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嫌われ王子、国を捨て亡国の王女を助ける  作者: 空野進


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19/50

救助

 うっぷ……。吐きそう……。



 二度目の魔力回復ポーションを飲んだ俺は戻しそうになりながら、ミューの両親に回復魔法を使っていた。


 瀕死の危機から脱していた二人はHPが回復したことにより、意識を取り戻していた。



「こ、ここは……」

「ママー!! パパー!!」

「み、ミュー!? ってことはここは天国!?」



 二人の意識はまだ混濁が見られる。

 襲われてすぐ、ということを考えるとそれは至極当然のことであった。



「って、人間!? わ、私たちをどうするつもりだ!」



 ようやく俺たちを見るくらいの余裕ができたようだった。



「どうもしない。それよりも時間がない。意識が戻ったのならお前たちにも協力してもらうぞ!」

「ど、どういう……」

「あのね、お兄ちゃんは人間だけど、良い人間さんなんだよ。えっと、こういうのをなんていうのかな?」

「嫌われ王子だ」

「うん、嫌われ王子さんだよ」



 どう考えても良い称号ではないのだが、あまりの笑顔っぷりにミューがいうので、両親は困惑していた。



「はぁ……」

「ほらっ、きびきび歩け! ゆっくりしてると助けられる命も助けられなくなるぞ!」



 二回も魔力回復ポーションを飲んだことでずっと吐き気がしており、あまり周りに気をまわす余裕がなかった。



「助ける? って、か、火事!?」



 ようやく大森林が燃えていることに気づくミューの両親。

 遅すぎる反応だが、意識の混乱から襲撃者と同じ人族が目の前にいたのだから、火事まで気づかないのも仕方ないことなのかもしれない。



「あっ、そ、そうでした。私は突然コボルトとか言われて襲撃されたんでした」

「……獣人と聞いていたが、コボルト(まもの)だったのか?」

「ち、違いますよ!? 我々はれっきとした戌人族です」

「まぁ、それはこの際どっちでもいい。早く行くぞ!!」



 ふらつく体のまま、俺は大森林の方へと向かう。

 そんな俺をリフィルが支えてくれる。



「あまり無理しないでください。私もついてますから」

「無理なんてしてない。それよりも手伝ってくれるのなら遠慮なくその力、借りるぞ?」

「えぇ、もちろんです」



 こうして俺たちは再び炎の中へと入っていく。

 そんな俺の後姿を見ていたミューの両親。



「私たちはどうしましょうか……」

「あいつはまだ信じられないけど……」

「みんなを助けないと!!」



 ミューに最後の一押しを受けた両親はお互いの顔を見て頷きあう。



「そんなことを話してる場合じゃないのですよね」

「そうだな。あいつはすぐ襲ってこなかった。それが全てだな」

「もう、お兄ちゃんはパパとママを助けてくれた良い人なんだからねっ!!」

「そう……だな。人族はみんな悪、というわけではないのだな」

「ふふっ、人族の中では異端だったのかもしれませんよ。嫌われ王子と呼ばれているみたいですから」

「確かに獣人に力を貸してくれる人族なんて、同族から良いように思われないだろうしな」



 ようやく事情を納得した二人は、すっかり痛みが引いた体を触る。

 さすがにまだ疲れが残っているものの、この程度なら動かせなくない。


 立ち上がった後、三人は俺の後を追いかけてきて……あっという間に追い抜いてしまう。



「我々が先導します。ついてきてください!」

「あと、助けていただいてありがとうございます。このご恩は必ずお返しします」

「……わかった。なら皆助けるぞ!」




 こうして俺たちは戌人族の集落に向かって駆け出していくのだった。




 ◇◇◇◇◇◇




 自分たちの庭のような場所だからか、ミューの両親の案内は的確で迷うことなく俺たちは戌人族の集落にたどり着いていた。


 ただ、さすがに周りを炎に囲まれていては余裕がまるでない様子だった。



「消せ!! 早く火を消すんだ!!」

「ダメ……。火の回りが早くて消えない」

「女子供たちは逃げるんだ!!」

「ひ、火が囲っててどこに逃げるのよ!?」



 すでに家々に火が燃え移っており、男たちが水を必死にかけているが全然効果のない様子だった。



「つ、着きましたけど、どうしましょうか、これ……」



 すでに絶望的な状況であるために青ざめた表情を浮かべながらミューの母親が言ってくる。



「大森林を抜けてリンガイア王国側へ抜けるといい」

「し、しかし、そこは人間の領地で……」

「大丈夫だ。話はつけてある!」



 実際にリンガイア国王と話したわけではないが、大森林の先は俺の領地だから問題はないだろう。



「わかりました。ではそのように説明してきます」



 ミューの両親が他の獣人たちに話に言っている間に俺たちは近場で救助の手助けをする。



「ひぃぃ、人族がどうしてこんなところに!?」

「そんなこと言ってる場合か!! 子供を助けるんだろ!?」



 燃え盛る家の中に取り残された小さな獣人。

 それを見た俺は水玉を投げつける。


