第62話 4人目の犠牲者
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。
霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾を連れて実家へ戻ったリナ。誘拐犯は期限内に1億を差し出さなければ、雛子を殺すと宣言。
後藤と藤岡は4年越しで、再び羽鳥家の誘拐事件を担当する。
誘拐事件の翌日から、リナの実家の近辺で連続殺人が起こる。
慎吾が2人の捜査官に追求されている時、4人目の犠牲者が・・・?
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第62話 4人目の犠牲者
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(誘拐犯が示したタイムリミット・・・12月19日24時)
2012年12月16日(日)、午後4時34分。都内某所。
ヴーン ヴーン ヴーン ・・・
男はバイブした携帯電話を右手に持つと、着信表示が【非通知】である事を確認した。逡巡した後、着信ボタンを押して電話に出る。
「もしもし・・・?」
男の名は江口。ある都立高校で英語教諭をしている。
声「やぁ、江口先生。久しぶりだな」
電話の向こうから、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
江口「・・・。誰だ?」
声「ふふ。私の声をお忘れかな?」
聞き覚えのない・・・
(江口「いや・・・」)
4年前に聞いた事のある声だ。
江口「・・・ ・・・ 知らん・・・」
忘れていた嫌な記憶が甦った。
声「虐待防止センターの者さ。4年前にも連絡しただろう?」
江口「・・・ ・・・」
今から4年前・・・。
英語教諭の江口詠蔵は、とある男から連絡を受けた。
虐待防止センター職員だというその男は、隠密にリナの身辺調査を依頼。江口は要求された通り、羽鳥邸の間取りや部屋の数、リナのピアノ講師・ヒロの存在などを逐一報告した。その度に、数万円の報酬を受け取っている。
途中でこの調査がおかしいと感じたものの・・・現金を受け取った手前、相手の依頼を断る事ができなかった。そしてリナを学校に足止めするという最後の依頼を遂行し、50万円の高額報酬を受け取る。
しかし・・・ その後、リナは何者かに誘拐された。秋津駅、さらには湾岸警察署では銃撃戦にも巻き込まれている。
江口はこれらの話を、聞き込み捜査をしている警察から直接聞いた。事情聴取を受けたものの、自身が疑われる事は全くなかった。この事件はまだ捜査中で、他言無用と警察に念を押されたが・・・
明らかにこの事件の片棒を担いでいたと、江口は自覚している。もちろん警察には自分の不利になるような事は一言も喋っていない。
事件に巻き込まれたリナが、警察署内で3mの高さから床にたたきつけられた事、奇跡的に命に別状はなかった事も耳に入っている。
リナが生きていた・・・それだけが江口にとって、良心の呵責に耐えうる事実だった。
50万を受け取った後、男の指示で別の都立高校へ転勤。リナのいた高校からは遙か遠く離れた高校で、この4年間教鞭を執っている。
そしてあの事件以降、リナと会った事はない。
江口「・・・。もう、あんな思いはしたくないし、生徒にもさせたくない」
声「ほう・・・
しっかり金を受け取ったあんたが、きれい事を言うとはな。
まぁよい。1つ頼み事がある」
江口「断る!」
江口は即座に返事した。
声「まぁ話を聞け。聞いた後で断るのは自由だ」
江口「・・・ ・・・」
声「ある仕事をしてもらいたい。報酬は200万円だ」
江口「200万!?」
あまりの高額報酬に、江口は驚きの声をあげる。
江口「しかし・・・ また、誰かが危険な目に合うんだろう・・・?」
声「今回はお前の生徒や、周りの人物が危険な目に合う事は一切無い。
その点は約束しよう。それともう1つ・・・
この仕事が、本当に最後の依頼だという事も約束する」
江口「・・・ ・・・」
声「どうだ? 仕事内容を話してもいいかな?」
しばらく沈黙を保っていた江口。
江口「一応・・・ 話だけは聞こうか」
話を聞く事にした。
声「この会話が録音されたり、他の者に聞かれては困る。
直接話をしたい。そうだな・・・
今日の夜12時頃、恵比寿駅まで来てくれるか?」
江口「・・・ 断ったら?」
声「断るのは自由さ。ただ、明日は月曜日だぞ?
