第16話 作 戦(2008年)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回までのあらすじ
2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。
話は・・・ 4年前の2008年。
リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。
ヒロは、リナの父親・魁斗が開発したセキュリティソフトを狙ったテロリストがいるという情報を得た。
そのテロリストと繋がりがあると思われるリナの英語教諭・江口。ヒロは、相棒の安田と共にさぐりを入れる。
リナとのデートを終え、羽鳥邸に戻ったヒロは・・・何かの違和感を感じた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第16話 作 戦(2008年)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2008年、11月8日(土)。午後5時14分、羽鳥邸。
リナ「わ、私の部屋に・・・?」
ヒロ「あぁ」
ヒロは真剣な眼差しでリナの目を見つめる。
リナ「で、でも・・・」
不安そうなリナにヒロはおどけて笑って見せた。
ヒロ「ははは。心配しないでくれ。
まさか最初のデートの日に、押し倒したりはしないさ。
こう見えても俺は英国紳士。ただリナの部屋を見てみたいだけさ」
リナ「・・・ ・・・」
リナは逡巡した後、小さく頷いた。
リナ「じゃ、じゃぁ・・・ 少しだけ。
2階の1番奥の部屋だから・・・」
そう言うとリナはドキドキしながら階段を上り、ヒロを案内する。リナの後ろをついていくヒロは、違和感の正体が何かを突き止めようと邸内の至る所に視線を突き刺していった。
ヒロ「・・・ ・・・」
2階の廊下を一番奥まで進んでいくと、リナの部屋の前にたどり着く。リナは金色のノブを回し、扉を開けた。
リナ「ど、どうぞ・・・」
ヒロ「お邪魔します」
小さな笑顔を見せたヒロは、静かに中へ入っていく。
ヒロ「広いね。それにちゃんと綺麗にしてあるんだね」
リナ「お掃除は・・・家政婦の美也さんが週に2回やってくれるの。
私は片付け苦手なんだ・・・。へへ」
下を向きながら照れ笑いを浮かべるリナをよそに、ヒロは部屋のいたるところにチェックを入れた。
ヒロ「・・・ ・・・」
ベッドや机、TVや窓の位置を確認しながら、スタスタと窓の所まで歩いて行く。
リナ「あ・・・」
彼氏といえど、初めて自分の部屋に男を招き入れたリナ。どこからともなく、不安な気持ちが沸き起こった。
ヒロ「・・・ ・・・」
窓の外を見ながらヒロは考える。
(ヒロ「裏庭、そしてすぐ塀を越えれば一般道路か・・・。
目立たないように侵入するなら、この経路はあり得る・・・」)
一通りチェックを入れたヒロは、視線をリナに移した。
ヒロ「部屋の中、あがらせてくれてありがと」
リナはモジモジとして、どうしたらいいのかわからないといった様子だ。
ヒロ「そんなに緊張しなくていいってば。俺は英国紳士!
近いうち俺の部屋も案内するからさ」
リナ「う、うん・・・」
照れるリナは、ヒロと視線を合わせる事が出来ない。
ヒロ「ね、1つおまじない教えてあげるよ。
女の子って、おまじない大好きなんだろ?」
リナ「え? ど、どんな・・・?」
ようやくリナが視線を合わせてくれた。
ヒロ「シャーペンの芯はあるかな?」
リナ「え? シャーペンの芯?」
ヒロ「そ!」
ニコッと大げさに笑ってみせるヒロ。
リナは机の上にある道具箱から、シャーペンの芯が20本ほど入った小さな入れ物を取り出す。
リナ「HBだけど・・・?」
ヒロ「OK! そいつを1本もらおう」
シャーペンの芯を1本だけ受け取った。
ヒロ「ついてきて」
いったん部屋の外に出るヒロ。そしてヒロの後ろをついてくるリナ。部屋の扉を閉じると、ヒロはシャーペンの芯をリナの顔の前に差し出した。
ヒロ「このシャーペンの芯を扉のここ・・・」
ヒロは扉の右下を指さす。
ヒロ「扉に蝶番が2つあるだろ?