 付与魔法で強化された水玉は大量の水を生み出し、瞬く間に住宅の火を消していた。



「た、助かりました……」

「いや、まだだ」



 火は消えたものの、焼け焦げた住宅は脆く、今にも崩れ落ちそうで……。



「私にお任せください」



 そんな中、ルーウェルが一礼した後、姿を消し、次の瞬間には子供を助け出していた。

 そして、彼が抜けだしたあと、住宅は崩れていたためまさに間一髪と言えるタイミングだった。



「あ、ありがとうございます……。ありがとうございます……」

「気にするな。それよりもお前たちも避難しろ」

「えっと、どこに?」

「ミューたちが案内してくれる。リンガイア王国領だ」

「し、しかし、人間領に行っては奴隷にされるのでは……」

「領主様がそんなことするはずないじゃないですか!!」



 なぜかルーウェルが声を荒げる。

 そんなことをしては逆効果に思えるのだが。



「ルーウェル、こいつらは人間領のことを何も知らないんだ。最初のお前たちと一緒だろ? 実際に来て納得してもらうしかない」

「しかし、領主様が自ら助けに来ているのにこの扱いは……」

「俺は助かる命があるから助けてるだけだ。特に見返りをもらおうとしてるわけじゃないぞ?」



 領地の隣接地でもあるから、これに恩を感じて襲ってこなくなる。くらいのメリットはあるかもしれないが。



「えっと、あなた様が領主様?」

「あぁ、リンガイア王国の北を治めているテオドール・ガンツ伯爵だ。さすがにわだかまりはできるかもしれないが、奴隷落ちさせたりはしない。住宅は足りてないからテント暮らしとかになるかもしれないが、食料等は支給できるし、仮住まいにはいいんじゃないか?」

「……わかりました。人族は信用できませんがうちの子を助けてくれたあなた様のことは信じられます」

「お兄ちゃん、助けてくれてありがとー」



 手を振ってミューのところへ向かう親子。

 それを見送ったあと、俺たちは次の人を助けに行くのだった。




 ◇◇◇◇◇◇




 その後、多少のケガ人は出たもののミューの両親ほどの瀕死者は出ず、何とか火事現場から戌人族を助け出すことに成功する。


 しかし、二度の魔力回復ポーションを飲み、更には走り回ったうえで付与魔法や回復魔法を使ったものだから、体力、魔力共に限界に近かった。


 さすがにもう一度|魔力回復ポーションを飲む《ドーピング》をすると間違いなくリバースする。

 ふらつく足取りのまま、俺たちも獣人と共にこの場から逃げ出そうとする。


 そんなときに足が絡まり、倒れてしまう。



「テオドール様!?」



 リフィルが悲壮な声を上げる。



「大丈夫だ。すぐに起き上が……」



 安心させるように体を起こそうとするが、まったくいうことを聞いてくれない。

 火の手がすぐそこまで迫っているのに、体に限界が来てしまったようだった。


 朦朧とする意識の中、それでもなんとか這いつくばってでもその場から離れようとする。

 するとそんな時に襲い掛かってくる火の手目掛けて何かが放り込まれる。



 ドゴォォォォォォォォン!!



 強大な爆発音と共に炎が吹き飛ばされる。



「どうだい? 私の新魔道具、火消玉の力は」



 その時に現れたのは火避地を作ってくれていたリュリュだった。



「火消玉って結局は爆弾じゃないか……」



 助かった、と思うと急に体の疲れが押し寄せてくる。

 それでも彼女のいつも通りの態度を見ると皮肉を言わずにはいられなかった。



「な、なにをー!? そんなことを言っていられるのも今のうちだよ!」



 そんなことを言っているうちに次第に意識が遠のいていく。

 するとそのタイミングで突然誰かに背負われる。



「大丈夫ですか? しっかり捕まっていてください!」



 どうやら俺を助けてくれたのはミューの父親だった。



「すまんな。助かった」

「いえ、私たちの方が助けられましたよ。ここで領主様に傷でもつけようものなら自分が許せなくなります」



 どうやら俺たちの行動を見て、少しは信用をしてくれたようだった。



「むーっ、お兄ちゃんとパパが不穏な関係なの」



 ミューが頬を膨らませて文句を言う。



「えっ!? テオドール様、どういうことですか!?」



 なぜか慌ててるリフィルが俺の後を付きまとってくる。



「そ、それよりもまだここは危険な地だ! 早く逃げるぞ」

「……ほう、どこに逃げるつもりなんだ?」

「っ!?」



 突然知らない相手が会話に加わる。

 ただそれだけではなく、とてつもない威圧を放っている。


 それだけでこの人物がただ者ではないことがわかる。

 更にこの見た目。

 違うと信じたいのだが、脳内が同一人物であると訴えかけてくる。


 確かに現実の相手がずっと同じところにいるはずはない。

 それくらいわかるのだが。


 今この状況で……、というかそもそも絶対に会いたくなかった人物がそこにいた。



「お前は……?」

「我の名を知らぬか。この魔王サタンの名を!」



 そう。

 野生の魔王が突然草むらから飛び出してきたのだった――。

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