表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
23/147

第22話  追っ手(2008年)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナの父親・魁斗かいとが開発したセキュリティソフトを狙ったテロリストがいる。


リナは学校で、正体不明の覆面男達の襲撃を受ける。ヒロは理科室で、ヴァンデグラフ装置を使い、雷を起こして敵を倒す。


しかし・・・ 残った敵の1人が、動けないヒロに銃を向けた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  第22話  追っ手(2008年)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2008年12月5日(金)、午後9時36分。羽鳥コーポレーション。


「社長、電話が入ってます。緊急だとか」


「わかった。つないでくれ」


自宅で夕食をとった後、再度会社に戻って仕事をこなしていた羽鳥魁斗。


魁斗「私だが? 緊急とは?」


受話器の向こうの相手に声をかける。電話の向こうの声は、焦った様子で何かを伝えた。


魁斗「なに! リナが? わかった! すぐ行く!!」


電話を切った魁斗はすぐにコートを手にする。秘書に「すぐ戻る」と一言残し、部屋を小走りに出て行った。



・・・ ・・・。


その頃。


リナの通う学習院女子高・・・3階理科室。


意識はあるものの・・・ 床に倒れたまま、動けないヒロ。


1人の覆面男に雷を直撃させ、倒した事は確認出来たが・・・

もう1人の男が銃を自分に向けているのが見えた。


ヒロ「・・・ ・・・」


自分の脳の司令とは裏腹に、体中の筋肉は硬直して動く気配はない。ただ地べたに這いつくばって、銃口を見つめる事しか出来なかった。


男「はぁ、はぁ・・・。今度こそサヨナラだ。ジェームズボンド!」


左手に銃を握った男はヒロに狙いを定め・・・引き金をひく直前。


突如、視界がぐにゃりとゆがむ。


男「な・・・?」


直後に引き金をひいた。


パァン!!


撃った弾は見当違いの方向へ放たれ、ヒロの横の窓ガラスを撃ち抜く。


銃を撃った男は、頭の中がぐるぐると回るような不快な感覚に襲われ・・・やがてその場で倒れて意識を失った。


ヒロ「・・・」


目の前の男が倒れたその背後・・・ リナが泣きそうな顔をして立っているのが見える。


ヒロ「リ・・・ ナ・・・」


ヒロはロッカーを出る直前、リナに携帯電話と麻酔銃のダーツ弾を渡していた。


ヒロ「万が一目の前に自分以外の男が現れたら・・・・ 

    迷わずダーツを刺せ」


と指示していた。


覆面男がヒロに銃を向けたのを見たリナは、無我夢中で手にしたダーツ弾を男の背中に刺した。背中に刺さったダーツの先・・・小さな針は衝撃を受けた瞬間、小さな弁を開いて中の液体を対象に注入する。