そのうちの下の蝶番の上にのっけるんだ」
言う通りヒロは下の蝶番の上に、横向きに芯を静かにのせた。
リナ「 ? これが何のおまじないなの?」
ヒロ「うん。1ヶ月この芯を折らずにいたら・・・
恋は永遠にうまくいくってね。
イギリスの女子高生なら、誰でも知ってるおまじないさ」
リナ「芯を折らずに・・・?」
ヒロ「そう! 美也さんは何曜日にリナの部屋を掃除するんだっけ?」
リナ「え? あ・・月曜日と木曜日」
ヒロ「ならば月と木曜日以外でいいから、毎日この芯をセットするんだ。
部屋を出る時にセット。そして部屋に戻って入る時には芯を折らずに取る。
不注意で部屋に入って、自分で折っちゃったらダメさ」
リナ「ふ~ん・・・ 何か変なおまじないね」
ヒロ「あぁ、【Love is blind】。恋は盲目って言うからね。
これに気づかないようじゃ、恋人の隠し事も気づかないって話さ」
リナ「わかった! じゃぁ明日からやってみる!」
ヒロ「あぁ。芯が折れたか折れなかったかは・・・ 正直に俺に話せよ」
リナ「うん。嘘つかないよ。でも絶対折らない自信あるわよ。
私、けっこう細かい事は気づくタイプだから」
ヒロはおどけて笑う。
ヒロ「はは。そうか。じゃぁ今日から1ヶ月だ。Good Luck!
もし成功したら、クリスマスプレゼントを贈るよ」
緊張のほぐれたリナの顔が笑顔になった。
リナ「ホントに!? わ~! 絶対成功させる!
絶対に折らない! プレゼントもらうから!!」
ヒロ「あぁ、結果を楽しみにしているよ」
ふとヒロは自分の携帯を取り出し、手のひらでクルクルと回してみせる。
リナ「 ? 」
ヒロ「俺の電話番号も教えておく。メールだけじゃ不便な時もあるだろうし」
リナ「う、うん・・・」
ヒロ「あれ? なんかもっと喜ぶと思ったけど?」
以前メールアドレスを教えた時には、大はしゃぎしていたリナ。
リナ「あぁ・・・ なんでだろ? 嬉しすぎて現実味がないのかも・・・」
今回は終始緊張気味のリナを、ヒロは優しい目で見つめた。赤外線でリナの携帯に、自身の番号を送る。再び携帯を手のひらでクルクルと回すと、
ヒロ「何かあれば、いつでも電話してくれ」
言いながら携帯をポケットにしまった。
・・・ ・・・。
11月25日(火)。
リナとの初デートから2週間半が過ぎた。リナの警護、およびテロリストと繋がりがあるとみている江口の調査を続けているヒロ、そして安田。
何の手がかりも掴めない状況に、苛立ちを感じ始める。そんな時、リナから一通のメールが届いた。
リナ【今度の日曜日に学園祭があるんだ。
うちのクラスは、定番の焼きそばとたこ焼きだけど・・・。
絶対来てよね!】
すかさずヒロは返信する。
ヒロ【もちろん行くよ。
あとシャーペンの芯のおまじないは・・・まだ継続中?】
1分後、返ってきたメールに眉をひそめた。
リナ【・・・。今日おうち帰ったら折れてた・・・
美也さんは部屋に入ってないっていうし・・・】
ヒロ「・・・ ・・・」
ヒロはこれから取るべき行動を考える。
ヒロ【今から君の家へ向かう】
とメールを送信したのは、車に乗り込んだ時だった。
・・・ ・・・。
30分後、ヒロは羽鳥邸の広い駐車場に車を止めた。すぐに呼び鈴を鳴らし、出迎えた家政婦の新城に挨拶をする。
新城「あら先生。どうしました? 今日はレッスンの日じゃないのに」
ヒロ「すいません。ちょっとリナに用事があって・・・。
すぐ済みますので」
そう言うとヒロは邸内へと歩いていった。
リナ「きゅ、急にどうしたの?」
ちょうど階段を降りてきたリナが、慌てた様子のヒロに声をかける。
ヒロ「いや、ちょっとね。ねぇ、リナの部屋、ちょっと見せてよ」
言うが早いか、リナを置き去りにして真っ直ぐ目的地に向かった。
リナ「え、ちょ・・・」
あわててリナはヒロの背中を追いかける。ようやく部屋の前で追いつくと、ヒロがドアノブをマジマジと見ていた。
ヒロ「今日帰ってきたら、芯が折れていたんだよね?」
ヒロは背中を向けたまま、リナに声をかける。
リナ「うん・・・。でも美也さんが言うには、誰も部屋に入ってないって。
地震かな?」
ヒロ「・・・」
