ジャニー・立早のRPG
シィエラは街を歩き続け気付いた。
この街に住む者達の多くが何か心が抜けたような表情をしていること。一方、自分と同じ気を発している者達とも出会える。
自分が召喚して来たというのなら、別の人間達も召喚されたと考えてもおかしくはない。
「ふーん。……あら?」
歩いている時、人々が群がって何かを見ている場所を発見する。シィエラはその様子が気になって進んで行く。人の群れには男だけじゃなく、女性もちゃんといた。
「ちょっといいでしょうか?」
「!うぉ、なんて美人が!」
「何を見ているのです?」
シィエラは彼等が見ている物に目を通した。ただの看板であるが、どこか信憑性が高い物だと不思議と理解できた。同時にこれを考えている奴は馬鹿だな、と思っていた。
【ジャニー・立早のRPGへようこそ】
【この世界は神様ことジャニー・立早に飼われた人間達の世界である】
【あなた方は今、自由という意志を手にしている人間達】
【一方で死によって、自由を失ったNPC(意志を持てない)となった人間達】
【二つが共依存し成り立っている世界】
【人間は本当の自由を手にするため、神様に抗えるのか?】
【これは全ての人間を飼うための神様の所業である】
「なにかしらこの馬鹿」
辛辣な言葉を吐くシィエラ。
だが、自分をここに呼んだらしい人物のメッセージであり、不思議な人間達の正体も分かった。
彼等はなんかしらの形でこの世界で死に意志を失った人間達。立早からしたら道具のような物。だから代えが生まれる。自分がかけているサングラスもきっと、立早が造りだした物なのだろう。
「ふぅ………………」
シィエラはゲームという言葉を知らない。ここにいる多くの人間もまた知らない言葉であると感じている者は多い。しかし、まだ意志を持てる者達はこの世界の神様である立早を倒す事が最終目標であることをすぐに理解した。意志を失った人間達も、彼等の成功を応援するようにNPCとしてヒントを与える者もいる。
どこに向かえばいいのか?
「まだ来たばかりの君にはまず、ここより北にある地にいる魔物ケイオスを倒さなければ、南のレインブリッジの通行証は渡せぬな」
「なによそれ。横文字は良いから、あなた達を倒した神様とやらを呼んできなさい」
「いやその……我々もそこまで知りません」
シィエラはNPCと化して、情報屋というお店をやっている男に話を聞いた。
「我々は神様にすら辿り着けなかった。神様の使える配下に殺され……こうして与えられた役割をこなしているだけに過ぎない」
「その割には随分と言葉が喋れるのね。表情も豊か」
「…………思うに……。神様が求めているのはキャラクターではなく、人間以下奴隷以上といったところだろう。情報規制をされている我々はそれ以上の事ができない。運良く情報屋になって本当に良かったよ」
「………ここで死んだら、つまらないのは当然みたいね」
シィエラは親切に答えてくれる情報屋に、得た情報分のお金を渡してあげる。すると情報屋の男の瞳が暗く落ち始め、口も閉じてしまった。
「……………………」
「情報屋さん、お金を渡さなければ人間としてはもう喋れないのね」
情報屋がシィエラに声をかけることができたのは10秒後。何かのタイムラグを感じさせる。そして、
「情報が欲しいかい?なら、100センドは必要だ」
「……いいえ、遠慮するわ」
「そうか。攻略に困ったならお金を持っていつでも来てくれ」
お金を受け取らなければほぼただのキャラクターとなる男。NPCとはキャラクターと人間を併せ持つことを知った時、自分の命を優先的に守ることを決めた。
面白いところに迷い込んだのは良いが、この世界での死は奴隷。なれば"無駄名努力"を持っていても、脱出はできないだろう。同時にこの世界を造り出し、人々を次々に召喚。多くをNPCに変えてしまった神様、ジャニー・立早の持っている能力はとてつもない物であると察しできる。
「神様殺しの道のりまで長い旅になるわね」
シィエラと同じ気持ちを抱いた者達は多くいた。いまなお、この世界の奥にいる神様と直接出会えた者は誰一人もいなかった。彼が抱えている配下が強い上に、姿を見せずとも人間達を蹴散らしてしまうからだ。
ここに来たばかりの者達は神様の恐怖を知らなかった。ただ、自分のいた世界に帰りたいという気持ちが強かった。だから、神様に抗おうとした……そして奴隷行き。だが、遅く召喚された者達は彼等の犠牲を知って、挑む相手がどれだけデカイかしっかりと認識した。
神様を倒そうとする意思を持てる者達は今、500人以上はいた。