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セイクリッド・アークス  作者: そらり@月宮悠人
抗う者達
28/30

概念乖離

――間に合え!


 テグィウスの協力のもと、グレムリンに乗って神殿へと向かう。この早馬みたいなグレムリンは時速80kmで走れるらしく、あっという間に神殿に到着した。


「見えた!」


 神殿には明かりがついていて、周りにはアマドライトの人達が倒れていた。


「よかった、殺されてはいないみたいだ。でも……」


 全員生きてはいたものの、ひとり残らず複数箇所の骨を折られていた。中には骨が飛び出てる人もいて、すぐにでも処置が要る。


「棟梁は!?」

「うぅ……棟梁、は……お、奥へ……!」

「ありがとう!」


 俺の力は守りの力。治癒は出来ない。


「テグィウス! ひとっ走り戻ってサリヤという女の子を連れてきてくれ! この人達の治療を頼む! 大魔法師に頼まれたって言えば信じてくれるはずだ!」

「分かった、任せろ」

「グレムリンで脅かすなよ? 彼女怯えてたからな」

「ああ、分かってる」


 テグィウスをサリヤのもとへ向かわせると、俺は洞窟へと入っていく。ここへ来た時は全く気付かなかったが、壁に色々な模様が描かれていた。


「何だこれ?」


 どこかで見たよう気がする……どこだっけ?


 警戒しながら歩いていると、奥で悲鳴が聞こえた。


「棟梁!?」


 走って洞窟を抜けると、一気に視界が開けて巨大な空間に出る。奥には神殿らしき建物があり、周りは篝火(かがりび)で照らされている。


「棟梁!」


 叫ぶと、奥から棟梁の声が聞こえてくる。


「大魔法師様!? 何故ここに! サリヤは!?」

「サリヤちゃんなら無事だ! 頼もしい仲間が保護してる!」

「そうですか! 流石です!」


 走って棟梁のもとへ向かう。庇うように前に出ると、相手の姿を見驚いた。


「ディメル!?」

「おやおや、奇遇ですねぇ。まさかこんな所で君に会えるとは」


 コイツがなんでここに!?


「俺を追って来たのか?」

「まさか。転送先なんていちいち調べてられませんよ。こう見えて私は忙しいですからね。君こそどうしてここに? てっきり奴らのアジトへ行ったとばかり思っていましたが」

「大魔法師様……知り合いで?」

「ああ、ちょっとね……。俺も知らないよ。気付いたらここにいた」

「気付いたら? ふむ。どうやら転送に失敗したようですねぇ。どうです? 邪魔をしないのであれば、君のことは保証しますが」

「頷くと思うか?」

「はぁ……でしょうね。まあ、あの二人もいませんし、すぐ降参するでしょう」


 そう言ってディメルは魔法でデカイ水鉄砲を放ってきた。


「まあ、運悪くても骨折する程度ですよ。しばらく大人しく――」

「そうか、外の人達はこれで骨折してたのか」


 水鉄砲を受けて無傷の俺を見て、ディメルは表情を変えた。


「ほう……? 面白い」


 ディメルは何回か魔法を試してきた。炎や風、電撃など様々仕掛けるが、俺は無傷。


「一体どうなって……? ならば」


 冷気が辺りを包む。これはアギリを一時戦闘不能に追い込んだ凍結領域(コールド・フィールド)か!


 しかし、俺の守りの力はそれすら拒む。周りだけが凍っていく。


 すごいな……これがあれば、俺も戦える!


「なるほど、何かに護られているわけですね? 君のその強気も頷ける。ひょっとして覚醒しましたか?」

「覚醒?」

「いや失敬、覚醒してるわけはありませんね。それにしても厄介ですねぇ……その護りの耐久性がどれほどのものか分かりませんから、()()()()()()()()()()()()


 ディメルの頭上に魔法陣が6つ現れ、そこから黒い箱のようなものが出現する。


「“地獄の砲門”。これは本来、魔獣狩りや城壁などの守りを崩すのに使ったりするものですが……さて、どこまで耐えられますかな?」


 黒い箱が一斉に開く。中からドクロのような形をした砲身が伸びてきて、試しに、とばかりにデカイ砲弾を一発撃ってきた。守りの壁に触れると炸裂し、大爆発を起こす。


「うおっ!」


 盾の耐久性というより、神殿が危ない。慌てて神殿にも守りの力を付与する。


「ふむ。やはり堅い。さて、何発耐えられるか」


 ドドドドドン!! と、今度は一斉射撃してきた。


「うわわわ!!」


 一気に弾丸が炸裂し、超大爆発を起こす。神殿は守っているから平気だが、洞窟は崩れるどころか爆発の勢いで外へと吹き飛んでいった。


「なんて無茶しやがる!」

「おっと、まだ終わりませんよ」

「ちょっ!?」


 休む間もなく連射される地獄の砲門。もはや地形が変わってしまっていた。


「これは驚きましたね、その護りは“熾天の盾(ミ・シェールド)”と同等かそれ以上の強度のようだ。どこでそんなものを得たのか、大変興味深いですねぇ」

「ハッ、もう弾切れか?」


 頼むよ、いくら守りの力が強力だからって、維持するの結構大変なんだから!


