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ふっ。なるほどな。……創味シャンタン、か

 提示されたセリフを適切に配置して短い物語を作成しましょう。


「ふっ。なるほどな。……創味シャンタン、か」


 一日の仕事を終え、街を歩く。太陽はすでに姿を隠し、夜闇が支配するはずの世界は、人の生み出した科学の光に安息を奪われている。昼とは違う、抑圧から逃れようとするざわめきが通りに満ちている。すでにできあがったサラリーマン風の三人組とすれ違う。彼らは覚束ない足取りで笑っていた。

 私はこの街が好きだ。決して上品な場所ではないが、下劣過ぎるわけでもない。猥雑、という言葉がぴったりくるような得体のしれないエネルギーと、冷たく知的な静謐がほどよく混在している。気分によってどちらを選ぶかを決められる、多様な在り方を許容してくれる街だ。電飾がかまびすしい飲食店の看板を眺めつつゆっくりと歩く。焼き鳥、もつ鍋、串カツ、焼き肉――石器時代から存在していそうな古い店から、昨日できたばかりのような新参まで、様々な店が手ぐすねを引いている。腹が減ってきた。昼はコンビニの玉子サンドしか食べていない。

 ふと古びた看板が目に入り、足を止める。ギラギラとした照明に埋もれるようにひっそりと佇むその看板には、飾り気のない文字で店名が書かれていた。


『割烹 和田』


 和田、とは店主の苗字だろうか? 看板であるにもかかわらず客の興味を引くというっ役割を放棄したようなある種の潔さを感じる。古い看板と商売っ気のなさの組み合わせが意味するところは一つしかない。この店は、旨い。わざわざ客を招かなくとも成立している、ということなのだ。

 暖簾をくぐり中に入る。落ち着いた暖色系の灯りが出迎えてくれた。六席のカウンター席とテーブル席が二つ。こぢんまりした雰囲気が妙に馴染む。


「いらっしゃいませ」


 カウンターの奥から声が掛かる。お好きな席へ、と言われ、カウンターの端に座った。カウンター席はすでに四席が埋まり、テーブル席はどちらも『予約済み』の札が置いてある。もう少し遅ければ『満席』と断られていたかもしれない。今日の私は運がいい。


「どうぞ」


 意外に若い大将がことりと私の前にお通しを置く。湯引いた鯛の皮のポン酢和え。白地に朱と緑の模様が入った小鉢に紅葉下しとネギが映える。パキッと割り箸を割り、ひと口。――うまい。この店に目を留めた自分の眼力にほくそ笑む。


「何にしましょう?」

「お勧めはありますか?」


 大将は少しだけ嬉しそうに言った。


「今日はいい鯛が入っていますよ」

「じゃあ、それで」


 承知しました、と大将。慣れた様子で網を手に取り、水槽で優雅に泳ぐ鯛を掬い上げると、手早く捌いていく。目の前でプロの料理人が自分のために料理を作るさまを見るのも割烹の醍醐味だ。芸術のような手際に見惚れているうちに、次の料理が出来上がる。


「鯛しんじょの澄まし汁です」


 漆の椀のふたを開けると、柔らかい湯気が鼻をくすぐる。出汁のいい匂いがふわりと広がった。澄ましの名に相応しい、一片の濁りもない汁の中心に、鯛のしんじょが浮かんでいる。削った柚子の皮が散らされ、彩りと香りにアクセントを加えていた。これはもう、食べる前から、うまい。思わず唾を飲む。

 左手で椀を持ち、まずは汁をすする。――間違いない。出汁の旨味、甘みが口に広がる。そして、鼻に抜ける鮮烈な柚子の香り。どこまでも上品な昆布出汁をベースに、おそらく焼いた鯛の骨で取った出汁を合わせてうまみを大幅に増強している。塩加減は、ぱっと口に含んだ時にはやや薄め。だが、それは鯛のしんじょを引き立てるための甘い罠だ。

 箸でしんじょを割り、口に運ぶ。白くふわふわとした触感、なのだが、噛めばじゅわっと旨味が染み出す。不思議な感じだ。ほろりと崩れるほど柔らかいのに、物足りなさは微塵もない。

 もう一度汁をすする。そう、少し薄めの塩加減は、しんじょを口にした後でその意味を理解させる。この塩加減こそが、しんじょの旨味を最大に引き出すための伏線なのだ。塩味がこれ以上強ければ鯛の旨味が台無しになる。かといって塩味が弱ければ味がぼやける。計算しつくされた、これしかない、という塩加減。大将の腕は本物だ。

 だが、違和感がある。昆布と鯛骨の合わせ出汁、絶妙な塩加減、もちろん鯛そのものが最高にうまい。素材と技術の揃った最高の一品。だが、うますぎる。それらの要素では説明できない、まだ隠された何かがある。なんだ、何を見落としている? このうまさを完全に解き明かす、最後のピースはいったいなんだ!? 私は半分に割られて椀の中に浮かぶ鯛しんじょを凝視し――ふと閃く。最後のピース、うますぎるほどのうまさの秘密を。


「ふっ。なるほどな。……創味シャンタン、か」

「違いますよ」


 大将が笑顔で私の呟きを否定する。私は弾かれたように顔を上げ、驚愕を浮かべて大将を見つめた。


「違いますよ」


 笑顔のまま、幾分先ほどより強めに大将が言った。お、怒ってらっしゃる?


「違いますよ」


 張り付いたような笑顔のまま、包丁を持つ手を幾分震わせ、大将はずっとこちらを見つめていた。


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