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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
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93/147

第92話  ラストゲーム 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗(かいと)が、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。


霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。


後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。

誘拐事件の翌日から、近辺では連続殺人事件が起こり始めた。


リナと慎吾は、黒幕が藤岡である事を突きとめるが、彼等のアジトで捕まってしまう。


慎吾達は藤岡の提案で、2人はロシアンルーレットをすることになる。5発連続弾が出ず・・・残り1発でリナに順番が回ってきた。


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   第92話  ラストゲーム


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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)


2012年12月19日(水)、23時59分58秒。目黒基地内。




カシャーン!!




何度目かの乾いた金属音が、部屋の中に鳴り響く。


そして・・・


タイムリミットを迎えた。



リナ「・・・ ・・・」



目を閉じたままのリナ。銃声は聞こえなかったが・・・

自分に向けられた銃・・・慎吾がその銃の引き金をひいたことだけは理解した。



(リナ「い・・・ 生きてる・・・ それとも・・・?」)



藤岡「・・・ ・・・」


慎吾「・・・ ・・・」


2人の男はにらみ合っている。


やがて慎吾が口を開いた。


慎吾「ニューナンブは・・・ 装弾数が5発。

    つまり、あなたが2度目の引き金をひいた時点で・・・


    5発全て・・・ 実弾など入っていなかった・・・」


(リナ「・・・ うそ・・・」)


藤岡「・・・ ・・・」


慎吾「でも、これで・・・ 【2回ずつ引き金をひく】・・・

    クリアしました。


    リナ先輩の妹を含め、僕たち3人は・・・

    少なくとも24時間は生きながらえる・・・ですよね?」


藤岡「・・・ ・・・」


じっと慎吾を睨み付けたままの藤岡。やがて左右の手を胸元にもってくると・・・



パン パン パン ・・・



乾いた拍手をした。


藤岡「見事だ。ミスターボンド。たった1つの・・・

    クリアルートを見つけるとは・・・


    正直、驚いたよ」


リナ「・・・ ・・・」


ようやくリナが目を開いた。


(リナ「・・・ い、生きてる・・・」)


そして死んではいない事を理解する。


リナ「な・・・ 何があったの・・・?」


涙が枯れた目を慎吾に向けた。慎吾もリナを見つめる。


慎吾「弾は・・・ 入ってなかったんです・・・ 最初から・・・」


リナ「・・・ それを・・・ 知ってたの・・・?」


かすれる声を絞り出すリナ。


慎吾「すいません・・・」


申し訳なさそうに慎吾は、深々と頭を下げた。


リナ「・・・ ・・・」


怒りの感情はない。


(リナ「知ってて・・・ 私に銃を向け、引き金をひいた・・・」)