無言でヒロはノブに手をかけ、静かに扉を開いた。
リナ「あ・・・」
ヒロは扉を開けた状態で中には入らない。ただ、じっと部屋の中を凝視している。
ヒロ「・・・ ・・・」
しばらくヒロの様子を見ていたリナは、小さな声をかけようとした。
リナ「ね、ねぇ・・・」
リナの言葉を遮り、ヒロが声をかける。
ヒロ「なぁ、リナ・・・」
ヒロは壁に掛かっている時計が、以前見た時より微妙に傾いている事。さらに奥のタンスの向きも若干違う事を確認した。
(ヒロ「何か・・・ 探していたか・・・?」)
リナ「なに?」
ヒロ「あ、いや・・・。部屋の中の物、何か動かしたりした?」
リナ「え? いや別に何も触ってないけど」
何者かがリナの部屋に侵入したのは間違いない。
ヒロ「そうか・・・。まさかシャーペンの芯、折れるとはね。
ひょっとして、井上さんとか勝手に入っちゃったかな?」
リナ「まさか。美也さん以外、誰も私の部屋に入る人はいないわ」
ヒロ「ミスターカイトでも?」
リナ「うん。パパでも勝手には入らない」
ヒロ「そうか・・・。てっきり俺以外の男がリナの部屋に入ったかと。
彼氏としては許せないだろ? だから駆けつけてきたのさ」
ヒロの言葉に、リナの顔がほころんだ。
リナ「なんか嬉しい・・・。ホントに私の彼氏なんだ?」
ヒロ「当たり前だろ。リナに何かあればいつだってすぐ飛んでくるから」
リナ「う、うん・・・」
下を向いてモジモジしているリナは、ヒロの【彼氏的発言】にどう反応していいのかわからない。
ヒロ「もしストーカーみたいなヤツいたら、すぐ電話しろよ」
リナ「わかった」
ヒロ「じゃぁ、帰ろうかな。またメールして」
リナ「あ、あの・・・ 明日からまたシャーペンの芯のおまじないするから。
今度は絶対1ヶ月折らずにクリアしてみせるわ!」
ヒロ「あぁ。再チャレンジだな。OK。
クリスマスまで持ちこたえたら、何かプレゼントするよ」
リナの顔に笑顔が戻った。
リナ「よし! 何ねだろうか毎日考えてるからね!」
ヒロ「あぁ」
笑顔を返したヒロは、リナと共に1階へ降りていく。
ヒロ「ちょっと、美也さんに挨拶してくる」
リナ「うん」
リナは応接室に残り、ヒロはキッチンに入っていった。見るからに働き者の家政婦・新城が額に汗を流し、洗いものをしている。
ヒロ「あ、美也さん。今日は突然すいません」
新城「いえ・・・何かありました?」
仕事の手を止め、新城は笑顔で返した。
ヒロ「今日、この家に来たお客様とかいますか?」
新城「今日? 私は5時から担当だし・・・
昼は警備の井上さんがこの家にいますけど・・ あ!」
何かを思い出した表情を浮かべる新城。
ヒロ「何か?」
新城「えぇ。確か今日、ピアノの調律師が来たと・・・」
ヒロ「調律師?」
新城「えぇ。月1回、月末に来てくれる方で。
リナお嬢様がピアノを始めてからずっと同じ人が調律してくださいますの」
ヒロ「・・・ ・・・」
新城「それ以外の人が来たという話は、聞いてないですわね」
ヒロ「わかりました。あぁ、すいませんね。変な事聞いちゃって」
笑いながら帰ろうとするヒロを新城が止める。
新城「ねぇ、先生。1つお聞きしていいかしら?」
ヒロ「何か?」
ヒロは両手を広げて「どうぞ」というジェスチャーをした。
新城「ストレートに聞くわよ。リナお嬢様とおつきあいを?」
ヒロの目をじっと見つめて、新城は質問する。
ヒロ「え!? 俺が!?」
大笑いを見せたヒロは、否定も肯定もせず、羽鳥邸を後にした。
・・・ ・・・。
2008年11月26日(水)報告書
11月25日(火)、ミス・リナの部屋に何者かが侵入した事を確認した。また、ミス・リナの部屋だけでなく、2階の部屋のいくつかに侵入の形跡が見られた。
昼間の警備を担当した井上主任によれば、その日訪れた客人は調律師1人だという。主任はピアノ室で、調律に立ち会っている。
なお、訪れた調律師は5年以上同じ人物が務めている顔見知りとの事。調律師が今回の件に関わりがあるかは、現在調査中である。
推測の域を超えないが、調律師と主任がピアノ室にいる間、第三者が邸内に忍び込んだ可能性がある。調律師が来た事で、主任は邸内の警報装置を解除。そして2人がピアノ室にいる間、その人物は裏口から入った。
