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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
16/147

第15話  初めてのデート(2008年)

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  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


ヒロは、リナの父親・魁斗かいとが開発したセキュリティソフトを狙ったテロリストがいるという情報を得た。


そのテロリストと繋がりがあると思われるリナの英語教諭・江口。ヒロは、相棒の安田と共にさぐりを入れる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  第15話  初めてのデート(2008年)  


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2008年、11月8日(土)。午前9時ちょうど


リンゴーン・・・


羽鳥邸の呼び鈴が、いつもの重低音を鳴らす。玄関の前にはスーツ姿のヒロが立っていた。


ヒロ「・・・ ・・・」


腕時計を見ながらしばらく待っていると、扉の向こうからドタバタという足音が聞こえてくる。


ガチャッ


リナ「はぁはぁ・・・ お、お待たせ・・・」


息を切らせたリナの姿が現れた。


ヒロ「あ・・・ あぁ・・・」


真っ黒なワンピースに、派手なカチューシャを身につけたリナの姿を見て、ヒロが言葉に詰まる。明らかに・・・無理して大人じみた格好をする15歳の姿だ。


ヒロは再び腕時計を見る。


ヒロ「まぁホールまでは1時間。余裕はあるか・・・」



・・・ ・・・。



リナを車に乗せたヒロは原宿のとあるコインパーキングに車を止めた。そしてリナを連れて、最初に目に入ったブランド服店へと入って行く。

    

リナ「え? 何?」


ヒロ「いや。もうちょっとおしゃれな服をコーディネートしようと思ってね」


リナ「えぇ!? せっかくこのワンピース、昨日買ったのに!?

    ヒロ先生に合わせて、超大人っぽくしたのに!?」


ヒロ「ははは。俺にも好みがあってね。

    ほら、この薄赤の控えめなワンピース」


1つのワンピースを手にするヒロ。


ヒロ「こっちの方がよりいっそうビューティフルに見えるよ、リナは。

    ちょっと着てみせてよ」


ヒロは手にしたワンピースを手渡し、リナに試着をうながす。


リナ「うん・・・」


リナはしぶしぶ試着室へと足を運んだ。


ヒロ「・・・ ・・・」


リナの姿が試着室へ消えると、ヒロはすぐに外へ出て携帯をかける。


ヒロ「動きは?」


携帯はすぐに繋がった。


安田「今、ヤツの家の前だ。すでに朝食を済ませて身支度をしている。

    お前の言う通り、何か動きがありそうだ」


電話の相手は、相棒の安田だ。


ヒロ「テロリストにつながる唯一の手がかりだ。慎重にな」


安田「あぁ」


電話を切ったヒロは小さく深呼吸をして、再び店の中に戻る。



試着室のカーテンを開けたリナの姿を見たヒロは、これでもかと言うぐらいに目を大きく見開いた。


ヒロ「Wow! So cute! So beautiful!

    よく似合ってるよリナ! とっても可愛いよ!」


いつもより、高いキーでリナを褒め称える。


リナ「ほ・・・ ホントに・・・?」


ヒロ「あぁ。彼女に嘘なんてつかないさ。

    絶対今日一日、その美しい姿でいてくれ」


自分が買った服とは違う服を褒められたリナは・・・


リナ「う、うん・・・」


複雑な心境ながらも、照れながらうなずいた。



・・・ ・・・。


午前10時40分。NHKホール。

ホール中央左側の席についたヒロとリナ。


ステージでは演奏者達が、楽器のチューニングをしている姿が見える。


ヒロ「最初はリヒャルト・シュトラウスの【ツァラトゥストラはかく語りき】。

    導入部は【2001 A Space Odessey】という映画でも使われている。


    まぁ、誰もが聞いた事ある作品の1つだから、聞けばわかるさ」


※ 【2001 A Space Odessey】 スタンリーキューブリック監督作品

  邦題は【2001年 宇宙の旅】


リナ「うん、楽しみ!」


ヒロ「哲学者ニーチェの書いた本に、同名の作品がある。

    リヒャルトシュトラウスが、彼の作品にインスピレーションを得て作った曲だ。

 

