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夏休みの宿題をさせる

今回はやや暗めです。次回もう少し明るくなる予定なので、シリアス苦手な人はご注意願います!ああ文章書くの久しぶり過ぎて違和感が……。

 レポートなんて出した奴、爆破してしまえ。

 つい物騒なことを考えてしまう私の脳を叱ることもせず、私はひたすらパソコンと向き合っていた。私だっていつも蛇と頭おかしいことばっかりしてるわけじゃないんですよ。学業もちょっとはしてますかんね。

 蛇が遊びたくてうずうずしているのに気付かないフリをして作業を続ける。パソコンを睨めつけながらキーボードをカチャカチャと鳴らしている姿は、さぞかし気持ち悪いことだろう。まあここには蛇しかいないし、別に気にしないけどね。


「今日は夏休みであるぞ。我を放っておいて何しているのだ」


 とうとう痺れを切らしたのか、蛇が私の服の裾を銜えて引っ張った。やめて服が伸びるでしょ。


「大学のレポートです。休み明けに提出しないといけないんですよ」

「”れぽーと”?先程からカチャカチャと何やら叩いているが……何も楽しそうに見えんぞ」


 蛇はパソコンの画面を目を細めて見た。内容も楽しくない、なぜ縦書きじゃないのだなどとと文句を一通り言うと彼はため息をついた。


「こんなのいつでも出来るではないか。もっと夏休みっぽいことはないのか」

「私は暫く忙しいんで一匹でやっててくださいよ」

「嫌だ。其方がいないとつまらんではないか」


 不覚にもきゅんとしてしまった。そんな頬を膨らませちゃって。可愛いじゃねーかこのやろう。


「とは言われましても今はそれどころじゃないですからねぇ……どうしましょうか」


 独りで静かに出来る夏休みにする事といえば。思いついた私はにやりと笑った。最高なものが一つあるじゃないか。私は棚からあるものを取って、蛇に渡した。


「じゃあ蛇さんにはこれやってもらいます」

「おぉ!……おぉ?」


 こてんと首を傾げた蛇に、私はにっこりと笑いかけた。


「夏休みの締めくくりはやっぱりこれですね。読みたくもない本の感想文に絵日記のでっち上げ、時間が無くて親にやってもらう自由研究と、大量に溜まった夏休みの宿題……頑張ってください」


 たぶん蛇に尻尾が付いていたら下がっていたと思う。



「終わったぁーっ」


 大きく伸びをして周囲を見渡すと、もう暗くなり始めていた。蛇はとっくに力尽きていたらしく、ほとんど手を付けてないまま床に突っ伏していた。まぁ邪魔されることもなかったし良しとしよう。

 私は鼻歌を歌いながら印刷をし、結構な枚数になったそれをホチキスで留めた。

 表紙もつけてある出来上がったレポートを見て、達成感に一人にやけた。だけどそれ以上にある思いが急速に私のにやけを止めていった。


「何で私こんなことしてるんだろう」


 レポートって何よ。誰に渡すのかわからないし、まず誰がこんなもの読むんだろうか。素人の書いたモノ読んで誰が得するのか。一回疑問に思うと、どんどんそれが私の中で膨れ上がっていった。この紙切れ、別にいらなくない?

 じっと出来上がったレポートを眺めていると、横からひょいっとそれを盗られた。そんな事するのはもちろん蛇で。それを銜えてどこかへ行こうとする。


「ちょ、ちょっと待ってよ。それ大切なものだから持ってかないで」


慌ててレポートに手を伸ばすと、蛇はつぅーと目だけを動かして私を見つめた。


「大切なもの?」


いつに無く冷たさの感じられる視線が痛い。思わず目を逸らしてしまった。それを蛇が許してくれるはずが無い。私の顔をゆっくりとのぞき込んで首を傾げた。


「本当に、大切なものなのか?」


 実際今そんなものどうでもいいと思っていたのもあって、私はうっと言葉に詰まった。これを告げたら間違いなく捨てられちゃうよ。


「……だってこれないと単位がもらえないし」


 私の答えに満足しなかったのか蛇はフンと言って私の首に顔を擦りつけ、そこをぺろりと舐めた。


「ちょ、蛇さ……」


 長くて冷たい舌に舐められるうちに、段々そこが熱くなっていく。くすぐったくて蛇の頭を押し返したが彼の動きは止まらない。何度も何度も何かを刷り込む様にその行為を続けていた。

 暫く蛇にされるがままになっていると、ようやく気が済んだのか蛇は舐めるのを止めて頭を私の肩にもたれさせた。


「この紙切れが好きか?」


 蛇の声がやけに頭に響いてくる。私は首を振った。


「外の世界は冷たくて嫌な事しかない。それでも”だいがく”に行きたいと思うか?」

「思わない」


 何をしても報われない駄作だった私の世界。そこの片隅にあるちっぽけなものが大学だった。それは苦しみに耐えてまで行くような所じゃない。


「ここは我の思うがままの世界だ。我が願うだけで全てが叶う。其方が欲しいものは全て与えてやろうぞ」


 だから我の傍にいろ。この場所で何も恐れるものなどないはずの蛇の声は何故か震えていた。私はぎゅっと蛇の頭を抱きしめた。


「……ずっとここにいる」

 


 真っ暗な中、彼は湖の上にいた。そこが落ちたら二度と浮かび上がって来れないような深い場所だと彼はもちろん知っている。

 彼は銜えていた紙切れをポトリと落としてそれが彼女の記憶から消えるよう願った。彼が願った事は全てその通りになる。段々と水の重さで沈んでいくそれを夜目の利く目で見届け、それが叶った事がわかるとゆっくりと口角を上げた。


「それは完全じゃなくてはいけない」


 途中だと中途半端に彼女の記憶に残ってしまう。彼は彼女の中から自分が知らない全てを消したかった。これは汚くて、尊い想いだ。彼は誰かに自分勝手だと罵られようと気にしないだろう。きっと彼女に嫌われても無くなる事はない。



「ずっと、一緒であるぞ」


 それは彼と彼女の永久の約束だ。

読んで頂き、ありがとうございました。不定期になっていますがこれからも続けていくつもりなので、温かく見守ってくれると幸いです。これからもよろしくお願いします\(^o^)/

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