクレン王国首脳陣は得た情報をまるっと信じ込んだらしい。二重三重に裏取りをするリマーとはえらい違いである。

 待ち構えていると分かっていれば、いくらでも対処は出来る。先鋒艦隊にはその用意が十二分にあった。


「各艦リンク正常。機関同調確認。超光速航行開始まで120秒」

「総員耐衝撃。カウントダウン、入ります。100,99,98……」


 緊張が高まる仲、先鋒艦隊司令はシリアス取り戻した表情で制帽の位置を整える。

 そして、時は来た。


「全艦超光速航法開始」

 推進機関がひときわ大きく唸り、23隻の艦は放たれた矢のごとく虚空へとかっとび、消えていく。











いよいよ出陣~。

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