借金取りが、また押し寄せてくるな・・・」
江口「・・・ ・・・」
4年前の事件後・・・江口は新しい環境で、ギャンブルに手を染めた。良心の呵責から逃げるため、パチンコや競馬、競艇、競輪と、あらゆるギャンブルに手を出してしまった。
ギャンブルに夢中になっている時だけは・・・ 自分がしてしまった事の責任から、解放された気になった。しかし現実世界に戻ると・・・その責任が重荷となって体中を締め付ける。
それから逃れるために、またギャンブル・・・ まさに悪循環だった。
気がついたら・・・
声「借金170万か・・・。教師のくせに、人生落ちぶれたものだな」
江口「・・・ ・・・」
声「200万あれば・・・ そっくり返して、お釣りがくるぞ?
それでも断るなら自由だがな」
江口「・・・ ・・・」
声の主の言う通り、この一仕事さえ引き受ければ借金も帳消し。それどころか30万も余分に金が入る。
声「来てくれれば、その場で前金で50万を払おう。
仕事を終えたら、さらに150万」
江口「き、来ただけで50万も?」
声「あぁ」
(江口「とりあえず、明日の借金取りに一部の金を返せる・・・」)
借金生活から逃れるまたとないチャンス・・・そう考えた江口。
江口「・・・わかった。12時に・・・恵比寿駅に行けばいいんだな?」
依頼を引き受ける決断を下した。
声「あぁ、東口にいろ。
ちょうど12時にお前の携帯に電話を入れ、会う場所を指示する
携帯番号は変わってないな?」
江口「4年前と・・・同じだ」
声「では12時に。50万はキャッシュ、その場で渡す」
直後、電話が切れる。
江口「・・・ ・・・」
携帯を切った江口は
江口「今度こそ・・・ 最後・・・」
大きな深呼吸をした。
・・・ ・・・。
江口への電話を切った声の主は、一息ついた。
「ふふ。周りの人物が危険な目に合う事は一切無い・・・
それは確かだがな・・・」
・・・ ・・・。
午後9時44分。羽鳥邸、応接室。
携帯電話を切った後藤に、藤岡が声をかけた。
藤岡「堂島が・・・ 心肺停止で病院に運ばれた!?」
後藤「あぁ・・・」
後藤は目を閉じ、天を仰ぐ。大きなため息をついた後、藤岡を見て口を開いた。
後藤「これからだが・・・」
この状況を考えると、これからやるべき仕事がある。
藤岡「俺が行きますよ」
察した藤岡が後藤に返す。後藤は慎吾を見ながら、再び口を開いた。
後藤「今、我々は容疑者を目の前にして、また別の事件が起こった・・・」
藤岡「誰かが現場に行って、誰かがここに残らなければいけません。
源さんはここにいてください。俺が行ってきます」
後藤「しかしお前は・・・ 来たばかりだぞ」
申し訳なさそうに言う後藤。
藤岡「ハッキリ言いますが、源さんは・・・ 年です。
すでに12時間、ここに常駐しています。
さらにこの後寒空の中、現場へ向かうのは余りにも酷」
遠慮せずに藤岡は言い放つ。
後藤「・・・ 言い返せねぇじゃねぇか・・・。
正直10時過ぎたら、家に帰ってすぐ寝るつもりだったからな」
藤岡「俺が現場に行きます。その代わり、戻るまで・・・」
立ち上がりながら、藤岡は慎吾を睨む。
後藤「わかってるよ。この男を見張ってればいいんだろ?」
深く頷く藤岡。
藤岡「じゃぁ、俺は・・・
ひとっ走り田園調布までパトカー走らせます。
情報は逐一連絡しますので」
慎吾を睨み付けたまま、後藤に声をかけた藤岡。席を立ち、コートを手にすると、羽鳥邸を出て行った。
残った後藤が慎吾に声をかける。
後藤「悪いが君は、もうしばらくここにいるんだ。
