第23話 朝 (2008年)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。
話は・・・ 4年前の2008年。
リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。
リナの父親・魁斗が開発したセキュリティソフトを狙ったテロリストがいる。その情報を得たヒロは、相棒の安田と共に周辺を調べる。
ある日リナは、学校で正体不明の覆面男達の襲撃を受けた。イギリスに発ったはずのヒロが突然リナの前に現れ、窮地を脱する。
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第23話 朝 (2008年)
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2008年12月5日(金)、午後10時51分。学習院女子高、校舎内。
リナはヒロの指示通り、家庭科室まで1人で行った。
夜の校舎というだけでも怖いのに、外のどしゃぶりの音は恐怖を増幅させる。
(リナ「ヒロ先生・・・」)
恐怖心でいっぱいのリナ。ヒロを救うためにと勇気を振り絞った。
家庭科室の手前の廊下・・・ ヒロが倒した覆面男の姿はないのは、追っ手がすでに仲間を回収していたからだ。
ヒロの事で頭がいっぱいのリナは、何も気づかず家庭科室に入っていった。家庭科室に入るとお湯を沸かし、湯飲みに注いでゆっくりとそれを胃袋に流し込む。
リナ「ふぅ・・・」
思わず溜息が出た。冷え切ったリナの体は、内側から温まっていく。熱したフライパンでタオルを温めると、それで体をふいていった。
リナ「・・・ ・・・」
誰もいないはずの教室だが、周りを気にしながら・・・着ている物を全て脱ぐ。そしてフライパンを着ていた物に押しつけた。
ジュー・・・
アイロン代わりのフライパンは、リナの服を乾かしていく。
リナ「・・・ ・・・」
誰もいないとわかってはいるが・・・素っ裸のリナは、恥ずかしくてしょうがない。やがて乾いた服を、再び身につけた。
(リナ「あったかい・・・」)
体が温まると、だんだんと元気を取り戻していく。
(リナ「ヒロ先生は・・・ 何でも知っているみたい・・・ 」)
コップにお湯をそそぐと、急いでヒロの所へと向かった。
・・・ ・・・。
ヒロ「!?」
突然目を覚ましたヒロは、慌てて周りを確認する。
(ヒロ「寝てたのか・・・」)
意識がはっきりすると、全身をひどい筋肉痛がおそった。
ヒロ「う・・・」
思わずうめき声が出る。ぎくしゃくしながらも、自分の意志で何とか体を動かせた。
ふと横を見ると・・・ 壁にもたれた、リナのかわいらしい寝顔が見えた。その顔を見て、ようやく危機を脱したと確信する。
ヒロ「・・・」
筋肉痛の体をゆっくりと起こし、立ち上がるヒロ。そして屋上へ通じる扉を開くと・・・
数時間前までのどしゃぶりが嘘のように、雨粒1つ落ちてこない。そして辺りはうっすらと明るくなっていた。
(ヒロ「朝・・・ か・・・」)
・・・ ・・・。
2008年12月6日(土)、午前6時33分。
ヒロとリナは、校舎の屋上から日の出を見ていた。
リナ「ホント・・・ 昨日の大雨が嘘みたい・・・」
太陽の光は、街の向こうから美しい光の矢を放っている。
ヒロ「So Beautiful・・・」
リナ「うん・・・」
ヒロはリナの冷たい手を握り、ゆっくりと上昇する太陽を眺めていた。
ヒロ「俺は・・・こんなにステキな太陽を見た事がない・・・」
つい数時間前間で死ぬかも知れない状況にいたヒロは、素直にそう思った。
リナ「でしょ? ここからの日の出は、日本で1番だと思うわ」
ヒロの温かい手を握り返すリナ。
リナ「あのね・・・ ジンクスがあるの」
ヒロ「ジンクス?」
リナ「うん。ここから日の出を見たカップルはね・・・」
ヒロ「はは。幸せになれるって? ありがちなジンクスだな」
リナは静かに首を横にふった。
リナ「ううん。違うの。ここから日の出を見たカップルはね・・・
別れるっていうジンクスがあるの」
ヒロは驚いた表情を見せる。
ヒロ「えぇ? そうなの?
でも以前、俺とこの日の出を見たいって・・・」
瞬間リナは、ステキな笑顔を見せた。
ヒロ「・・・」
一瞬ドキッとするヒロ。
リナ「うん。だって、絶対別れない自信あるもん。
そんなジンクスに負けないぐらい好きだもん・・・」
リナのストレートな言葉は・・・ 普段キザなヒロの方を照れさせる。ヒロは再びリナの手を強く握った。
ヒロ「あぁ・・・ そうだな・・・」
・・・ ・・・。
ヒロ「そろそろ行こうか・・・ 今日は学校休みだろ?
