第102話 妹
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2008年。
リナ、そして父親の魁斗が、謎の組織に狙われた。
イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。
2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾と共に誘拐犯を追うリナ。
2人は黒幕が警視庁捜査官の藤岡である事を突きとめるが、彼等のアジトで捕まってしまう。
藤岡に監禁されたリナだが、母親に届いたメールを解読。死んだと思っていた父親・魁斗が生きていた事を知った。
ヒロのサイトを通してリナとコンタクトを取った魁斗。目黒基地に侵入し、誘拐された次女雛子、そして慎吾とリナを救出する。
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第102話 妹
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2012年12月21日(金)、午前1時6分。目黒基地内。
暗闇の中、抱き合う父と娘。
魁斗「リナ! リナ!!」
力の限り、娘を抱きしめる。
リナ「パパ・・・」
抱きしめ返すリナ・・・涙が止まらない。熱い抱擁は1分程度続いた。
魁斗「もう少し抱きしめていたいが・・・」
魁斗はリナの両肩を前に突き出した。暗闇に目が慣れてきた魁斗は、4年ぶりに成長したリナの顔を確認する。
リナ「・・・ ・・・」
そしてリナも、4年ぶりに父親の顔を確認した。
リナ「パパ・・・」
明らかに白髪は増え、色々な修羅場をくぐり抜けたであろうその経験が、顔に出ているように思える。それでも優しい表情は4年前と何ら変わらない。
魁斗「時間がない。まずはここを出てからだ」
頷いたリナ。魁斗は娘の手を引いて、廊下を出る。
慎吾「あ、リナ先輩・・・」
廊下を出ると、慎吾が待機していた。リナは言葉より早く、慎吾を抱きしめる。
リナ「よかった・・・ 生きているとは思っていたけど・・・
よかった・・・」
父親だけでなく、死んだかも知れないと思っていた慎吾もまた生きていた。実際それを確認出来るまで不安でしょうがなかったが・・・リナは、力強く慎吾を抱きしめた。
慎吾「あの・・・ 胸が・・・ あたってますよ・・・?」
リナ「・・・ ・・・」
そして、間違いなく【いつもの慎吾】だと確信すると、密着していた体を遠ざける。廊下の先に視線を移すと、数m先で父親の魁斗が2人を待っていた。
魁斗「ここだ。抜け道がここにある」
親指を立てて、皆が行くべき方向を指し示す。
慎吾「あ、あの・・・ 藤岡さんは・・・?」
足早に歩を進めながらも、慎吾は魁斗に質問した。
魁斗「不測の事態が生じたんだ。まずは逃げる事を考える。
そして状況を把握しようとするだろう」
慎吾「じょ、状況を把握したら・・・?
武装連中を引き連れて襲ってくるかも・・・」
魁斗「基地内のPC全てに、警察がこちらに向かっている情報を流した。
実際、すでに警察には連絡済み。
マスターは・・・ すでに基地の外さ」
慎吾「な、なるほど・・・」
リナ「マスター?」
魁斗「藤岡の事だ。組織の中ではそう呼ばれているんだ。
中国側のスパイさ・・・ 国籍は日本だがな」
リナ「中国のスパイ・・・」
魁斗「日本の警視庁・コンピュータ犯罪捜査官として潜入し・・・
日本のハイテク技術や、犯罪捜査に関する情報を取得。
それらを全て中国側に横流ししている。
7年も前からな・・・」
リナ「な・・・」
慎吾「ふ、藤岡さんが・・・」
魁斗「・・・ ・・・」
魁斗は自身の携帯画面を見ながら、足早に前に先頭を進んで行く。
リナ「パ、パパ・・・。
この建物にも何人かは、銃を持ったヤツがいるんでしょ?」
今のところ廊下には、リナ達3人だけだが・・・いつ、銃を持った連中と遭遇するかもという不安でいっぱいだ。
魁斗「あぁ。だが・・・彼等の動きは全て携帯端末でも把握出来る」
リナ「え・・・? な、何で・・・?」
魁斗「あの連中は全て・・・
心臓に、精巧なポジショニングシステム・・・
すなわち、位置を把握出来る電子機器が埋め込まれているんだ」
リナ「な・・・」
魁斗「マスターの仕業さ。
心臓が動いている限り、どこにいても位置を捉えられる。
マスターは・・・ そういう男だ」
魁斗はリナに携帯の画面を見せた。目黒基地を上から見た地図、そして赤い点とその横にアルファベットと数字が書かれている。
(リナ「・・・ 個人の、識別番号・・・?」)
そしてその赤い点は、時間と共に動いている。
慎吾「基地の・・・ 入り口や外壁周辺に固まってますね・・・」
横から魁斗の携帯を覗き込んだ慎吾。
魁斗「あぁ。我々が今向かってるのはここ・・・」
魁斗は携帯の1点を指さす。
