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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
29/147

第28話  ファーストキス(2008年)

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナの父親・魁斗かいとは、覆面をつけた男らに誘拐されてしまった。そしてマスターと呼ばれる男に、自らが開発したソフトのアルゴリズムを要求される。


要求に従わなければ・・・家族を1人失うだろうと男は言った。


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  第28話  ファーストキス(2008年)


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2008年12月6日(土)、午後10時過ぎ。羽鳥邸。


応接室に一人の男が入ってきた。警視庁捜査第一課の後藤源治郎だ。トレードマークの色あせた茶色のコートを脱ぐと、後輩の藤岡に声をかける。


後藤「ご苦労。犯人からの連絡は?」


1階中央、テーブルの前の椅子に座っている藤岡。テーブルの上には犯人から連絡があった時のために、逆探知機が置かれている。


藤岡は銀縁眼鏡をかけ直して応えた。


藤岡「いえ・・・。あのヒロという男の言うとおり・・・。

    羽鳥瞳がイギリスから帰ってからしか、連絡はないかもしれません」


後藤「そうか・・・ 彼女は月曜日には戻る手はずになっている。

    よし! 交代だ。また明日朝10時に頼むぞ」


藤岡「わかりました。俺は署に戻ってちょっと仕事していきます」


後藤「おいおい・・・ 少しは休めよ。

    若いからといって、いざという時動けないと困るぞ」


藤岡は小さく笑った。


藤岡「はは。俺は3時間も寝れば大丈夫ですから。

    それに調べたい事もあるので・・・」


後藤「そうか。まぁ、お前がきっちり仕事するのはよく知ってるからな。

    じゃぁ、また明日10時に」


藤岡「了解です」


そう言うと藤岡は席を立ち、ノートパソコン片手に羽鳥邸を後にした。



・・・ ・・・。


リナは目を閉じていた。ヒロの唇が優しくリナの唇と重なる。


最初は弱々しいキスだったが・・・ だんだんと力が入ってくるのがわかった。


不意にヒロの舌が、リナの口の中に侵入してくる。


リナ「あ・・・」


思わず声が出たその瞬間。



ジリリリリリリリリリリ・・・ ・・・  



突然目覚まし時計が鳴った。時計はAM7:30をさしている。


(リナ「・・・ あ、あれ?」)


リナはゆっくりと体を起こし、目覚まし時計のアラームを止めた。


リナ「・・・ ・・・」


まだよく理解出来ない。つい今し方、彼氏とファーストキスをかわしたばかりのはずだ。


(リナ「ま、まさか・・・ 夢?」)


ふと横を見ると・・・


ヒロが椅子に座って、こちらを笑顔で見つめていた。


ヒロ「おはよう。まぁ金曜日から土曜日にかけてはほとんど徹夜だったからね。

    よく眠れたかい?」


さっき見た光景と全く同じ。リナは目の前にいるヒロが、夢の中の彼氏なのか、現実世界の彼氏なのか判断できない。


リナ「あ・・・ うん・・・」


元気のない返事を返すと、リナはほっぺたを思い切りつねる。


(リナ「痛・・・」)


どうやら今は、現実世界のようだ。


リナ「うん。おはよう・・・」


笑顔でヒロに挨拶をした。


リナ「ずっと・・・ そこにいたの?」


意識したわけではないが、夢の中の自分と同じセリフを言っている。


ヒロ「まぁね。2日連続、2人で朝を迎えた事になる。

    でも俺は、君の彼氏として朝を迎えられたかな?」


ヒロも全く同じセリフを返してきた。リナはヒロから視線をはずし、窓の方を見る。


リナ「・・・ ・・・」


朝日が、カーテンの隙間から差し込んでいる。そして・・・


胸の鼓動が激しくなってきた。


リナ「ねぇ、ヒロ先生・・・」


窓の外を見ながらリナが呟いた。


ヒロ「ん?」


再び視線をヒロに合わせたリナ。


リナ「キスして」


ヒロ「え・・・?」


突然のリナのリクエストに、年上のヒロは戸惑う。


リナ「今日から・・・本当の彼氏だから・・・ だからキスして」


戸惑いながら、リナを見つめるヒロ。


ヒロ「・・・ ・・・」


リナの目を見れば、彼女の要求が【ほっぺにキス】でない事はわかる。


リナ「・・・ ・・・」


真っ直ぐヒロを見つめているリナは、先ほどまでの光景が正夢だと確信していた。


ヒロ「あ・・・ あぁ・・・」


逡巡したヒロは覚悟を決める。ゆっくりと立ち上がり、リナの側まで歩いていった。


リナの心臓はヒロが近づいてくると、さらに鼓動が早くなる。


リナは起こしていた体を横にして、ベッドの上から天井を見つめる姿勢をとった。そして両手を祈るように握り、静かに目を閉じる。


リナの緊張が手に取るようにわかるヒロは、苦笑いをした。


ヒロ「はは・・・ まるで、Snow Whiteだな・・・」


※ Snow White = 白雪姫


ヒロはゆっくりと・・・リナの顔に自分の顔を近づける。リナの唇は気配を感じると、ぎゅっと真一文字になった。


ヒロ「!?」


突然ヒロの耳は、羽鳥邸に似つかわしくない音をとらえる。


ドタドタドタ・・・


ヒロはリナの肩をゆすって、目を開けさせた。


ヒロ「リナ・・・ 残念だが邪魔者が入った。

    4秒後、この部屋に捜査官が入ってくる」


その言葉を聞いたリナは、驚いた表情で目を開ける。ヒロの耳はその足音のリズムから、足早にこの部屋に向かっている人物が誰なのか・・・そこまで特定していた。


リナ「な、なんで!?」


ヒロ「さぁ? ただ、今キスするのはマズイ事は確かだ」


ガチャ!