即効性の麻酔薬は・・・ 5秒と持たず男を失神させた。


リナ「はぁ、はぁ・・・」


興奮状態のリナは、過呼吸になっている。


覆面男が撃ち抜いた窓ガラスから入ってくる横殴りの雨は、その場にいた全員を濡らし続けていた。


ヒロ「リ、リナ・・・」


リナ「・・・ ・・・」


リナの目は焦点が合っていない。倒れた男をただ見ている。


ヒロ「リナ・・・ リナ・・・」


薄れる意識で必死に声をかけるヒロ。


リナ「・・・ !?」


ようやく声に反応したリナは、ヒロの元へかけつけた。


リナ「ヒロ先生・・・ 死なないで!!」


泣きながら、力の限り抱きしめる。


ヒロ「はは・・・ この程度では死なないさ・・・」


リナは雨があたらないよう、ヒロを奥へと引きずって行った。


その時・・・ 倒れた男の横に落ちていた通信機が反応する。


「そちらの様子は? 報告せよ」


ヒロを必死に移動させるリナの耳に、その声は入らない。


「作戦中なら5分以内に連絡せよ。連絡がない時はそちらに向かう」


ヒロ「・・・ ・・・」


ヒロはその通信内容を聞いていた。明らかに、別の場所で待機しているであろう誘拐犯の一味からの通信だ。


ヒロは弱々しい力で、リナの体を前に押し出した。


ヒロ「逃げろ・・・俺を置いて・・・」


リナ「いや!」


リナは即答し、力強くヒロを抱きしめた。ヒロにそれを返す力はない。


ヒロ「こいつらの仲間がすぐやってくる・・・。俺は、しばらく動けない。

    正面玄関から走って逃げるんだ」


リナはただ無言で抱きしめている。


ヒロ「頼む・・・ 逃げてくれ・・・ 狙いは君だ。

    俺は、2~3時間は動けない」


弱々しい力でリナの体を押そうとするが・・・ リナはさらに強い力で抱きしめる。


リナ「・・・ ・・・」


しばらくヒロを抱きしめ続けたリナは・・・ ヒロの肩をかついで立ちあがろうとする。


ヒロ「な、何を・・・?」


リナは泣きそうな顔になりながらも、力強くヒロを立ち上がらせた。


リナ「一緒に逃げるの。ヒロ先生だけを置いては行けない。行けるわけがない!」


覆面男は倒れる前、ヒロに銃を向けて「殺す」と言っている。ならば追っ手が来たら・・・


(リナ「ヒロ先生は殺される・・・」)


そう思っていた。


力の限りを出してヒロを立ち上がらせたリナ。肩を抱えながらゆっくりと教室の出口に向かって行く。ヒロはフラフラしながらもリナにしがみつき、ゆっくりとを進めた。


理科室を出て廊下をゆっくりと歩く。そして階段のところまで何とか来た。


(ヒロ「そろそろ5分・・・」)


下に行こうとしたリナを、ヒロが小さな力で抵抗する。


ヒロ「行くなら上だ・・・」


リナ「わかった」


本来なら1階に降りてすぐに逃げ出したいところだが、まだ残っている追っ手と遭遇してしまう。


仮に追っ手をかわして外に出たとしても・・・ 今のヒロの状態では安全な所まで行くのに時間がかかりすぎる。


ヒロ「出来れば君だけでも逃げて欲しいが・・・」


リナ「いや!!」


再び即答した。ヒロはリナの表情を見て、自分を置いて逃げる事が無い事を確信する。


(ヒロ「俺の体が回復するまで・・・ 隠れるしかないな・・・」)


ヒロはこれから先の事を考えた。


相手はサーモグラフィー装置を持っている。体から発する赤外線をとらえ、相手の位置を確認出来る装置だ。本来この装置は、障害物を隔てて対象物を確認する事は出来ないはずだが・・・


(ヒロ「ロッカーを透過して赤外線を拾ったって事は・・・

     最新型・高性能サーモを使っている。だとしたら・・・」)