リナ「正面入り口? たくさん敵がいるのに?」
魁斗「いや。ここだ・・・」
魁斗は携帯の画面に触れ、指をくるりと回転させる。すると、上から見ていた地図が立体的に回転し、横から見た図になった。
魁斗「敵はここ・・・ 地上と地下1階に集中している。
我々が行くのは、地下3階の地下通路だ。
ここには、外へ通じる車道がある」
慎吾「ち、地下3階・・・? そんな所もあるんですか?」
魁斗「建物全体に超音波を走らせて初めてわかった。
おそらくマスターら一部を除いて、このルートを知らないだろう」
慎吾「す、すごい・・・ それを見抜くなんて・・・」
3人は誰とも遭遇する事無く・・・ 目的地へ向かった。
・・・ ・・・。
扉の前で魁斗は立ち止まった。
魁斗「・・・ ・・・」
携帯を操作して、何かを確認する。
魁斗「大丈夫だ。トラップも無い」
リナ「ま、待って・・・ 落とし穴とか・・・ あるかも?」
魁斗「それも大丈夫。先ほども言ったが、建物自体に超音波も走らせた。
建物自体の構造は、全て解析済み。
落とし穴や隠し扉があれば、それも全てわかるさ」
慎吾「す、すごい・・・」
魁斗「敵もここにはいない。私に離れず着いてくるんだ」
リナ「う、うん・・・」
慎吾「はい・・・」
魁斗は扉を開け、足早に通路の右側にある階段を降りていった。すると建物の外・・・地下道路に出た。そこには大きめのバンが1台、止まっている。
リナ「い・・・ 井上さん!」
運転手の顔を見て、リナが驚いた表情を見せた。
井上「リナお嬢さま。しばらくぶりです」
魁斗「会話は車に乗ってからだ。急いで」
慎吾はバンの後ろから車に入る。
慎吾「あ・・・」
思わず声をあげた視線の先には・・・
学生服の上からコートをかけた、幼さの残る可愛らしい女の子が座っていた。
(慎吾「あのコートは・・・ リナ先輩のお父さんの・・・」)
ツインテールでくりっとした目・・・その視線は無言で慎吾を突き刺している。
慎吾「リナ先輩の・・・ 妹さん・・・ですよね?」
その顔立ちは何となくリナに似ていて、すぐに誘拐されていたリナの妹だと分かった。
雛子「・・・ ・・・」
慎吾「あ! す、すいません・・・ 僕、慎吾って言います。
は、初めまして・・・」
リナ「雛!!」
慎吾の背中を押しのけてリナが車の中に入ってきた。
雛子「お姉ちゃん!!」
リナを見た雛子の目はさらに大きくなり、そのまま2人は抱き合った。
魁斗「よし。車を出してくれ」
助手席に座った魁斗が、運転席の井上に合図を出した。
井上「はい、旦那様」
魁斗「ルートは直接指示する。真っ直ぐ行って、200m先を右だ」
井上「了解しました」
スピードを上げ、揺れる車の中・・・ 後部座席でリナと雛子は涙を流しながら、ようやく抱擁を解いた。
リナ「ホントによかった・・・ どこかケガはない? 何かされてない?」
雛子「うん・・・。大丈夫・・・。ずっと・・・怖かったけど・・・」
脅しを受けた事もある。銃を頭にあてられた事もある。1週間以上部屋に押し込められ・・・脅しを受ける以外、誰とも会話する事を許されなかった。
誘拐されていた期間・・・ 考えていたのは絶望的な事ばかり。
まさか自分の父親に救出されるとは・・・夢にも思っていなかった。
リナ「1つ聞いていい?」
雛子「なに・・・?」
リナ「どうやって・・・ 誘拐されたの?」
雛子「・・・ ・・・」
リナ「言いたくないなら、言わなくていいわ」
雛子は首を横に振る。
雛子「ううん・・・。運転手の安田さん・・・」
リナ「安田さん・・・?」
雛子「うん。彼に・・・」
・・・ ・・・。
午前1時34分。首都高速。
猛スピードで車を走らせる藤岡の姿があった。ハンドルを握りながら携帯電話をかける。1コールで繋がった。
藤岡「今、どこにいる!?」
男「目黒基地に向かってますが?」
電話の向こうの男は、すぐに返事を返す。
藤岡「引き返せ。基地は今、警察が包囲している」
男「では、どこに?」
藤岡「女は一緒だな?」
男「えぇ。ずっと眠らせています」
藤岡「よし。では成田方向へ向かえ。細かい指示はまた後でする」
男「わかりました」
藤岡「審判の時まで22時間。女を狙う奴らもいるかもしれん。
グランドマスターは・・・
彼女を新世界に連れて行くと言っている。
女は絶対手放すなよ」
男「もちろんです」
藤岡「周囲は常に警戒。
お前も狙われる可能性がある事を忘れるな・・・
安田」
安田「えぇ、マスター」
(第103話へ続く)
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次回予告
雛子が誘拐されたその裏には・・・ 羽鳥家運転手を務める安田が関わっていた。
そしてグランドマスターと呼ばれる、別の男の存在が・・・
次回 「 第103話 グランドマスター 」
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