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赤いエルフ

 翡翠色の月光が照らす夜に鞭と銃声が響き渡る。砂漠平原に幾つもの天幕が敷かれ、その真下には幾つもの人間蟻地獄が広がっている。強制動員された人間達が、背後のエルフに鞭打たれ虚な瞳で発掘作業を続けていた。

 

 中つ国の古代遺跡、竜宮城。

 太古竜人族が紡ぎ上げた都市を形容するなら、継ぎ接ぎの疾患都市という言葉が最も相応しいだろう。ポッカリ空いた平原の穴から拝めるその景色は病的に不安定で、一貫性のない衝動的な物だった。珊瑚の中に寺院があり、中央に進むにつれて文明的要素が薄れて行く。純白の大理石で出来た城下町が現れたと思ったら、逆十円ハゲのように花畑が咲き誇り、要所によっては中途半端に工事が放棄された未舗装の庭が広がる。到達点を見失い、何者にもなれなかった都市がそこにあった。


 

「陽光経典は魂を与える」



 天幕の中、純白の軍服に身を包んだエルフが居た。胸には多種多様な勲章達がさも展覧会の様に飾り付けられており、見るものには些か滑稽にも映る。しかし、実際に彼女が保有する勲章の数はこの程度ではない。柔らかな黄金色の毛髪に紅い斑点が不気味に浮かんだ独特の髪を持つ美女だ。その雰囲気に何処か哀愁を漂わせながら、鈍く煌めく星の虹彩と共に語り出す。

 彼女が抱えるその本は生命力に溢れていた。白金に煌めくその書物は、脈打つかの様に一定の間隔で発光を繰り返し、薄らと浮かぶ血管が不気味に蠢いていた。淵には老いた魔導士の如き純白の髭が生え揃っており、そよ風に当てられユラユラと靡いている。表紙には神々しい白龍の顔が浮かび、寝息が聞こえてくる様に穏やかに眠っていた。



「漆黒経典は魂を奪い去る」



 彼女に続いたのは、シルクの様に純白な肌をもつ長身のエルフだ。その瞳は血が漏れ出んばかりの真紅の虹彩を、爛々と煌めく純銀の角膜が覆っている。髪の毛は仄かに金色を帯びており、何処か温もりを感じさせる。

 携えるは陽光経典と対を成す神器”漆黒経典”だ。ギョロギョロと蠢く瞼のない眼は世界への憎悪と怒りに溢れ、空間が歪む程の邪気を放っていた。黒竜の鱗で作られたその書物には凡そ生命らしき温もりは感じられず、異様な程の無機質さと静寂があった。



「殺すのは私の仕事だ。プリメラもクワトーレも───あのラストエンペラーもね」



 女は書物にかかった砂埃を吹き払い、赤い布の中へと優しくしまう。彼女の指には煌軍の物と似た指輪が嵌められており、ズボンからも銀色の蛇のストラップが垂れ下がっていた。



「そこに、例の海賊と軍閥の長を合わせれば、エルフだけで天神が5人…か。気が滅入るね」


「天神などクソだ。傲慢で自己中で女の事を孕み袋程度にしか考えて無い。いつだって損をするのは女…その点、プリメラはまだマシだった」



 彼女は、そう呟くと腰から垂れる名誉を失った勲章にそっと手を当て微妙な笑みを浮かべた。


「惚れた男の為に祖国を棄てる、五大貴族で最も奔放で開放的な女。確か…お前の主人だったか?」


「貴様の元カノでもあるがな」


「そう思っていたのは俺だけだ。アイツの為にと同胞を棄てて国へ来てみたら、迎えてくれたのは共産主義者と主人に捨てられた哀れな女。俺達は捨てらフレンズという訳だ」


「貴様と一緒にするなアビス。この薄汚れたグリーンインフェルノの末裔が」



 女は一瞬息を飲み込み、その心に沸いたドス黒い軽蔑と嫌悪感を一瞬で吐き出す。その顔は怒りからか、火照っており僅かに瞳は潤んでいた。



「俺は人肉は好かん。牛肉の方が好きだ」


「そう言う問題か?いや、よそう……お前らとは根本的に価値観が違う」


「そうでもない。お前達の同胞にもかつて居ただろう?偉大なる神獣を犯し喰らった大罪人が」



 女はより一層の嫌悪感をその美しい顔で表明し、額には僅かに汗が噴き出た。憎悪などという言葉も生温い黒い感情。その中には何処か、僅かに恐れも垣間見えた。



「神狩り……あの腐れエルフの娘が今尚、のうのうと生きている事自体が腹立たしい。飾りは最後まで飾りらしく空虚な人生を送れば良いものを」


「そう思うか?───私は、あの子が可哀想でならない。あの子は常に他人の人生に振り回されて来た。父に始まり、プリメラの裏切り、そして太陽の国の敗北。自分の国を持つ事くらい、認めてあげれば良いじゃないか」


「あの神狩りの娘だぞ?一度隙を見せたら最後、一瞬で国を取られるぞ」


「トレスだったら、とっくに皇帝になってるよ。あの子を悪い意味で買い被りすぎだ。奇襲を仕掛ける時も、馬鹿正直に銅鑼鳴らしてから来るような娘だぞ?」


「いや、流石にそんな───」



ボォワァァァアンッッ!!!

ボォワァァァアンッッ!!!

ボォワァァァアンッッ!!!



 竜宮城の跡地にけたたましい轟音が鳴り響いた。先程まで幽鬼のようにフラついていた人間達が、一斉に反応し震え上がる。ざわめきは伝染し、次第に周囲のエルフにも伝わった。何処か嬉しそうな男を見る女の顔は、まるで現代に生きる原始人を見たかのように驚愕と呆れに満ちていた。


「アビス=スパルティアト様、フリーナ・日吉・ミリスレギナ様、敵襲です!ラティナ・北条・イエロアニス率いる煌軍が四方から同時に攻撃を仕掛けて来ました!」


「…………」


「ほらね」

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