パトリック・ブルックスの断罪
卒業パーティ当日。
ノエルと腕を組み、会場に現れたパトリック。
会場にいる全員の視線が、彼女に注がれた。
前髪を全て後ろに撫でつけ、
黒のブラウスとボトムスに、紫の上着とベストを重ねていた。
そして、黒を基調としたブローチにあしらわれているのは、パトリックの目のように赤い宝石だった。
見惚れる者と、好奇の視線を向ける者が半々だった。
しかし、パトリックは、視線に臆することなく、会場の真ん中へ歩いていく。
「(この空気……なんだか、懐かしささえ感じるわね)」
パトリックは、夢の中の未来を思い出していた。
――聖女に劇薬をかけて、顔を溶かしたあの日のことを。
昨日のようにも思えるし、はるか昔のようにも思えた。
――そして、現在に追いついた。
パトリックは、真っ直ぐ前を見据える。
険しい顔をした“四芒星”
それと――怯えた“フリ”をしているテイラー。
さあ、舞台は整った。
貴方はどんな風に、わたくしを楽しませてくれるのかしら?
―――
パーティ会場のステージ上の二階席に、国王と王妃が卒業生を見渡していた。
そして、卒業生に向けて、短い餞の言葉を送っていた。
国王の話が終わり、プロムに移行しようとしていた。
その時。
「お時間をいただいてもよろしいですか?」
アーリヤが、ステージにいる学園長と国王に向けて声をかけた。
予定にない進行をしようとするアーリヤを、学園長は止めようとした。
しかし、国王は短く許可を告げた後、そのまま黙ってしまった。
学園長は、しぶしぶ引き下がるしかなかった。
「近頃、学園で騒がれている噂話があります。」
アーリヤは、会場全体に届けるように声を張った。
意味ありげにパトリックを見つめるアーリヤと、瞬きを一度するパトリック。
四芒星の影に隠れているせいか、にやけている顔を隠そうともしないテイラー。
「この場を借りて、真実をお話したいと思います。」
そう言って、アーリヤはテイラーを前に出るよう促す。
テイラーは、慌てて“怯えているような”表情を作った。
パトリックは、ノエルにこそっと耳打ちをした。
ノエルは小さく頷き、生徒たちの間に紛れた。
「テイラー嬢、君の身に起きたことを話してくれないか。」
アーリヤは優しく声色で、テイラーに尋ねた。
全てアーリヤが主導してくれるものだと思って、気を抜いていたテイラー。
本人の証言が良いに決まってるわよね、と気を取り直し、くすんくすんと鼻を鳴らす。
「……前々から、小物がなくなったり、机に落書きをされていましたが、犯人に心当たりはありませんでした……」
テイラーは涙を流そうと、必死に悲しかった出来事を思い出そうとしていた。
「――でも、一週間前にパトリシアさんが、わたしを噴水に突き飛ばされて、ようやくわかったんです!」
テイラーは、現世で飼っていた犬が亡くなった時のことを思い出し、ぽろぽろと涙をこぼす。
「わたしが、妬ましかったんですよね……パトリシアさんっ!」
気分は、舞台の大女優だった。
有象無象も、攻略キャラも、国王でさえも、わたしの涙を信じてる……!
さぞ、悔しい顔をしているのだろうと、テイラーはちらりとパトリックを盗み見る。
パトリックは、テイラーには目もくれず、胸元のブローチの位置を調整していた。
「(わたしを無視してんじゃないわよっ!自分の立場がわかってないわけ!?)」
テイラーの目元がぴくぴくと痙攣していた。
「……それは、まことか?」
パトリックに向けての言葉だったが、
国王の低い声が、会場のざわめきを押し潰した。
パトリックは国王に向き直り、綺麗にお辞儀をした。
「いえ、そのような事実はございません。」
パトリックの言葉を聞き、テイラーは慌てて大声で反論した。
「そんなっ!あんなことまでしてきたのに……わたしは、パトリシアさんを許しますので、どうか罪を認めてくださいっ!」
『国王の言葉を遮った』
周りが少し、ざわめき出した。
その事実に気づいてないのは、テイラーだけだった。
先ほどより空気が重くなるも、糾弾会は続いた。
今もなお、テイラーはぽろぽろと涙を流し続けている。
一瞬、つまらなそうにテイラーを見た後、パトリックはにこりと笑った。
「では、私が犯人という証拠を見せてください。」
まるで、悪質な訪問販売人のような笑みを貼り付けたパトリック。
「私が納得できる証拠があれば、私が犯したという罪を認めましょう?」
「しょ、証拠も何も、突き飛ばしたところを皆さんが見てますし……」
パトリックは、もっと笑みを深めた。
「“突き飛ばしたところ”、ですか。」
パトリックは視線を、テイラーから四芒星に向ける。
「そこの四名様にお尋ねします。
――私が、彼女を突き飛ばした“瞬間”をご覧になりましたか?」
――テイラーは、高笑いしたいのを必死に押さえていた。
「(最後の最後で爪が甘いわね、悪役令嬢パトリシア!)」
下を俯き、笑いをこらえるために小刻みに震えていた。
テイラーにとっては、意図したことではなかったが。
その動作が取り巻きたちには、怯えている挙動に見えていた。
「(噴水に落ちるところを見せるために、前もってみんなを呼んでおいたのよっ!)」
これで、悪役令嬢は退場!
わたしの時代が始まるのっ!
テイラーは、にやにやとアーリヤの方を見つめていた。
――ぴんっと張り詰めていた空気が動き出した。
「いいや、見てないよ。」
あっけらかんとした声で、返事をしたアーリヤ。
「……え?」
テイラーの乾いた声だけが、会場に大きく響いた。
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