アレクシス・エリオの悩み
今回は、アレクシスの視点です!
初めまして。
僕は、アレクシス・エリオって言います。
この前、お屋敷に来て一年が過ぎました。
ヴィタの歓迎会と同じくらいお祝いされて、ちょっと恥ずかしかったです。
このお屋敷は、父さんと母さん、兄弟たちがいる家とは違い、
誰も僕に「剣術をしろ」と、言ってこないので、少し過ごしやすいです。
そんな僕ですが、最近悩み事があります。
それは――
「ジュジュもね、ねねになるの!」
僕の後にやってきた、オルジュのことです。
最近、働いているメイドや従者たちに向かって、不思議なことを言っています。
「オルジュ、みんなお仕事してるから僕と絵本読も?」
「んーん、ジュジュ、あるく!」
そう言って、ぶんぶん手を振りあげて歩くオルジュ。
はぁ。とため息をついて、僕はオルジュの後ろに着いていきます。
そうしてオルジュは、ひとり、またひとりと従者たちに向かって嬉しそうに声をかけていきます。
「ジュジュねぇ、ねねになるんだよ!」
メイドや従者たちは微笑ましそうに、オルジュを見ているので、迷惑ではないと思います。
……ところでオルジュは、なんで「お姉ちゃんになる」なんてみんなに言い回ってるんだろう?
―――
オルジュの歓迎会が終わってから、三か月が過ぎました。
「この度、皆さんに新しい家族が増えます。」
僕は、集められた公務室でパトリック様の言葉に、ひとりだけぽかんと口を開けていました。
ヴィタとオルジュは、きゅいきゅいと笑いながら、僕の周りをぐるぐると走り回っています。
……僕は前に、パトリック様たちに連れて行ってもらったイルカを思い出していました。
“家族が増える”と言ったパトリック様は、いとおしそうにお腹を撫でています。
僕もつられて、お腹を見ました。
ゆったりとしたシャツのせいでわからなかったけど、お腹が出てきていました。
『ジュジュ、ねねになるの』
――この時になって、ようやくオルジュの言葉の意味がわかりました。
―――
アレクシスは、与えられた勉強部屋で考えていた。
『もう、このお屋敷にいれないのかもしれない』
パトリックたちに、そう言われた訳ではない。
でも、嬉しそうなパトリックとノエルを見ていたら、
アレクシスの中で、その“考え”は、いつの間にか“決定事項”になってしまっていた。
……家に戻されちゃうのかな。
そしたら、今みたいにお勉強できなくなっちゃう。
どうしたら――
「“ここにいてもいい”って、言ってもらえるかな。」
ひとり鬱々(うつうつ)と考えているアレクシス。
しばらくした後に、扉がノックされた。
「まだ勉強をしてるんですか?夕飯の時間ですよ。」
声の主はパトリックだった。
その声にはっとして、アレクシスは慌てて部屋から飛び出た。
「待たせて、ごめんなさい!」
「夢中になっていたんでしょう?よくあることですよ。」
パトリックは、アレクシスに微笑み、手を差し出す。
アレクシスは、その手を控えめに掴んだ。
食堂へと向かう途中。
パトリックが口を開いた。
「アレックス、悩み事ですか?」
パトリックは、呼び慣れたアレクシスの愛称を呼んだ。
パトリックの言葉に、ぎくりとアレクシスの肩が揺れた。
「……なんで、わかったんですか。」
この不安を吐き出してしまいたい。
でも、自分の“考え”が肯定されてしまったら……
ふたつの感情に揺られ続けたアレクシスは、ぽろっと『悩みがあること』を認めてしまった。
「なんででしょうね。……“親”の勘ってやつかもしれません。」
パトリックは、アレクシスの手に少しだけ力を込めた。
握られた手を見つめるアレクシス。
アレクシスもパトリックの手を握り返し、顔を上げた。
「……僕は、いつ家に戻ればいいんでしょうか。」
震える声で、アレクシスはパトリックに尋ねた。
パトリックは瞬きを二回ほどして、真剣なアレクシスの顔を見た。
「ここが家ですよ?」
「そうですけど、そうじゃなくて!」
――言葉って難しい!
一人で身をよじるアレクシス。
アレクシスを見て、パトリックはなんとなく察した。
「元の家が恋しくなりましたか?遅めのホームシックですね。」
パトリックは、くすくすと笑っていた。
アレクシスは、パトリックの口ぶりに疑問を抱く。
「……向こうの家に帰れと、言わないんですか?」
「どうして、そんなことを言わなきゃいけないんですか?」
いよいよアレクシスの頭の中は、混乱の極みだった。
勝手に“決定事項”だと思っていたものが、違うと言われてしまった。
嬉しいと、疑問と、不安が、頭の中で紙ねんどのようにこねられていた。
「いまさら、“帰れ”なんて言いませんよ。」
パトリックは、アレクシスを抱きかかえようとした。
アレクシスは、慌てて「ダメです!赤ちゃんが!」と、なんとか抱きかかえられるのを阻止した。
「ノエルに、何重にも防御魔法を張られているので、平気ですよ。」
「僕が平気じゃありませんっ!」
ふぅふぅと肩で息を切るアレクシス。
パトリックは小さく笑って、アレクシスを抱きしめた。
「それに、アレックスが“帰ってくる”家はここです。」
パトリックの言葉が、アレクシスの心にすとんと落ちてきた。
――そうか、帰る場所はここでいいのか。
じわじわと温かいものが、広がっていく。
急に視界がぼやけ出したが、全然気にならなかった。
「まだまだ、貴方は強くなれる伸び代がある。」
“そんな人材をみすみす手放したりなんかしませんよ。”
最後の方の声は聞き取りづらかったが、アレクシスには、
『ここに居てもいい』
それだけで十分だった。
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