約1時間の調律の間、そいつは2階の部屋に侵入。目的はソフトに関する何らかの情報か・・・。あるいは邸内に盗聴器・盗撮機器などを設置し、内部情報を得ようとしたか・・・。
現在盗聴器が1階中央の電話に設置されている事を確認しているが(すでに報告済み)、取り外しはしていない。それ以外に盗聴・盗撮などの機器はない事は確認している。
そこで・・・
危険ではあるが1つの作戦を実行する。作戦の目的は、もちろんテロリストを捕まえる事。
なお、作戦に関してはミス・リナの安全を保障する。どんな事態が起ころうとも、ミス・リナに危険は及ばない。
社内での調査はいつものように安田から連絡を逐一受けるようお願いする。この1ヶ月が最も危険な時期。安田の側を離れず行動していただきたい。
ヒロ・ハーグリーブス
・・・ ・・・。
11月28日(金)午後9時半。
ヒロはリナのピアノレッスンを終えた後、1階にある電話の前に立っていた。キッチンの奥にいる新城に声をかける。
ヒロ「美也さん! 今日、携帯忘れちゃって・・・。電話をお借りしても?」
奥のキッチンから新城の「どうぞ~」の声が聞こえた。ヒロは・・・ 盗聴器がしかけられている電話を手にして、とある番号を入力する。
ヒロ「あ、もしもし。羽鳥家で仕事しているヒロと言います。
羽鳥社長に取り次いでもらえますか?」
電話をかけた先は、リナの父親・魁斗が社長を務める羽鳥コーポレーションだ。
魁斗「私だが?」
ヒロ「Oh,ミスターカイト。実は祖父が入院しまして・・・
たいした事ないと本人は言ってますが、年齢が年齢なので。
様子を見に、一度イギリスへ帰国しようかと。えぇ、そうです。
来週の木曜日から1週間ほどお休みを。はい、そうです」
受話器を握ったまま、何度となく首を縦に振る。
ヒロ「ありがとうございます。
えぇ、お土産にスコッチ買ってきますよ。では・・・」
静かに受話器を置くと、横に寂しそうなリナが立っていた。
リナ「ヒロ先生、来週イギリス戻るの?」
ヒロ「あぁ、ちょっとグランパ・・・祖父がね。
大丈夫とは聞いているが、たまに顔を見せとかないとね」
リナ「そっか・・・。じゃあ、来週はレッスンお休み?」
ヒロ「そうだね。1週間で日本に戻る予定だ」
リナ「1週間もレッスンないんだ・・・」
リナが唇をとんがらせる。
ヒロ「・・・ ・・・」
リナの寂しそうな表情を見たヒロは、反射的に自分の胸を抑えた。
ヒロ「俺だって寂しいよ。ちゃんとクリスマスの夜は空けておくからさ」
リナ「うん・・・」
ヒロはちらっと、奥のキッチンを覗き込む。家政婦の新城が背中を向けて、一生懸命洗いものをしていた。
ヒロ「明後日の学園祭だって、ちゃんと行くから」
そう言うとヒロは、静かにリナの頬にキスをした。
リナ「!?」
頬とはいえ、唐突なキスに一気に顔を赤らめるリナ。
ヒロ「じゃぁ、また!」
笑いながらヒロは羽鳥邸を後にする。
リナ「・・・ ・・・」
リナは放心状態で、頬に手をあてるのが精一杯だった。
・・・ ・・・。
1時間後、ヒロは自分の部屋にいた。
ヒロ「・・・ ・・・」
机の上にばらまかれた何らかの金属部品を、じっと見つめている。しばらくして、それらを手にし始めた。
(ヒロ「こいつを使う機会が・・・」)
バラバラになっていた部品が、ヒロの手により組み立てられていく。
(ヒロ「なければいいが・・・」)
ジャキン!
甲高い金属音と共に、ヒロの手には・・・
(ヒロ「お前も撃ちたくないよな・・・
P99」)
ワルサーP99という銃が握られていた。
(第17話へ続く)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回予告
リナの学園祭に訪れたヒロ。江口と接触を図り、間違いなく彼が今回の件に関わっていると確信した。
学園祭から数日・・・ヒロがイギリスに戻ったと信じた江口は、ある男からリナを学校に留めておくように指示される。
次回 「 第17話 危 機(2008年) 」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




