第39話 唯一のミス(2008年)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回までのあらすじ
2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。
話は・・・ 4年前の2008年。
リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。
リナの父親・魁斗は、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。
イギリスから帰国したリナの母親・瞳。レインボーブリッジでバイクに乗ったヒロは、瞳の用意したお金を奪い去る。
一方、自力で監禁場所から脱出した羽鳥魁斗。マスターの追っ手に再び狙われるが・・・。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第39話 唯一のミス(2008年)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2008年12月10日(水)、午後10時24分。
羽鳥コーポレーション、2階。
多くの警察官に囲まれ、抱き合う瞳とリナの姿があった。瞳は涙を流しながら、リナを力の限り抱きしめる。
イギリスに長期出張していた瞳。長女リナとは、実に半年ぶりの再会だ。
リナ「ママ・・・ もう大丈夫だから・・・」
強烈な抱擁にやや嫌気をさしたリナが、少しばかり母親を突き放す。瞳はリナの両肩を力強く握りしめ、問いかけた。
瞳「パパは!? 一緒じゃなかったの!?」
リナは首を横に振る。
リナ「今、ヒロ先生が・・・パパを助けに行ってるはずなの・・・」
瞳にとって憎むべき男の名が、娘の口から出てきた。
瞳「ヒロ!? ハーグリーブスの事ね!!
夫を誘拐し、あなたも危険な目に合わせた!!」
リナはさらに大きく、首を横に振る。
リナ「ち、違うわ、ママ! ヒロ先生は味方!
私を守って、パパも救おうとしているの!」
瞳「何を言ってるの!? 危険な目にあっておかしな事を!」
リナ「私は正気!
おかしいのは、ヒロ先生を犯人扱いしている警察の方!」
リナは毅然と言い放った。その姿を見た瞳は、強く首を横に振る。
瞳「・・・ ・・・」
涙目で、リナに何か言いたげだったが・・・何も言わず、再び強く抱きしめた。
・・・ ・・・。
15分後、後藤と藤岡が羽鳥コーポレーションに姿を現す。ばつの悪そうな表情を浮かべた後藤が、瞳に声をかけた。
後藤「非常に申し訳ないですが・・・ 容疑者は未だ逃走中です」
その言葉を受け、瞳は目を大きく見開く。
瞳「な・・・ まだ捕まえていないの!? 警察は何をしているの!!」
後藤「返す言葉がありません・・・・」
後藤は口を真一文字にして、頭を下げた。瞳はイライラしながら、言葉を続ける。
瞳「夫は!? 都立病院にいるって言ってたわよね!?」
後藤「それが・・・ まだ確保できていません」
瞳の頭に、一気に血が上りつめた。
瞳「な、な・・・」
声にならない怒り・・・それを抑える事ができない状態だ。後藤の背後に隠れていた藤岡。怒り心頭の瞳の前に立つと、動じることなく声をかけた。
藤岡「お怒りはごもっともです。
しかし今すぐ、あなたと娘さんを署に移さねばなりません」
眉をつりあげた瞳が、藤岡を睨む。
瞳「何故!? 自宅に帰るんじゃないの!?」
藤岡「容疑者は未だ逃走中。
ハーグリーブスを確保するまで、自宅は危険と判断します。
お手数ですが、今すぐ署への移動を願います」
あくまでも冷静に応える藤岡。数秒ほどイライラした表情を浮かべた瞳は・・・
瞳「わかったわ!」
吐き捨てるように声をかけた。
・・・ ・・・。
約10分前・・・午後10時31分。都立病院、駐車場。
都立病院に着いたヒロは、駐車場で不審な黒いライトバンを見つけた。車の運転手と、助手席に男2人がいる。病院には似つかわしくない、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の男達だ。
ヒロ「・・・ ・・・」
車の背後から近づいたヒロは、助手席の窓をコンコンと叩く。助手席の男はヒロに気づいたが、視線をそらして無視した。再びヒロは窓を叩く。
やげて、助手席のウィンドウが機械音をたてて開いた。
男「何だ、お前は?」
あからさまに不機嫌な表情で、ヒロを睨み付ける。
ヒロ「羽鳥魁斗はまだか?
こっちは、ずっと護送ルートを抑えているんだぞ!」
やや、キレ気味にヒロは返した。
男「!? お前・・・」
ヒロの言葉に、男は戸惑う表情を見せる。しかしヒロは男に迷う暇を与えず、言葉を続けた。
ヒロ「表を見てないのか!? パトカーがあったんだぞ!
