聖女テイラーの暴走‐四
テイラーが思い描いていた光景だった。
攻略キャラである、ノア、カイル、ヘーレー、そしてアーリヤ。
――全員が、そこにいた。
みんながテーブルを囲むように座り、テイラーを見ていた。
原作ゲームのオープニングと完全に一致していた。
「(わたしのために、みんなが集まってくれるなんて……!)」
―――
帰りのミーティングも終わり、テイラーが席を立とうとした時だった。
パトリックとノエルが、テイラーの元に近づく。
パトリックがテイラーの前に立ち、声をかけた。
「先ほど皆さんに声をかけたら、参加すると返事をいただきました。」
突然のことに、テイラーは目を白黒させた。
そんなテイラーをよそに、ノエルは優しく微笑んだ。
「今からお勉強会を開催するそうなんですが、テイラーさんは、お時間の都合は大丈夫ですか?」
明日以降の話だと思っていたテイラーは、慌てふためく。
チャンスを逃すまいと、必死に今日の予定を思い出す。
「えーっと……今日の予定は、なかったはずなので、行きますっ!」
ノエルがほっとした顔をする。
そして、ノエルはパトリックに向き直った。
「パディ様、ちゃんとお相手の都合を確認してくださいね。」
控えめな声でノエルは、パトリックに小言を言った。
そんなノエルを見て、パトリックは小さく笑った。
「そんなに怒らないでくださいよ。かわいい顔がもっと、かわいくなっちゃうじゃないですか。」
こつんと、パトリックは自身の額を、ノエルの額に当てた。
「もう!そんなこと言って、誤魔化されませんよ!」とノエルは、パトリックに抗議した。
「(今なら、口から砂糖を吐き出せそう……うぅ、胸焼けしてきたかも……)」
テイラーは、その光景をなんとも言えない気持ちで見ているしかなかった。
しばらくしても、動く気配を見せないパトリックとノエルに痺れを切らすテイラー。
「他の皆さんを待たせてるかもしれないので、早く行きませんか?」
テイラーの言葉にハッとして、少し恥ずかしそうな顔をするノエルと、ちょっと不機嫌そうなパトリックだった。
「(不機嫌になりたいのは、わたしの方よっ!!)」
―――
パトリックたちに連れられたテイラーが、ドアプレートの文字を読み上げると、
「生徒会室……?」
「アーリヤ王子が、気を利かせてくれました。」
どうせ、大人数で騒ぐのなら、騒いでもいい場所を提供してくれた。
と、ノエルが補足してくれた。
「早く入りましょう」とパトリックに促され、テイラーは生徒会室に足を踏み入れた。
テイラーの目に飛び込んできた光景は、まさに圧巻だった。
にこにこと手を振ってくれているアーリヤ。
むすっとしながら腕を組み、「遅いぞ」と言ってくるノア。
「待ってたぞ!」と快活な笑顔のカイル。
こちらに気づき「待ちかねたぞ!」と明るく笑うヘーレー。
楕円形のテーブルを囲むようにして座っている攻略キャラたちがいた。
テイラーには、この空間だけ、キラキラと輝いて見えた。
「(わたしのために、みんなが集まってくれるなんて……!)」
――テイラーの気分は最高潮だった。
「お待たせしてすみません。」
パトリックが謝罪して、どこに座ろうか目を彷徨わせていた。
テイラーも倣って、空いている席を選ぶ。
アーリヤの方をちらりと見た。
「僕の隣が空いてるよ!」
ノアの方も空席がある。
「他の奴が隣だとうるさくて集中できないから、隣に居ろ。」
カイルの方にも目をやる。
「わからないとこがあるから、教えてくれると有難いんだが……」
ヘーレーの方も見てみる。
「我の隣に座る栄光を与えよう!」
「(ええ〜!みんなに求められて、テイラー困っちゃう〜!わたしは一人しかいないのに〜!!)」
「パティ!」
「トリシア。」
「パット!」
「我が赤薔薇よ!」
――攻略キャラたちの声が、一斉に揃った。
「……は?」
テイラーの声が、思ったよりも低くて、自身でも驚いてしまった。
そんなことはお構いなしに、パトリックはテーブル周りを見渡した。
「ノエルが隣じゃないと嫌です。」
テイラーは、油がさされていないブリキのような動きで、パトリックを見た。
心底どうでも良さそうな顔で、パトリックはため息をついた。
先に、ノアとカイルの間に座っていたノエルの横に「少し開けてください」とカイルを横に追いやり座る。
「ノア代わって!」と半泣きのアーリヤ。
アーリヤに向かって「断る」とばっさり切り捨てるノア。
「国語と数学、生物と社会、それから地理と国外語が全くわからん!」と笑顔で言い退けるカイル。
「全部じゃないか!?」とヘーレーは思わず声を上げた。
テイラーのことなど見えてないかのように、勉強会が始まろうとしていた。
パトリックが突っ立ったままのテイラーに気付き、声をかけた。
「好きなところ座ってもいいんですよ?」
テイラーは再度、攻略キャラたちを見渡した。
明らかに、先ほどまでとは違い、どよんとした雰囲気に感じた。
少し腰が引けてしまったが、『自分から行動するって決めたんだから!』と、テイラーは自分を鼓舞した。
テイラーの気持ち的に、明るいままに感じるカイルとヘーレーの間に座った。
「お邪魔します……」
「ああ。」
「いいだろう。」
――前言撤回。
体感温度が、一気に下がったような気がした。
『落差がすごい。』
『風邪を引くレベル。』
テイラーの脳内でそんな言葉がよぎった。
――そして、(テイラーにとっての)地獄の勉強会が始まろうとしていた。
評価、ブクマ、レビュー、感想ありがとうございます!
大変励みになっております!
引き続き、どうかよろしくお願いいたします!