藤岡から連絡があるまでな」
慎吾「・・・ ・・・」
自分が疑われている事よりも、4人目の犠牲者が出そうな状況に心を痛める。
(慎吾「やっぱり、田園調布だった・・・
堂島さんって人・・・ 大丈夫かな?」)
腕組みをした後藤に睨み付けられる中・・・ソファに座る慎吾は、いろいろな思いを巡らせる。
(慎吾「このままだと・・・ 明日も誰かが・・・」)
慎吾は翌日も事件が起こりうる【E】駅の事を考えた。しかし、都内の駅など全く知らない慎吾。【E】で始まる駅で思い浮かぶのは・・・
(慎吾「恵比寿・・・? 江戸川・・・?」)
この2つぐらいしかないし、それらの駅がどこにあるのかもわからない。そこで慎吾は・・・
(慎吾「この連続殺人事件の先には・・・ 何があるのだろう?」)
と、考え始めた。そしてすぐに・・・この連続殺人事件のシナリオが見えた。
(慎吾「そ、そうか・・・。だとしたら、やっぱり殺人犯は・・・」)
・・・ ・・・。
12月17日(月)、午前1時14分。羽鳥邸、応接室。
大きなあくびをしていた後藤の携帯が、不意に鳴った。着信【藤岡】を確認した後、すぐに電話に出る。
後藤「もしもし・・・あぁ・・・うん。それで・・・?」
後藤の正面に座る慎吾は、電話のやりとりを見ていた。
後藤「そうか・・・ ダメだったか・・・」
後藤は残念そうな表情を浮かべた。その様子を見ていた慎吾は
(慎吾「堂島さん・・・ 亡くなったんだ・・・」)
そう理解する。
後藤「あぁ、わかった。こちらに動きはない。
うん。あぁ・・・ あまり急がなくていい」
携帯を切った後藤は、慎吾に声をかけた。
後藤「もう、部屋に戻っていいぞ」
言葉を受けた慎吾は、ゆっくりとソファから立ちあがる。
慎吾「・・・ あの・・・ 僕の疑いは・・・ 晴れたのでしょうか?」
後藤はじっと慎吾を睨んだ。
後藤「確かに今日、君は家から出てない。そして田園調布で事件は起きた。
しかしこの事件に関して、警察はかなり慎重だ。
今日の件だけで・・・
今までの君の怪しい行動が、全てクリアというわけではない」
慎吾「つまり、まだ完全に疑いが晴れたというわけではない・・・
というわけですね?」
後藤「そうだ。引き続き、明日・・・ いや、すでに今日か。
君は外出禁止だ」
慎吾「・・・ わかりました。それでは・・・ お休みなさい」
軽くお辞儀をした慎吾は、自分の部屋へと戻っていった。
・・・ ・・・。
午前1時58分。羽鳥邸、応接室。
藤岡「救急隊員が駆けつけた時には・・・もう脈がなかったそうです」
後藤「そうか・・・」
藤岡「残念です・・・」
後藤「・・・ ・・・」
羽鳥邸に再び戻ってきた藤岡は、これまでの状況を後藤に説明した。
亡くなった堂島大悟。12月16日の午後6時から12時の間で、田園調布駅の警戒にあたっていた一人だった。
藤岡から、田園調布に近づかぬよう言われたが・・・正義感が人一倍強い堂島は、任務遂行のため田園調布に向かう。
同時間、同駅警戒に動員された警察官は20人。午後9時半まで、彼やその周辺に異常は無かったと、周りの者が証言している。
しかし午後9時半が過ぎた頃・・・
突然、堂島は胸をおさえて前かがみに倒れた。激しい嘔吐を繰り返し、口から泡を吹き出した後・・・意識を失う。かけつけた同僚が、すぐに救急車を手配。4分後に救急隊員がかけつけたものの・・・
すでに脈はなかった。そして搬送先の病院で、死亡が確認された。
後藤「死因は・・・?」
藤岡「くわしくは司法解剖で判明するでしょうが・・・
毒物の可能性が高そうですね」
