第56話:肩書きを捨てた賢者。ただの「夫」として生きる幸福。
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「救世主」という重荷を下ろし、一人の夫として、父として生きることを選んだアルス。
誰かの身代わりではない、自分自身の人生を歩み始めた彼の姿に、本当の意味での救いを感じていただければ幸いです。
ハルバート領の広場には、今も「守護神アルス」を称える鐘の音が響いている。
だが、その音を聴きながら、俺は今日、一通の親書をシルフィア王女――いや、この国の女王となった彼女に手渡した。
「……本当に、いいのだな? アルス殿」
シルフィアが、寂しげに、だが慈愛に満ちた目で俺を見つめる。
それは、全ての公職と『救世主』という肩書きを返上するための辞令だった。
「俺の魔力は、もう世界が自分たちで歩むための『補助輪』でしかありません。これからは、成長した子供たちと、君たちが作る時代です」
俺が微笑むと、隣にいたリアナとルナリス、セレスティーヌも、晴れやかな顔で頷いた。
俺は、内側にあった「世界を支えるための魔力の糸」を、静かに、一本ずつ解いていった。
かつてはそれこそが俺の存在意義だと思い込み、命を削ってまで繋ぎ止めていた重荷。
それを手放した瞬間、驚くほど体が軽くなった。
俺はようやく、世界という大きな器の「部品」ではなく、ただの「アルス」という人間に戻れたのだ。
一方、王都から遠く離れた、名もなき荒野。
かつてエルザが力尽きたその場所には、名もなき墓標すら立っていない。
彼女たちがかつて抱いていた「自分たちは特別だ」という傲慢な執着は、乾いた風に吹かれ、跡形もなく消え去っていた。
世界がアルスの功績を語り継ぐ中で、その裏側にいた者たちの存在は、もはやお伽話の悪役ですらなく、ただの「無」へと変わった。
アルスが幸せになることを選んだその瞬間、彼女たちの呪縛は、完全にこの世界から消滅したのだ。
「さあ、アルス様。今日は湖畔の家で、みんなでゆっくりお昼寝をしましょう」
リアナが俺の手を取り、静かな森の奥へと導いてくれる。
そこには、俺を「救世主」と呼ばない、俺をただ「アルス」と呼んで愛してくれる人たちとの、終わりのない安らぎが待っていた。
俺は、もう二度と振り返らない。
黄金の光に包まれた日々が、俺の人生のすべてを優しく肯定してくれていた。
アルスの選んだ「退位」。それは世界が彼を必要としなくなるほど、彼が世界を完璧に救ったという証でもあります。
物語はいよいよ、真の完結へと向かうカウントダウンに入りました。
アルスの物語を、最後まで温かく見守ってくださる皆様、
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