ヒロの言葉が言い終わったと同時に、1人の捜査官がリナの部屋に入ってきた。


ヒロ「・・・ ・・・」


予想通り、後藤だ。後藤はベッドの上のリナに視線を合わせ、早口で言葉を発した。


後藤「女性の部屋に入るのにノックもしなかった事は失礼した。

    だが、どうしても急ぐ必要があったので・・・」


そう言うと隣にいたヒロに視線を移す。


後藤「ヒロ・ハーグリーブス。お前に逮捕状が出ている」


ヒロ「え!?」


リナ「!?」


想定外の言葉に、ヒロとリナは同時に目を丸くした。


後藤はヒロに近寄り、ズボンの後ろポケットから手錠を取り出す。そして腕時計を確認した。


後藤「12月7日、日曜日。午前7時34分。

    ヒロ・ハーグリーブス、羽鳥魁斗誘拐容疑で逮捕する」


無抵抗のヒロの両手に、静かに手錠がかけられた。


ヒロ「・・・ ・・・」


自分の手にかけられた手錠を静かに見るヒロ。


キスされる直前で、彼氏を引き離されたリナは呆然とする。


リナ「な、なんでヒロ先生が・・・? 逮捕される理由がないわ・・・」


ようやく小さな声を絞り出した。


後藤「詳細は言えませんが・・・ 彼は誘拐事件の容疑者です。

    署まで連行します」


後藤は優しくリナに声をかけるが、リナは納得いかない表情を浮かべた。


ヒロ「OK。誤認逮捕というヤツかな」


ヒロはうなずきながら、小さく笑った。そして後藤に連れられ、部屋の出入り口へと歩いて行く。


ヒロ「おっと・・・」


ふと何かを思い出したような表情を浮かべると、きびすを返してスタスタとリナの所へ歩いて行った。


後藤「あ・・・」


あまりにも自然なヒロの行動に、後藤は一瞬動けない。逃げようとするヒロを追いかけようとしたが、ヒロはリナの前で立ち止まった。


手錠のかかった両手をリナの頭の上からかけ、目の前の彼女をギュッと抱きしめる。そして後藤にも聞こえるよう、リナに大きな声をかけた。


ヒロ「大丈夫。警察もすぐ勘違いだと認めて、解放してくれるさ」


リナは、涙を流しながらヒロを抱きしめ返す。


リナ「私、怖い・・・」


ヒロ「すぐ戻ってくると約束する。ただ、1つだけ聞いてくれ」


そう言うとヒロは後藤に聞こえないよう、小さな声で囁いた。


ヒロ「君の机の上にある俺のコート。

    俺が出た後、誰にも見つからないよう隠してくれ」


リナ「え・・・?」


ヒロ「あと、君のポケットに入っている物もな」


そう言うとヒロはつながれた両手をリナの頭から抜き取り、後藤の方へゆっくりと歩いて行った。


特に抵抗の様子を見せないヒロを、後藤は静かに部屋の外へ連行する。


リナ「ヒロ・・・ 先生・・・」


あまりのショックでリナは・・・部屋を出て行くヒロの背中を見つめる事しか出来なかった。



・・・ ・・・。


ヒロが部屋を出て10分が過ぎた頃・・・


リナはようやく、机の上にある白いコートに手をかけた。


(リナ「ポケット・・・」)


そして、思い出したように自分のポケットに手を入れる。


(リナ「携帯・・・?」)


リナを抱きしめた際、後藤にバレないよう入れておいたヒロの携帯電話だ。リナは言われた通り、コートと携帯をクローゼットに隠す。


その際・・・コートの内ポケットに、銃がある事をリナは気づかなかった。



・・・ ・・・。


2008年12月7日(日)、午前11時8分。湾岸警察署。


ヒロは取調室とりしらべしつに押し込まれ・・・捜査官の後藤から取り調べを受けていた。


後藤はこれまでに調べ上げた、ヒロの不審な点を尋問する。


イギリスへ帰るはずだったが、その航空チケットを取っていなかった事。

学校で覆面姿の男達に襲われたと言っていたが、学校にはその痕跡が一切なかった事。


羽鳥邸1階書斎で、ロックのかかっている引き出しからヒロの指紋が採取された事。

ピアノ講師という立場を利用して、羽鳥リナに近づいた事。


ヒロが羽鳥家に関わる不審な点を、後藤は1つ1つ取り調べていく。ヒロはその1つ1つに、丁寧に反論していったが・・・


後藤「本当は羽鳥家に近づくためにした事では!?」


と、強く追求された。


ほぼ2日間、徹夜に近い状態で疲労困憊ひろうこんぱいのヒロは・・・

やがて黙秘するようになる。


(ヒロ「リナ・・・」)


後藤の声は右から左へ聞き流し・・・どうすれば早くここを出られるかを考えていた。




             (第29話へ続く)

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次回予告


羽鳥魁斗は、マスターよ呼ばれる男と、2度目の対話をしていた。


魁斗はヒロがリナを守りきってくれると願うが・・・マスターは、ヒロが逮捕された事を伝える。


そして・・・ 絶望感漂う魁斗に、マスターは衝撃の言葉を口にした。



次回 「 第29話 マスター(2008年) 」

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