いつものリナなら、怒り狂うところだろう。しかし何かしらの感情が沸いてくるほど、心はまだ安定していない。


リナ「どうして・・・ 弾がない事・・・

    教えてくれなかったの・・・?」


たどたどしく、聞きたい事を口にした。


慎吾「そ、それは・・・」


藤岡「俺が説明してやろう」


不意に藤岡が、2人の間に入り込んできた。


藤岡「ミスターボンドは、俺がゲームに興ざめする事がないよう・・・

    その銃に実弾が入っていない事を、君に黙っておいた。


    俺がゲームに覚めたら・・・ 君らを殺すかもと思ったんだろう。

    なぁ、ミスターボンド?」


小さく笑いながら、藤岡は慎吾の方を向いた。


慎吾「・・・ ・・・」


沈黙を保つ慎吾を、リナはじっと見つめている。


藤岡「俺は、絶対にクリアできないゲームを提供する事は無い。

    ミスターボンドは・・・」


リナに視線を戻した藤岡。


藤岡「唯一クリア出来るルートを、確実に辿った。

    ただ、それだけだ・・・」


リナの横で、再び慎吾が頭を下げる。


慎吾「ホントに・・・ ごめんなさい・・・」


リナ「・・・ ・・・」


リナには何がどうなっているのか・・・ 未だによくわかっていない。ただ、目の前にいる男2人は、この事態をよく理解しているようだ。


藤岡「これまで、何度となくこのゲームをしてきたが・・・

    大抵は俺に銃を向け、射殺されるんだがな・・・。


    本当に見事だよ、ミスターボンド」


再び藤岡は、手をパンパンと叩いて拍手した。


藤岡「これで・・・俺が提示した3つのゲームを、君らはクリアした。

    妹も含め、君達3人の命。これから24時間、すなわち・・・


    20日の24時までは保証しよう」


リナ「・・・ ・・・」


ゆっくりと、この場の危機だけは脱した事を理解する。


藤岡「・・・ ・・・」


視線をリナから、慎吾へ移す。


藤岡「ミスターボンド・・・ 君とは後で話すとして・・・」


そして再びリナに視線を戻す。


藤岡「羽鳥教授の娘、羽鳥リナ。君に・・・次のゲーム参加を要請しよう」


リナ「・・・ ・・・」


藤岡の言葉が頭に入ってくるまで、時間を要した。


藤岡「君の妹・羽鳥雛子の・・・ 完全解放をかけたゲームだ」


リナ「・・・ 雛(ひな)・・・」


藤岡「どうだ? 次のゲームに参加するか?

    クリアすれば、君も妹も・・・


    24時間などと言わず、完全に解放する」


リナ「・・・ ・・・」


じっと藤岡を見るリナ。


藤岡「・・・ ・・・」


返事しないリナを無視して、藤岡はテーブルの下からノートパソコンを取りだした。

2人の脳波DATAを見ているノートパソコンとは、別のPCだ。


藤岡「・・・ ・・・」


無言で2台目のPCを起動させる。


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾はその様子を黙って見ていた。


やがて起動したパソコンを操作し、藤岡はあるサイトを表示させる。ノートパソコンをくるりと反転させ、リナの方に向けた。


藤岡「この2つのサイト・・・1つはウィーン大学。

    もう1つはザルツブルグ・モーツァルテウム大学のサイトだ。


    両大学のサーバに侵入するというのが・・・次のゲームだ」


リナ「・・・ ・・・」


慎吾「な、何故、その大学に侵入を・・・?」


慎吾を睨み付ける藤岡。


藤岡「その質問に応えるつもりはない。

    ただ、この大学のサーバに侵入してくれれば・・・


    羽鳥雛子、および羽鳥リナを完全解放する。それは約束する」


慎吾「も、もし・・・」


藤岡「ミスターボンド。君とはまた後で、話をする。

    そう言ったはずだ」


そしてリナの方を向いた。


藤岡「ゲーム参加する・・・ で、いいかな?

    クリアしようがしまいが・・・


    これが君にとってのラストゲームになる」


リナ「・・・ ・・・ も、もし・・・」


まだボヤッとしている頭を働かせ、リナが声を出す。


リナ「・・・ ゲームを・・・ クリア出来なかったら・・・?」


ニヤリと笑った藤岡。


藤岡「【HH】を殺す」


リナ「い、妹を・・・」


藤岡「正確には、妹【も】だ」


リナ「・・・ ・・・?」


藤岡「ふ。まだ頭が動いていないようだな。

    君らは、【ABC】殺人の【G】を止めた。


    ならば【H】を2人殺して、帳尻を合わせようってわけさ」


リナ「ふ・・・ 2人・・・?」


藤岡「その調子だと・・・ ゲームクリアはほど遠いぞ。羽鳥リナ。

    母親の名前を言ってみろ」


眼鏡をかけ直しながら、藤岡はリナに命じた。


リナ「羽鳥・・・ 瞳・・・ 」


慎吾「あ・・・ イニシャルが・・・ 【HH】だ・・・」


藤岡「旧姓も長谷川。純粋な【HH】だ」


慎吾「で、でも・・・ 今、彼女は湾岸警察署で保護されているはず」


藤岡のアジトに来る前、警視庁のサイトで確認済みの情報だ。


藤岡「くっくっく。羽鳥リナの前の彼氏は・・・

    どこで死んだかお忘れかな?」


慎吾「あ・・・」


ヒロ・ハーグリーブスが、湾岸警察署内で射殺された事を思い出す。


藤岡「2つの大学サーバに侵入すれば、ゲームクリア。

    羽鳥家の住人は全てセーフティ。


    しかしクリア出来なければ・・・君以外の【HH】2人は死ぬ」


リナ「・・・ ・・・」


リナはゆっくり、目の前のノートパソコンを手前に持ってきた。


そして、いつものキレはないが、高速でキーボードを叩き始める。

    