警察は、すでにこの病院に来てるんだ! 羽鳥魁斗はまだか!?」
助手席の男は一瞬運転手と顔を見合わせた後、ヒロに応えた。
男「もうすぐ連れが、運んでくるはずだ・・・」
その言葉を聞いたヒロが、小さく笑う。
ヒロ「それを聞いて安心したよ」
言うとヒロは、右手に持っていたスタンガンを助手席の男の胸に突き刺した。
男「ぐぅ!?」
瞬時のヒロの攻撃に、助手席の男は何も出来ない。運転手の男は突然の事態に、胸ポケットに入れてある銃を取りだそうとした。
ヒロ「おっと」
運転手よりも素早く、ヒロは左手に銃のような物を握り、男に向けて引き金をひいた。
ワイヤー型スタンガン。
見た目は銃のそれと同じ。引き金をひくと、鋭い針が仕込まれた弾が発射される。対象に刺さると、本体と通じたワイヤーを通して高圧電流が流れるスタンガンの一種だ。
2人の男は・・・ 高圧電流により、気を失った。
(ヒロ「さて・・・ 連れとやらが来る前に・・・」)
ヒロは駐車場の適当な車に目を付け、ピッキングで鍵を開ける。そして、ダッシュボードの下から配線を抜き出し、直結させた。
ブロロロ・・・
しばらく配線をいじっていると、車のエンジンがかかった。
(ヒロ「あとは・・・ ミスターカイトを待つだけだな・・・」)
・・・ ・・・。
魁斗はベッドの上で身動きが取れず、声も出せない。意識はハッキリしているものの、ベッドを押す人物の顔を下から見上げるだけだ。
魁斗「・・・ ・・・」
看護婦は黒いライトバンの前で立ち止まると、運転席の窓をコンコンと叩いて合図し、トランクを開ける。
トランクを開けると・・・
目の前に白いコートの男がいた。
看護婦「!?」
男と目が合った看護婦は、驚いた表情を見せる。視線の先に、いるはずのない男がいたからだ。
男「病院から連れ出すなら・・・」
その男は、すでにON状態のスタンガンを取り出す。
男「俺だってそうするね」
白いコートの男・・・ヒロは手にしたスタンガンを、迷わず女の腹部に押しつけた。
「ぐぐぐ・・・」
大声を出すことなく、看護婦・・・を装った女は気を失った。
(ヒロ「レディには失礼だが・・・」)
女をトランクに押し込め、運手席と助手席にいる気絶した男2人を確認する。魁斗を連れ出そうとした、男2人女1人の3人グループ。
ヒロ「・・・ ・・・」
ヒロはその3人から、財布と携帯電話を押収した。
(ヒロ「黒幕に繋がるといいが・・・」)
それらをポケットに押し込み、ようやくベッド上の魁斗に笑顔を見せた。
ヒロ「Nice to see you. Mr.Kaito.」
(お久しぶりです。ミスターカイト)
魁斗は視線をヒロに合わせるが、声を出すことも体を動かす事もできない。かすかに手を震わせるだけだ。
(ヒロ「薬物をうたれたな・・・」)
ヒロはすぐにベッドを押して、魁斗を移動させた。
先ほどエンジンをかけた車の助手席を倒し、魁斗を寝かせた状態で乗せる。魁斗の胸ポケットに、ボールペンのような物を押し込むと、ペン先にあったボタンを押した。
魁斗「・・・ ・・・」
ヒロ「これは半径1.5mの電波を遮断する機械です。念のためです。
俺の携帯はスパイ用だから・・・」
ヒロは自分の携帯を魁斗に見せた。
ヒロ「妨害電波を除外するフィルタをかけてあります。
いつでも使えます」
小さく笑いながら言うと、ヒロは運転席に移る。
ヒロ「では、ミスターカイト。
もうすぐ家族4人、感動の再会を果たすでしょう」
笑顔を魁斗に振りまいたヒロは、車を発進させた。
病院を出ると、ヒロは右手でハンドルを握りながら左手で携帯を操作する。
安田に連絡しようとしたその時。魁斗が震える右手で、ヒロの左手を握りしめた。
ヒロ「・・・? ミスターカイト。無理をなさらず」
声を出せないが、震える手でヒロの左手を弱い力で握り続ける。そして、携帯を握るヒロの左手を拡げようとした。
ヒロ「・・・ ・・・」
薬物により、体はほとんど動かせないはずだ。それでも必死に魁斗は、何かを伝えようとしている。
ヒロ「OK」
意図を感じ取ったヒロは、左手の平を拡げて魁斗に見せた。魁斗は震える手で、指文字を手のひらに書き始めた。
リ ナ リ ナ リ ナ ・・・
たった2文字のカタカナを繰り返し書き続ける。
ヒロ「リナ?」
魁斗は首を小刻みに縦に振った。それを見たヒロはすぐに笑顔になる。
ヒロ「ご安心を。リナはすでにあなたの会社にお連れしています。
警察も来ているはずです」