家でゆっくり休むといい」
10分ほど朝日を見ていた2人。
リナ「うん」
出入り口に向かって歩くヒロは、今一度朝日の方を振り返り口を開いた。
ヒロ「こんな時は・・・グリーグ作曲のあの曲を聴きたいね~」
リナ「ペールギュント組曲の?」
リナが笑顔で聞き返す。
ヒロ「そう・・・ グリーグ作曲・ペールギュント組曲の・・・」
2人は全く同じタイミングで言葉を発した。
ヒロ「アニトラの踊り」
リナ「アニトラの踊り!」
ヒロは目を丸くしてリナを見つめる。逆にリナはこれでもかという程の満面の笑みを浮かべた。
リナ「【アニトラの踊り】、好きなんだ!」
ヒロ「驚いたね・・・ そんなマニアックな曲を好きとは」
リナ「私達、気が合うのよ!」
ヒロ「あぁ、疑う余地はないな。俺たちは最高のカップルだ。
ジンクスごときで別れるなんて考えられない」
昨日の夜、死んだかもしれないヒロ。リナの側にいるだけで、とてもすがすがしい気分になった。当初は、リナの警護目的で彼氏になったはずだが・・・
ヒロ「・・・」
心の中で、何かが変わりつつある。そしてヒロ本人もそれを自覚していた。
・・・ ・・・。
学校を出た2人は、ヒロの車で羽鳥邸に戻る。昨晩感電したヒロの体は、ひどい筋肉痛状態だったが運転に支障はない。
ヒロ「朝帰りの言い訳は?」
軽く笑いながら、助手席のリナに声をかける。
リナ「あった事を・・・ 素直に話すだけだわ」
ヒロ「そうか・・・」
リナの真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうになる。
ヒロ「おっと・・・」
リナから視線をはずし、しっかりと前を見たヒロはアクセルを踏み込んだ。
・・・ ・・・。
羽鳥家の家政婦、新城美也は午前7時に羽鳥家を訪れ朝食の準備をする。学校のない土曜日は、警備の井上が訪れる事はない。
リナとヒロが家に戻ったのは・・・午前7時18分。玄関をそっと開けるリナ。
リナ「た・・・ ただいま・・・」
奥のキッチンからお湯を沸かしている音が聞こえる。やがて家政婦の新城がキッチンから出てきた。
新城「まぁ、リナお嬢様! こんな時間に制服でお帰りとは・・・?」
ふと新城の視線は、リナの背後にいたヒロへと移る。
新城「あぁ・・・」
何かを納得したという表情を見せた。
新城「そういう事・・・ですか」
新城は小さな笑いを浮かべ、頷く仕草をする。
リナ「ち、違うの、美也さん。昨日学校で大変な事があって・・・」
慌ててリナが口を開くが、新城は笑いながら声をかけた。
新城「ふふ、いいですのよ。お嬢様も・・・もう高校生だし。
お父様には黙っておきますから。
私の若い頃はもっと・・・ おや失礼。ふふふ・・・」
嬉しそうに笑ってみせる新城に、リナは唇をとんがらせる。
リナ「ホントに・・・何か勘違いしてるわ、美也さん・・・」
リナの肩をポンとヒロが叩いた。
ヒロ「ま・・・ いいんじゃない? 朝帰りは事実だし」
リナ「ヒロ先生まで!」
彼氏と朝帰りは事実だが・・・それを誤解で受け止められる事は、15歳のリナにはあまりにも恥ずかしい。
ヒロはそんなリナをよそに、新城に声をかけた。
ヒロ「そういや・・・ 昨晩はミスターカイトは帰ってませんか?
駐車場に車がなかったようですが?」
新城は優しい声でヒロに返す。
新城「えぇ、帰ってません。
旦那様はよく、会社で徹夜もされるお方ですからね」
ヒロ「そうですか・・・」
昨夜リナが襲撃を受けた事もあり、ヒロは魁斗不在が少し引っかかっていた。
リリリリリーン・・・ リリリリリーン・・・
突如1階中央に設置されてある電話が鳴り響く。
新城「旦那様かしら・・・?」
携帯電話を持たない家政婦の新城。魁斗から連絡ある時は、決まって家の電話だ。
カチャッ
新城「もしもし。羽鳥邸ですが・・・」
ヒロはリナの肩に手を置いたまま声をかけた。
ヒロ「じゃ、俺は行くよ。また連絡するから」
肩に置かれたヒロの手に触れながら、リナが軽く頷く。
リナ「うん・・・」
後ろから耳元にキスをしたヒロが、玄関を出ようとした時だった。
新城「あなたどなた!? 何をおっしゃってるの!?」
新城の大きな声が邸内に響いた。
ヒロ「・・・ ・・・」
踵を返したヒロは、リナと共に新城の元へと歩いてゆく。新城は受話器を握りながら、ガタガタと手を震わせ、眉間にしわをよせて声を出した。
新城「いたずら電話なら切りますよ!?」
(ヒロ「声のキーが通常より3つも高い。怒りに震えているか・・・
あるいはただならぬ事態なのか・・・」)
静かに事態を見守るヒロとリナ。
新城「そんな・・・ 旦那様を誘拐したなんて・・・
悪い冗談にも程があります!」
リナ「え!?」
ヒロ「!?」
怒りに満ちた表情で電話を切ろうとした新城。直前でヒロが受話器をキャッチする。
ヒロ「いたずら電話なら俺に任せて下さい」
そう言うとヒロは受話器を自分の耳元に持って行った。不安そうな表情を見せるリナに視線を合わせながら、落ち着いて声を出す。
ヒロ「こちら羽鳥邸。失礼、今一度用件をお伺いしようか?」
電話の向こうからは・・・ 男の声が静かに聞こえてきた。
男「ほう・・・ その声はミスターボンド。昨晩はご苦労だったな」
ヒロ「!?」
(第24話へ続く)
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次回予告
羽鳥魁斗が誘拐された。
ヒロとリナ、そして新城は窓の外から、衝撃的な光景を見る。
瞬間、大きな衝撃が3人を襲った。
次回 「 第24話 爆 破 (2008年) 」
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