ヒロ「屋上だ・・・ 相手より先に屋上へ行くんだ・・・」


リナ「わかった!」



・・・ ・・・。



追っ手の覆面男は、通信装置の電波を元に3階の理科室に入って来た。


覆面男「・・・ ・・・」


室内を見渡し、教室内に2人の仲間が倒れているのを確認する。男は肩に担いでいたバッグを降ろした。


バッグの中には小型アンプのような装置があり、そのスイッチをいくつか押す。そして携帯を取り出し、どこかへかけた。


覆面男「こちらチームS。女は未だ確保できず。仲間の2人が負傷。

     もう1人は行方不明だ」


携帯の向こうから、冷徹な男の声が聞こえてくる。


男「・・・。そちらは失敗か。まぁいい。すぐに仲間を回収し、引き上げろ」


覆面男「俺だけで女を確保する。女のボディガードとやらをぶっ殺す」


男「ダメだ。すぐに引き上げろ。

   3人がかりでも女を確保できなかったんだ。 


   お前1人でどうにか出来るとは思えない」


ヒロが負傷している事を男達は知らない。もし知っていれば携帯の向こうの男は作戦遂行を指示しただろう。


覆面男「それでは気が収まらない。男をぶっ殺して女を確保する」


男「・・・ ならば1時間だ。今から1時間以内に女を確保できなければ・・・

   速やかに仲間を回収し撤収しろ。それ以上そこに留まる事は認めん」


覆面男「・・・」


男「プロなら時間内でやれ。ダメなら撤収。

   感情に流されず逃げる事もプロのやり方だ」


覆面男「わかった・・・。1時間でカタをつける」


男は携帯を切ると、再びアンプのような機器のスイッチを入れた。


キュイーーン・・・


従来市販されている携帯電話の妨害装置は、有効範囲が半径5m程度である。しかし覆面男の扱うこの機器は、半径100mまで妨害できる。



・・・ ・・・。


(ヒロ「相手は最高水準の機器を持って、リナを誘拐しにきている」)


わずか1分とはいえ、携帯電話が使用可能になっていたとは気づかないヒロとリナ。何とか6階まで上り、さらに上の階段へと歩いて行く。


体は思うように動かせないが、頭は少しずつさえてきた。


(ヒロ「相手はいったい・・・ 何者なんだ・・・?

     あそこまでの機器を扱う組織なんて・・・」)


リナはヒロの肩を担いで、1歩1歩階段を上っていった。自分より重い彼氏を担いでるため、体力をかなり消耗する。


(リナ「ヒロ先生・・・」)


それでもヒロの事を思うと、体の奥から力が沸いてきた。そしてとうとう、最後の扉まで辿り着く。


リナ「着いたわ。屋上へ通じる扉よ」


リナはゆっくりと扉を少しだけ開いた。外はどしゃぶりだった・・・。外を確認したリナは、すぐに扉を閉じる。


リナ「こ、これからどうするの・・・?」


ヒロ「しばらく待つさ・・・ 敵が来るまで・・・」


2人は扉の前の階段に座り、ヒロはリナの肩にもたれかかった。


ヒロ「俺はね・・・ 耳がいいんだ。普通の人の32倍はいいらしい」


まだ思うように体を動かせないヒロは、目を閉じながらリナに話しかける。


ヒロ「誰がどう計算したのかはわらかないがね」


リナ「な、何? 急にそんな話?」


ヒロ「静かな建物の中にいる敵の足音は聞こえるんだ。

    今、敵は4階にいるよ。1人だけだ。


    1階1階確認しながら上に上がってる」


リナ「私、何も聞こえないけど・・・」


ヒロ「小さい頃俺は・・・親父に虐待されてね・・・。

    ある日俺は頭をぶん殴られて、意識を失い病院に運ばれた」


肩で息をしながらヒロは語り続ける。


ヒロ「3日も意識不明だったらしい。そりゃ親父を恨んださ・・・

    でも1つだけ感謝してる事がある」


リナ「何?」


ヒロ「リナ・・・君に会えた事だ」


リナ「 ? ヒロ先生、雷の電気ショックでおかしくなってる・・・

    虐待されて私に会えたって・・・意味わからないわ」


ヒロ「ははは。まともだよ。意識不明から目を覚ました俺は・・・

    特殊な能力がついていたんだ・・・」


リナ「特殊・・・能力?」


ヒロ「異様に聴覚が冴えてね・・・一度聴いた音は絶対忘れない。

    専門家の話じゃ、サヴァン症候群というヤツらしい」


静かにリナはヒロの話に耳を傾けている。


ヒロ「モーツァルトと同じ能力さ。彼同様、どんな音も聞き分けられるんだ。

    この耳のおかげで・・・ 俺は君と会う事が出来た」


リナ「やっぱりわからないわ・・・ 耳がいいから私と出会えたって」


ヒロは深い深呼吸をした。


ヒロ「俺は・・・ 間違いなくピアニストだ。

    だが・・・ ピアノ以外にもう1つ仕事をしている。


    その耳はそこで役立つのさ」


リナ「え!? ピアノ以外の仕事も!? 初耳だわ!」


驚くリナに笑顔で応える。


ヒロ「まぁね・・・ いつか言おうと思っていたが・・・」


突然、ヒロは緊張の表情を浮かべる。


ヒロ「残念だ。今はまだ言う時じゃないらしい。

    相手は今6階にたどり着いて廊下を歩いている。


    5分でこちらに来るだろう」


リナ「ど、どうするの・・・?」

 