今度は小刻みに横に首を振る魁斗。
ヒロ「?」
魁斗は、会社から出た所を誘拐された。そしてマスターは、羽鳥リナを殺すと明言している。武装した連中を率いるマスターなら・・・
(魁斗「会社にいる娘を狙う事も・・・十分考えられる」)
と、思っていた。
魁斗はヒロの手のひらに、再び【リナ】と書き始めた。
ヒロ「リナが・・・ 危険だと言うのですか?」
心なしか、先ほどより大きく首を縦に振っているように見える魁斗。
ヒロ「まさか・・・」
リリリリリーン・・・
突然ヒロの携帯が鳴った。
着信 【羽鳥魁斗】
ヒロ「・・・ ・・・」
魁斗を誘拐した人物からだ。すぐに携帯に出るヒロ。
ヒロ「ジェームズボンドだ」
男「ふふ。私のセリフをとるとはな。つくづく飽きない男だ」
ヒロ「指示通り、身代金は受け取った。
恵比寿駅のコインロッカーにある」
男「何故半分は捨てた?」
相手も、警察の電波を傍受していたのだろう。ヒロが、身代金の半分を捨てた事を知っている。
ヒロ「【レインボーブリッジから、身代金を受け取れ】
それがあんたの指示だ。
【全額受け取れ】とは、一言も言ってなかった」
男「なるほどな。参ったよ。
ミスターボンドは、私の想像以上のスパイだ」
ヒロ「負けを認めた・・・で、いいかな?」
男「まさか」
ヒロ「・・・ ・・・。ミスターカイトも助け出した。
もうお前に勝ち目はない」
男「羽鳥魁斗もまた、私の想像以上。
たった3本のタバコで、監禁場所を抜け出すとはな。
正直、私には無理だ」
ヒロ「相手が悪かったのさ」
強気に応えるヒロに対し、電話の向こうの男はあくまでも冷静だ。
男「教授の論理的思考は、非常に独創的だ。
以前にも増してその頭脳が欲しくなったよ。
だがミスターボンド・・・」
ヒロ「・・・ ・・・」
相手の声のキーが高くなったのを、ヒロは確かに聞き取った。
男「1つ大きなミスを犯しているのに・・・気づいていないようだ」
眉をひそめるヒロ。
ヒロ「ふん。ミスターカイトもリナもこちらの手の内。
ゲームオーバーだ!」
男はヒロの言葉を無視して語ってきた。
男「ミスターボンド。選択肢は2つだ。
1つは羽鳥魁斗をを我々に差し出す」
ヒロ「・・・。その選択肢はありえないな。
一応もう1つの選択肢を聞こうか」
男「もう1つは・・・
羽鳥リナの死体を拝むかだ」
ヒロ「!?」
男「言ったろ。お前は大きなミスを1つ犯した。
羽鳥リナの元を離れた事だ。
お前があれだけの警察の中から、身代金を奪い去ったように・・・
我々だって、1人の娘を奪うなんて造作もない事」
ヒロ「・・・ ハッタリにしか聞こえないが?」
男「警察無線を傍受してみろ。すぐにわかる」
ヒロ「・・・ ・・・」
ヒロはすぐに受信機の周波数を、警察無線に合わせる・・・が、繋がらない。
ヒロ「そうか・・・」
魁斗の胸ポケットにいれた妨害電波装置。ヒロの携帯以外、半径1.5m以内の電波を、完全シャットアウトする装置だ。
一度それを止め、再び警察無線を傍受する。
「7号車を襲撃した車は秋津駅を北へ逃走中!! 相手は銃を乱射!」
「羽鳥リナの確保が最優先だ!」
「捜査官、数名が負傷!!」
「SATの応援を今すぐ要請します!!」
「羽鳥瞳は無事!」
「救急車も至急!」
「羽鳥リナが、見あたりません!」
尋常でない事態が起こっている事は、すぐにわかった。
ヒロ「な・・・何てことだ・・・」
男「状況は飲み込めたかな?
ふふ。ゲームは、どんでん返しがなければおもしろくない。
クリアしたと思ったら、まだ続きがある・・・
今のゲームの常識さ」
ヒロ「ぐ・・・」
言い返す言葉が見つからないヒロ。
男「もうすぐ・・・ 決着がつきそうだな」
ヒロ「・・・ ・・・」
必死で打開策を考えるが・・・何も浮かばない。
男「さぁ選択の時だ。羽鳥魁斗を差し出すか・・・
あるいは羽鳥リナの死体を拝むか?」
ヒロ「・・・ ・・・」
(第40話へ続く)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回予告
湾岸警察署に、パトカーで移送中のリナと瞳。
パトカーの前に不審なトラックが現れた。
そして・・・ 警察とテロリストの、壮絶な銃撃戦が始まった。
次回 「 第40話 銃撃戦(2008年) 」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