だが・・・


リナ「・・・ ・・・」


わずか1分程で、リナはその手を止めた。


リナ「ハ・・・ ハドリアンズ・ウォール・・・」


その言葉を聞いて、藤岡は笑みを浮かべる。


藤岡「そうだ。その大学のサーバは・・・

    君の父親のセキュリティが、守り通している」


リナ「・・・ ・・・」


藤岡「そのセキュリティの強固さは、俺もよく知っている。

    だから制限時間は24時間。


    24時間で・・・ ハドリアンズ・ウォールの高き壁。

    すなわち、自身の父を超えられるか?」


リナ「・・・ ・・・」


じっとパソコンの画面を見続けているリナ。リナはこれまで、いろいろなサーバに侵入してきたが・・・ハドリアンズ・ウォールだけは突破したことがない。


警視庁のサイトはハドリアンズ・ウォールに守られていて、リナは自由にそのサイトに出入りしているが・・・


それは警視庁がハドリアンズ・ウォールをインストールする前、警視庁サーバに自分の領域を確保していたから。すなわち、ハドリアンズ・ウォールを突破したわけではない。


藤岡「父を超えればゲームクリア。君も妹も完全解放される。

    しかしクリアできなければ・・・ 妹と母親は死ぬ。


    ルールは理解したな?」


リナ「・・・ ・・・」


藤岡「羽鳥教授もそうだったが、君らのような人種は・・・

     自分の危険よりも、身内の危険の方を嫌うからな」


4年前・・・ハドリアンズ・ウォールが販売されてから、未だにそのウォールをくぐり抜けた者はいないという。


天才数学者だったリナの父親・魁斗が、素因数分解に関するある事実を示し、それを応用したと言われるセキュリティソフト。


ウォールの突破はおろか、そのソフトですら解析に成功した者はいない。


リナ「・・・ ・・・」


今の状況を考えると・・・ 選択の余地はない。リナは静かに・・・ 頷(うなず)いた。


それを見た藤岡は、ニヤリと笑う。


藤岡「よし! この時点でゲームは開始された。

    タイムリミットは、今日の24時まで。


    今から君に別室を用意する。

    そこで、ゲームクリアに励んでもらおう」


慎吾「別室に!?」


慎吾はやや焦った表情を浮かべて、声を出した。


リナ「べ・・・ 別室?」


藤岡「君の父親・羽鳥教授が・・・ 4年前に監禁された場所だ」


リナ「パ・・・ パパが・・・?」


藤岡「暖房もある快適な部屋だ。水・食事も用意する。

    毒物など入れる事はないから、安心しろ」


そう言うと藤岡は指をパチンと鳴らした。


後ろに立っていた覆面男2人が、リナの両腕を抱え、席から立たせる。

    

慎吾「リ・・・ リナ先輩・・・」


まだ体に力は入らないリナは、男らにされるがまま、席を立つ。この部屋に入った時にかぶらされた、脳波をはかる装置を頭から外されると・・・そのままどこかへ連れて行かれた。


その様子を見届ける藤岡、そして何も言えない慎吾。


藤岡「さて・・・」


リナが部屋を出て行ったのを確認すると


藤岡「ミスターボンド。君ほどの人材・・・

    なるべく、心も体も壊したくはない・・・」


不適な笑みを浮かべて、慎吾に視線を突き刺す。慎吾はゴクリと唾を飲み込んだ。


藤岡「君には聞きたい事がいくつかある。


    出来れば、拷問抜きでな・・・」


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾は絶体絶命の立場にあると自覚していた。



何故ならここには・・・





           (第93話へ続く)

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次回予告


リナは別室で、必死にキーボードを叩き続ける。

しかし・・・ 強固なハドリアンズ・ウォールを突破できない。


一方慎吾は、藤岡に自白剤をうたれ意識(いしき)朦朧(もうろう)とする。

そして急に苦しみだしたかと思うと・・・



次回 「 第93話  自白剤 」

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