後藤「毒物? なんてこった・・・。
正義感の強い、いい警官だったのに・・・」
後藤は首を横に振った。
後藤「まさか・・・一連の事件で、警察側の人間まで殺されるとは・・・
しかしどうやって犯人は・・・?」
藤岡「わかりません。司法解剖を待つだけですね、今は・・・」
後藤「そうか・・・」
目を閉じながら後藤は天を仰いだ。
藤岡「とりあえず今、署では次の【E】駅での緊急配備を調整中です。
ただ、【E】駅が多すぎて・・・
機動隊と警察だけでは、十分な警戒が出来ないという判断で・・・
JSSなど、民間の警備会社にも動員をかけているとの事です」
※JSS = Japan Security Service(警備保障事業)
永福町 江古田 越中島 江戸川 江戸川橋
荏原中延 荏原町 恵比寿 (50音順)
都内にある【E】駅は8つ。
藤岡「田園調布で、警戒にあたっていたのは20人。
その中でも、人が亡くなったので・・・
明日は駅の規模に応じて、30~40人を配置するそうです」
後藤は、うんうんと頷く。
藤岡「徹夜で調整を急いで、始発前の朝4時には・・・
全ての【E】駅で、警戒態勢が整っているはずです」
後藤「そうか・・・」
深いため息をついた後藤。しばらく藤岡を見つめた後、声をかけた。
後藤「なぁ、藤岡。あの慎吾という男は・・・ シロか?」
即座に藤岡は首を横に振る。
藤岡「シロと断定するには早すぎます。
共犯者の存在も十分考えられますから」
後藤「・・・ そうだな・・・」
藤岡「それにあいつは・・・、田園調布を警戒しろと言ってました。
これは予告殺人・・・そうとも受け取れないでしょうか?」
後藤「確かに。我々が見張っている状況で・・・
共犯者に堂島を殺させた。その線もありうるか・・・」
同僚を失った哀しみと・・・
連日の殺人事件、そして羽鳥家誘拐事件の対応で疲弊しきった後藤は、無表情で何度目かのため息をついた。
藤岡「・・・ 源さん。
昨日から今日にかけて・・・遅くまでお疲れ様でした。
後は俺がここに留まりますので。
次は朝10時でなく、12時まで俺がいても構いませんよ」
羽鳥家では、後藤と藤岡が交代で常駐する事になっている。交代時間は朝と夜の10時だ。
後藤「いや、10時に来るさ。金曜夜に誘拐犯から電話があった時・・・
次は3日後・・・
すなわち今日、月曜に連絡すると言っていたからな」
藤岡「わかりました。あまり無理をなさらずに」
後藤「お前の方こそ。あまり寝てないんだろ?」
首を横に振る藤岡。
藤岡「俺は大丈夫ですよ。寝る時間がもったいないですから」
後藤「まぁ、何も言うまい。とっとと帰って一眠りしてくるよ」
そう言って後藤は羽鳥邸を後にした。
藤岡「・・・ ・・・」
玄関先で後藤を見送った藤岡は、応接室に戻りソファに座る。そしてノートパソコンを開いて、深呼吸した。
(藤岡「日曜日は【D】、月曜日は【E】。そして火曜日は・・・」)
自分の名前が【F】から始まる藤岡は、ノートパソコンを静かに操作し始めた。
(第63話へ続く)
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次回予告
藤岡は警視庁のサイトに、何者かが不正アクセスをしているのを見つけた。そんな中、藤岡の携帯に連絡が入る。
4人目の犠牲者に続き、5人目の犠牲者も出てしまったという報告だった。
次回 「 第63話 連続殺人のシナリオ 」
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