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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
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第90話  フィフティ・フィフティ

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗かいとが、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。


霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。


後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。

誘拐事件の翌日から、近辺では連続殺人事件が起こり始めた。


リナと慎吾は、黒幕が藤岡である事を突きとめ・・・

リナの妹がいる部屋の直前まで来たが、敵のトラップにかかってしまう。


藤岡は慎吾達の命を賭け、ゲームをしようと言い出し・・・

2人はロシアンルーレットを、強制的にさせられることになった。


最初にゲームをクリアしたのは・・・ 慎吾だった。


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   第90話  フィフティ・フィフティ


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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)


2012年12月19日(水)、23時36分。目黒基地内。


藤岡「・・・ ・・・」


テーブルの上にあるニューナンブを見つめる藤岡。ふと、正面に視線を合わせると・・・


肩で息をし、汗だく状態の慎吾がいる。


慎吾「ハァ・・・ ハァ・・・」


その横では、やや落ち着きを取り戻したリナが、慎吾の手を握っていた。


リナ「・・・ ・・・」


その瞳は・・・ まだ暗く沈んでいる。だが、頭の中では・・・後悔の念があった。


(リナ「もし私が・・・ あいつにゲーム参加を提案しなければ・・・」)


本来6分の1で実弾が出るゲーム・・・ロシアンルーレット。

慎吾とリナ・・・それぞれ2回ずつ引き金を引き、生還するのがクリア条件だった。


最初に慎吾が引き金を引き、生還。直後リナは、藤岡にゲーム参加を提案。予想とは裏腹に・・・藤岡はゲームに参加。


2番目の引き金を藤岡が引き、彼は生き延びた。

3番目の引き金をリナが引き・・・ そして今、慎吾が引き金をひいた事で・・・


4連続実弾が発射されなかった事になる。


(リナ「慎吾と私だけだったら・・・ ゲームをクリアしていた・・・」)


そう考えると・・・後悔の念がわいてきた。


(リナ「・・・・ でも・・・」)


チラリと藤岡の方を見る。


藤岡「・・・ ・・・」


彼はニューナンブを見つめ、何かを考えている様子だった。



・・・ ・・・。


そのまま・・・ 5分以上の時が流れた。



藤岡「33%の状況で、引き金をひくとは・・・

    度胸があるとは、言い難いな」


慎吾に視線を向け、小さく声をかける。


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾にはまだ、口を開く余裕がない。


リナ「・・・ ・・・」


そしてリナにも。2人共、かなり憔悴しょうすいしきっている様子だ。


藤岡「12月22日の午前零時を過ぎた頃・・・


    世界が変わる・・・」


唐突に藤岡が語り始めた。


藤岡「我々の組織は・・・ ある計画を進行中でな。

    プロジェクト・ノアと呼んでいる」


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾が顔を上げ、藤岡の方を向いた。


藤岡「すでに世界人口は70億を超えたが・・・ (※2012年の話)

    その大半は、生きる価値すらない人種だ」


リナ「・・・ ・・・」


リナも藤岡の方を向く。


藤岡「この世界の・・・ 多くの人間を抹殺する予定だ。

    残った者で・・・新世界を作る」


(リナ「テロ計画の・・・ 事・・・?」)


リナは前日、ヒロがハドリアンズ・ウォールで守らせたサイトで、その情報を見た。そのサイトには・・・


(リナ「世界人口の99.999%が・・・

     テロの犠牲になると、書かれていた」)


藤岡「選ばれし者・・・ その人選はすでに終わっている。

    この世界を堕落させた者は全て消え去り・・・


    新世界に住む住人・・・優れた人類だけを繁栄させていく予定だ」


部屋の中のBGMは・・・いつしか、リヒャルトシュトラウスの【ツァラトゥストラはかく語りき】が流れている。


藤岡「ふふ。ツァラトゥストラも、それを望んでいるしな」


慎吾「ツァ・・・」


肩で息をしている慎吾が、口を開いた。


慎吾「ツァラトゥストラは・・・ そんな事を望んでいません・・・」


藤岡「・・・ ・・・」


少しばかり驚いた表情を見せる藤岡。


藤岡「ほう・・・ ツァラトゥストラを知っているのか?」


慎吾「ツァラトゥストラは・・・ ニーチェの分身。

    彼はそんな事を望んで・・・


    【ツァラトゥストラはかく語りき】を執筆したんじゃない・・・」


藤岡「面白い。未成年の君が、ニーチェを理解していると?