「いえいえ、まだまだこれからが面白いところですよ。フハハハ!」


 やべぇ、完全にスイッチ入ってるなこれ……。


「出し惜しみ無しでいきましょうか!」


 今度は赤く燃える柱が、俺の周りを囲むように地中から生えてきた。


「“焔塔(グノ・シュピーナ)”。一応説明しておこうか。これは“(ことわり)の禁呪”と呼ばれる(いにしえ)の術でね。魔法とは体系が異なる(まさ)しく理を侵すものだよ。つまり、簡単に言えば()()()()の炎熱地獄さ」

「なんだって!?」

「さて、こいつのもう一つすごい所はね、火力をどこまでも上げられるという素晴らしい能力(ちから)なんだ。上限はない。何億℃だろうと出せる。まあそれだけ出すにはかなりの精神力と魔力が必要だがね」


 “焔塔(グノ・シュピーナ)”が起動し、次第に周囲が熱くなる。


「さあ、どこまで耐えられるかな?」


 覚悟していたが、案外熱は伝わってこない。かなり優しい温度なのか?


 しばらく待ってみても、周囲は見るからに熱そうなのに俺がいる周りは全く熱くない。


「防御無視なのに……守りの力ってどうなってんだ?」


 さっき使えるようになったばかりのこの力は、分からないことが多すぎる。


 グレムリンを倒したエストレインジメントは“概念乖離(がいねんかいり)”と言う守りの力の能力の一片だ。簡単に言うと、あのグレムリンは生と死の概念が乖離し、存在が保てない状態になった。


 正直、説明してる自分が訳分からないし、なんでこんな能力が守りの力なのかもさっぱり分からない。


 ただ、今のこの状況と概念乖離の事を踏まえると、もしかしたらこれは本当に最強の盾なのかも知れない。いや、本当に盾と言っていいのか少し怪しいけど……。


「何故だ……」


 ディメルは謎が解けずに困惑してる。周りはドロドロに溶けていくのに、俺と神殿の周りだけは無傷なんだから、そりゃ困惑するわな。防御という概念に囚われた奴には決して理解出来ないだろう。


「あれも試した……あれも試した……防御無視が通用しない? 何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ」


 いよいよイカレてきたかな? ちょっとしたホラーだぞこれ……。


 それはともかく、一体どうやって逃げればいいんだ? 俺だけならともかく、棟梁を連れて逃げるのは集中力が持たない。守りの力の唯一の欠点だな……。


 と、そこへ通信が入った。


「もしもし?」


 耳に指を当てて小声で応答する。


『良い子で待ってたかなー?』

「待ってたぜ! 今は神殿の前にいる。ディメルが禁呪で熱々な空間にしてくれてるよ」

『焼肉でもしてるのかい?』

「焼けるどころか一瞬で消し炭になるよ」

『それにしても、ディメルがいるのか、厄介だな』

「どうにかならないか? せめて棟梁だけでも」

『棟梁?』

「お世話になったアマドライトの人だよ」

『ああ、それなら……えーと、これだ。通信したままもう片方の手でその人に触れて』

「こうか?」


 右手で棟梁の肩に手を置く。


『……オッケー、準備出来た。転送するからちょっと待っててねー』

「分かった。……棟梁、今から安全な場所へ転送してもらいます。そこで待っててください」

「だ、大魔法師様はどうする!?」

「俺のことなら気にしないで、大丈夫ですよ。なんたって大魔法師ですから」


 笑って、棟梁を安心させる。


「分かりました。信じてます!」


 転送が始まり、棟梁の体は虚空へと消えていった。


「よっしゃ、これで遠慮なく動ける! 反撃開始だ!」



*続く*

なんだかとんでもない能力を手にした秀臣くん。


炎熱地獄でどうして生きていられるか? 簡単に言うと、炎熱地獄と秀臣くんたちを隔てる守りの力。それが概念自体を切り離しています。


外は熱々地獄だけど、守りの中では炎熱という概念がない。つまり、炎熱地獄自体が存在しないことになっているわけですね。


例え極寒の世界に裸でいようとも、灼熱地獄の世界に冬の格好でいようとも、概念乖離さえあればその空間内だけは快適。バイオ○ザードの世界でだって余裕で生存できちゃう。


ちなみに「再転生したら最強ロリになってたけど使命が分からない」で似たような話(バリア内は超快適なんじゃよ)がありますが、あれは防ぐもので限界もあるし割れます。


しかし、こんな能力を元々持ってる秀臣くんは何者なのか? 時折聞こえる声は何者なのか? アマドライト編が終わってから、少しずつ分かってくる(はずです)。


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