笑顔の理由
シンは首を傾げる。受付カウンターの上で、書類が小気味よいテンポで分類されていた。
終わると、トントンとカウンターの上に打ち付けることで、紙の束は綺麗に揃っていく。
シンは首を反対側に傾げる。
「なんでずっと同じ顔してんの?」
オリエは算盤を取り出しながら、表情を変えずに淡々と答える。
「変える必要がないからです」
「でもさー」
カウンターに頬杖をついてシンが口を尖らせる。
「アロウが入ってきた時はニコニコしてたよね」
「……ニコニコした覚えはありませんが」
「ウソだぁ」
シンはケラケラと笑う。
実際、顔は多少緩んではいたかもしれない。人に気づかれたことはないのだが。
「アロウのこと好きなんだね」
今日の天気でも話すように、シンはあっけらかんと言う。
2人の視線は、自然と壁際の窓口で会計をしている話題の人物へと向かった。
シンの視線は透明で、ただ純粋な興味と関心に満ちている。悪い子ではなさそうだ。
アロウがみなしごを部屋に受け入れたと聞いた時は驚いたが、余計な詮索は不要なのだろう。悪意のある人間を懐に引き入れるほどアロウも甘くはない。
「……恩人ですからね」
簡潔に答えると、シンが面白そうに視線を戻してくる。
その時、カウンターの端で声が上がった。
「えっ……なんだこれ!?」
「……ドングリですね、これ」
アロウの対応をしていた女性職員がカウンターに散らばったものをつまみ上げる。
茶色くてつやつやして、傘をかぶった木の実だ。空になったアロウの財布が一緒に転がっている。
オリエは再び視線を正面に戻した。
シンはニコニコ……というより、笑いをめいっぱいこらえた顔をしている。
「シンさん、先程から後ろ手に弄んでいる袋はなんですか?」
「ボクのおやつ入れ〜」
「貴方のおやつを買ってもらうアロウさんのお財布、という意味ですね?」
その瞬間、距離があるにもかかわらずばっとアロウがこちらを見た。相変わらず耳がいい。
「シーンー!!」
「あ、バレた。逃げよっ」
てへっと舌を出してシンが身を翻す。
アロウが鬼の形相で追う。館内で二人の鬼ごっこが始まった。
――あの様子ではおやつは買ってもらえないと思うが。
以前よりはるかに表情豊かになったアロウを見送り、オリエはほんの少し笑ったのだった。