    史学部とやらで、少しぐらい学んだ程度では?」


慎吾「彼の思想は・・・ 時にあなたのような人間に・・・

    利用される。ナチの時もそうだった・・・」


藤岡「だが、彼はこう言ってるぞ。

    人間は誇りをもって、生きることができないとき・・・


    誇らしげに死ぬべきであると」


慎吾「解釈の違いです・・・。実際彼の思想は、ナチにも悪用された。

    彼の真意は・・・人間の可能性を説いている事にあります。


    もっと強く・・・そしてもっと高貴な存在に人はなれると・・・」


藤岡「ふっふっふ。実に君はユニークな存在だ。

    余計な議論は避け、1つの事実を言ってやろう。


    2012年12月22日、日本時間午前零時。

    日本を起点とし、世界に順序よく大いなる正午が訪れる・・・」


慎吾「大いなる・・正午・・・」


リナも聞き耳を立てているが、男達の会話の意味は全く理解出来ない。


藤岡「あぁ、その時を迎えれば・・・ 宗教、政治、愛、戦争、環境・・・

    この世にある、全てが無価値となる。


    そして我々が新世界を創造し、選ばれし者に与えてやる。

    真の生きるという価値、そして理想をな」


慎吾「た、ただの独裁的思想・・・ あなたは、ヒトラーと同じだ。

    ユダヤ人を大量に殺したように・・・


    世界中の人々を殺す気なんだ・・・」


藤岡「全世界の95%以上の人間は・・・神を信じているという。

    とうの昔に神は死んだ。そして神を信じる者もやがて死ぬ。


    俺が、新世界の神となってやるさ。ははは」


リナ「ごちゃごちゃ・・・」


ずっと沈黙を保っていたリナが、久しぶりに声を発した。藤岡を睨み付けながら・・・腹の底から声を出す。


リナ「ごちゃごちゃ言ってないで・・・ 早くゲームを進行させなさいよ」


慎吾「リ、リナ先輩・・・」


リナ「さっきから聞いていれば・・・ どうでもいいことばかり・・・

    大いなる正午がどうか知らないけど・・・


    その前にあんたがゲームをクリアしてるわけ?」


藤岡「・・・ ・・・」


藤岡はじっとリナを見つめる。


リナ「話でごまかして・・・ 引き金をひかない魂胆、見え見えよ!

    とっとと銃を頭にあてて、引き金をひくか・・・


    負けを認めて、私達3人を解放するかよ!!」


藤岡の演説を、ゲームから意識をそらすためとよんだリナ。強気で藤岡に言い寄った。


藤岡「・・・ ・・・」


しばらくリナを見つめていた藤岡。ちらりと時計を見る。


(藤岡「11時47分か・・・」)


時計を確認した藤岡は、再びリナに視線を合わせた。


藤岡「もう少し時間を稼ぎたかったが・・・ いいだろう」


そう言うと藤岡は、ニューナンブを右手で握りしめた。


藤岡「俺がゲームの勝敗を反古ほごにするとでも?

    大きな勘違いだ・・・」


そして自分のこめかみに銃口を向けた。


リナ「・・・ ・・・」


慎吾「・・・ ・・・」


(リナ「引き金を・・・ひけるわけがない・・・50%なのよ・・・?」)


藤岡「くっくっく。君の考えている事はよくわかる。羽鳥教授の娘。

    俺が死ぬ確率は、フィフティ・フィフティ。


    そんな状況で、引き金がひけるわけがない・・・とね」


藤岡は大きく深呼吸をした。


リナ「・・・ ・・・」


藤岡の右手が・・・震えているのが見える。


(リナ「ひ、ひけるわけがない・・・  ひけるわけがないわ・・・」)


藤岡「俺が無駄話をしていたのは、自分の勝負を避けるためではない」


引き金にかけた人差し指に力が入る。


藤岡「何故なら俺は・・・」





カシャーン!!





5度目の乾いた金属音が・・・ 部屋中に鳴り響いた。


藤岡「選ばれし者だからな」


リナ「な・・・」


慎吾「・・・ ・・・」


そして藤岡は銃を置き


藤岡「俺が無駄話をしていたのは・・・ 君の時間を奪うため。

    残り時間は約10分・・・」


リナの目の前に銃を滑らせた。


リナ「・・・ ・・・」


滑ってきた銃を・・・呆然と見つめるリナ。


藤岡「さぁ・・・ 自分がまいた種。拾って貰おうか」


リナ「・・・ ・・・」




           (第91話へ続く)

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次回予告


声も出せないリナ。


銃を握る事すら出来ないまま・・・残り時間だけが、刻々と過ぎていった。



次回 「 第91話  信  頼 」

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