    演奏された当初は、ニーチェの風評もあって賛否両論だったらしい。

    ニーチェを知らない方が、楽しく聴けるって感じかな」


リナ「ふ~ん・・・」


ヒロ「ニーチェは知ってるかい?」


リナ「名前ぐらいは・・・ どっかで聞いた事あるかな・・・?」


ヒロ「はは。彼は【神は死んだ】という言葉で有名だぞ」


リナ「え!? 神様を殺したの?」


ヒロ「まぁ、そういう事だな。ほら、あれ」


ヒロは、ステージのある場所を指さした。


ヒロ「奥のパーカッション、俺の知り合いなんだ」


リナ「へ~」


たわいもない会話をしながら、開演を待つ2人。


午前11時。盛大な拍手と共にタクトを持った指揮者が現れ、演奏が始まった。リナは出だしの迫力満点の演奏に、吸い込まれていく。


リナ「す・・・ すご・・・」


ちらりとリナに視線をやったヒロは小さく笑った後、演奏に集中した。


・・・ ・・・。



午前11時過ぎ。羽鳥邸。


リンゴーン・・・


呼び鈴を鳴らす江口の姿があった。すぐに羽鳥邸の広い庭の奥から、安田が駆けつけてくる。


安田「はい、どちら様で?」


江口「あ・・・」


予定では年老いた井上が出迎えるはずだった。しかし若い警備服姿の男が現れた事で、一瞬ドキッとする。


江口「あ、あぁ・・・ えっと、私、江口と申しまして・・・。

    リナさんの英語を担当している教諭です」


安田「あ~、リナお嬢様の先生ですか。

    しかし今、お嬢様はコンサートに出向いてまして・・・」


江口「え? あ・・・ あ~そうでした! 

    確かそう聞いていたのに・・・」


江口は白々しく、頭をかく。


江口「すいません私・・・、補講の件で頭がいっぱいで。

    今日、リナさんが不在というのを忘れてました」


その白々しい演技を、安田はもちろん見抜いていた。


安田「そうでしたか。わざわざ来ていただいたのに・・・

    あの、もしよろしかったらお茶でも。


    お嬢様の先生ですからね。1杯ぐらい頂いていって下さい」


安田はあえて江口を邸内に招き入れる。


江口「あ、ありがとうございます。あの・・・

    確か前にうかがった時は、お年を召した警備員の方が・・・」


安田「あぁ、井上主任ですね。今日は体調が悪くて私が来ているんですよ」


安田は玄関の鍵を開け、江口を1階の応接室へ通した。


安田「今日は冷えますからね。お茶とコーヒー、どちらを?」


江口「じゃ、じゃあ・・ コーヒーで」


安田「かしこまりました」


安田はキッチンへ向かい、手際よくコーヒーを用意する。


江口「・・・ ・・・」


しばらくすると江口の前に、湯気の立ったコーヒーが-差し出された。


安田「はいどうぞ。私、ちょっと庭で作業がありますので・・・

    しばらく、おくつろぎください」


江口「ど、どうもご丁寧に」


安田「お帰りになる時は、一言声をかけてくださいね。

    最後にご挨拶をさせて頂きますので」


そう言うと安田は、軽くお辞儀をする。


江口「あ・・・」


江口の言葉を待たずに、安田はそそくさと玄関から外へ出て行った。


思いがけず一人邸内に取り残される江口。ちらっと窓の外を見やると、安田が熱心に芝刈りをしている姿が見える。


江口「・・・ ・・・」


ゴクリと唾を飲みこんだ江口はメモ帳を取り出し、羽鳥邸内の見取り図を殴り書きし始めた。1階の応接室、ピアノ室、キッチンや書斎、トイレの配置をさっとメモる。


窓の外の安田に気をつけながら、江口は2階へと上っていった。


(江口「部屋が・・・ 7つもあるのか・・・」)


一通り邸内の見取り図をメモした江口。窓の外を見やると、安田はまだ熱心に作業を続けている。


1階に降りた江口は、緊張しながら1階中央にある電話に手をかけた。


江口「・・・ ・・・」


受話器を取り、下の喋り口に手をかけ、力を入れてくるくる回す。やがて上カバーがはずれた。


ポケットから取り出した小さな電子機器を差し込み力をいれる。そして再び上カバーを取り付け、受話器を戻した。


江口「・・・。ふ~」


大きく息を吐いた江口は、周りを気にしながら玄関を出て行った。のんびり芝刈り機を操作していた安田に声をかける。


江口「あ、コーヒーありがとうございます。

    リナさんにはよろしく言っておいてください」


声をかけられた安田は芝刈り機を止めた。


安田「あ! はい、先生。お気をつけて」


元気のよい声とともに、深々と頭を下げる。


安田「・・・ ・・・」


そして、じっと江口の帰る姿を見つめていた。



・・・ ・・・。


午後1時。NHKホール。

2時間にも及ぶコンサートが、拍手喝采の中終了した。


ヒロ「どうだった? 疲れてないかい?」


リナ「ううん!大丈夫! とってもよかった!