ヒロ「俺と・・・ シャワーを浴びよう」


そう言うとヒロは、硬直する足を無理矢理伸ばし、立ち上がろうとする。

リナが肩を持ってようやく立ち上がれるほど、回復にはほど遠い。


ヒロ「相手は、サーモグラフィーという赤外線を感知する装置を持っている。

    簡単に言えば、人の体温に反応するヤツさ」


リナ「なんで・・・そんなに機械にくわしいの?」


ヒロ「その質問は後だ。サーモグラフィーは人の表面温度しか感知しない。

    だから雨にうたれて、俺たちの体の表面温度を下げる。


    そうすれば、機械に感知される事は無い」


そう言うとヒロは屋上へ通じる扉を開け、リナと共に土砂降りの中に身をさらした。すぐに扉を閉め、リナに肩をかつがれながら奥の貯水タンクへと向かって歩いて行く。


大きな正方形の貯水タンクが1基あり、その周りはコンクリートの壁で囲まれている。出入り口からは見えないように2人は、その壁を背に身を隠した。


ヒロ「このどしゃぶりの中寒いだろうが・・・しばらくの我慢だ。

    相手は間違いなくここもチェックに来る」


そう言うとヒロはリナを弱々しく抱きしめ、静かに意識を集中した。


5分後。


覆面男は屋上へ通じる扉の前にいた。扉の前に水滴が見える。例の2人がこの扉を開けたのは確実だ。


問題は外に出たか、あるいは再び中に戻ったかだ。覆面男は扉を開け・・・どしゃぶりの向こう側を見る。


覆面男「ちっ」


男は、サーモグラフィー装置がどしゃぶりの中では無意味と悟った。装置を濡れないように階段の陰に置くと、ずぶ濡れ状態で屋上に出て行く。


出入り口はこの扉1箇所。そこに気を払いながら周りを捜索する。そして2人が隠れている貯水タンクへと向かって行った。


ヒロ「来た・・・」


雨音に邪魔されながらも極限にまで集中力を高めたヒロは、男が右側からやってくる事を察知する。


ヒロ「リナ、あっちだ」


男が来る方向とは反対方向に移動した。


覆面男はゆっくりと貯水タンクの周りのコンクリート壁を一周する。ヒロとリナも、男の視界に入らないように一周した。


何も見つからないと観念した覆面男。しばらくして唯一の扉に向かい、校舎の中へと入って行った。


ヒロ「・・・ ・・・」


ヒロは男の足音が校舎の中に消えていくのを聞いていた。



そして・・・


ヒロ「よし・・・ 戻ろう」


男が校舎内に入った3分後、2人はびしょ濡れで校舎の中へ入り、先ほど待機した所に座り込む。


ヒロ「おそらくもうここへは来ないだろうが・・・

    念のためここで待機だ。


    もしまたヤツがきたら、もう一度シャワーを浴びよう・・・」


リナ「うん・・・」


冬の寒空にくわえ、ひどい土砂降りに身をさらしたリナ。全身寒さで震えていたリナの手を、ヒロは優しく握りしめた。



30分後。



ヒロ「よし・・・ 敵はあきらめて、出て行ったようだ」


リナ「よ、よかった・・・」


リナの唇は紫色に変色し、全身の震えが止まらない状態だ。


ヒロ「よくここまで我慢してくれた・・・ もう大丈夫。

    ただ俺は・・・もうしばらくは動けない」


1時間前に自ら起こした雷に感電した体は、未だ筋肉を柔らかくはしてくれない。


ヒロ「まだ俺とここにいる気か?」


リナは首を縦にふる。


ヒロ「そうか・・・ じゃあ俺の言う通り動いてくれ。

    今からリナには・・・ 素っ裸になってもらおう」


リナ「え?」



             (第23話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


覆面男等の襲撃を何とか退けたヒロとリナ。2人で朝日を眺めていた。


もう大丈夫


そう思っていたが・・・事態は思いもよらぬ方向に展開する。



次回 「 第23話  朝 (2008年) 」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