    また生のオーケストラ聴きたいわ!」


ヒロ「そうか。じゃぁ次のデートもクラシックかな。ははは」


ヒロはちらりと腕時計を見る。


ヒロ「じゃぁトイレの後、正面玄関で落ち合おう。その後ランチだ」


リナ「うん!」


リナが人混みに消えていくのを見たヒロは、柱の陰に隠れ、携帯をかけた。


ヒロ「どうだ?」


安田「ビンゴだよ。

    江口は邸内をチェックして、ご丁寧に盗聴器1つ付けていった」


ヒロ「そうか・・・ 彼の追跡は?」


安田「いや、今日はそのまま帰したよ。

    盗聴器を付けたって事は、まだ黒幕は出てくる気はないって事だろ?


    それに社長の警備もあるんでな」


相手は見えないが、ヒロは2度首を縦に振る。


ヒロ「そうだな・・・ わかった。盗聴器はそのままにしておこう。

    逆手にとっておびき出す作戦を練ってみる」


安田「了解」


携帯を切ったヒロは、それをくるりと手のひらで回した。


(ヒロ「・・・。これからだな・・・」)



・・・ ・・・。



原宿の街を歩くヒロとリナの姿があった。

イタリアンレストランでパスタを食べ、しばらく人混みの中をブラブラと歩く。


静かに歩くリナにヒロが声をかけた。


ヒロ「どうした? いつもおしゃべりなのに・・・

    やけに無口だね、今日は」


リナは自分の足下を見ながら応える。


リナ「うん。なんか・・・ ね」


ヒロ「 ? よくわからないな」


リナ「うん。嬉しいんだけど・・・ なんかいつもと違うから・・・。

    はは。よくわからないの、私も」


本来、大好きな人とのデートで嬉しいはずだが・・・リナは何故か、微妙な心境だった。


ヒロ「ふふ。初デートでブルー入ったかな?

    OK、俺たちをつなぎ止めるのは音楽のようだ」


笑いながらヒロは続ける。


ヒロ「どうだい? 今から家に帰ってピアノを弾くってのは?」


その言葉に、リナは笑顔で返した。


リナ「うん!」


瞬間、木枯らしが吹く。リナは寒そうに手を口にあて、暖かい息を送り込んだ。


それを見たヒロは、リナの手を優しく握る。


リナ「あ・・・」


その暖かい手はリナの手をひっぱり、人混みをかき分けて先へと進んでいった。



・・・ ・・・。


1時間後、羽鳥邸に到着した2人。


リナに続いて家の中に入った瞬間、ヒロは違和感を感じた。


ヒロ「・・・ ・・・」


いつも見慣れているはずの邸内だが・・・ 何かが違う。


(ヒロ「安田の話じゃ・・・

     江口は邸内を見て、盗聴器を付けただけだと・・・」)


2階の自分の部屋に向かっていたリナが、立ち止まってるヒロに気づいて声をかける。


リナ「ヒロ先生、どうしたの?」


ヒロ「いや・・・ 何でもない・・・」


胸の中で引っかかったままの違和感。


リナ「私、部屋で着替えてすぐピアノ室行くからね」


リナは先ほどまでの微妙な表情とはうって変わって、かわいらしい笑顔を見せた。


ヒロ「あぁ・・・」


リナが2階の一番奥の部屋に消えるのを見たヒロは、キッチンや応接室、トイレと今一度チェックを入れてみる。


何も変わらないようだが・・・ どうしてもぬぐいきれない違和感が残った。


(ヒロ「何かある・・・ はずだ・・・」)


パタパタパタ・・・。


部屋着に着替えたリナが、スリッパの音を響かせ階段を下りてくる。


リナ「あれ? ピアノ室にいるかと思ったら・・・ 何してんの?」


応接室の真ん中でぼーっと立ち尽くすヒロ。ゆっくりとリナに視線を合わせてつぶやいた。


ヒロ「あぁ・・・ もしよかったら・・・。リナの・・・



     リナの部屋に行きたい」


リナ「え!?」



             (第16話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


羽鳥邸の中で違和感を感じたヒロは、リナにあるおまじないを実行するように言った。


そして・・・


リナの部屋に、何者かが侵入した事をヒロは知る。


少しずつ事態が深刻な方向に動き始めていると感じたヒロは、ある作戦を実行する事にした。



次回 「 第16話  作  戦(2008年) 」

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