聖女テイラーの探索‐四
時間が、鏡の迷宮まで戻ります。
自分の影を倒しても、突き進むのをやめないアーリヤ。
彼に着いていくと、突然アーリヤが誰かに呼びかける。
「やあ、パティ!こんなところで合流できるなんて、やっぱり僕たちは運命で結ばれているんだね!いつ婚約する?」
「しません。」
アーリヤの言葉をバッサリと切り捨てるセリフ。
女の子みたいに高い声だった。
「おい、アーリヤ!突然“パティの気配がするっ”て走り出すな!」
さっき、ノアだけが聞き取れたであろうセリフは、誰かを見つけたものだったらしい。
こっちの事などお構いなしに、会話を進めていく二人……
「(いや、姿は見えないけど声だけは聞こえるから、三人か)」
なんだかさっきより、アーリヤとノアが上機嫌に見える。
今のうちに、二人の好感度を上げてしまおうとテイラーは考えた。
「やぁん!二人とも、待ってくださぁい!」
ビクリと身体が揺れるアーリヤとノア。
「(……もしかして、めっちゃ恥ずかしがってる?かわいー!)」
テイラーはその揺れを、
好感度が上がったが故に、二人が緊張しているものだと脳内で結論づけた。
そんなこと思われているなんて、思ってもない二人は、コソコソと耳打ちをし合い、そそくさと奥の方へ向かう。
「えぇー?二人とも、どこに行くんですか?」
話に混ぜてもらうべく……あわよくば好感度を上げるために、テイラーは後に続こうとする。
あと、高い声が誰なのか確認しようと、横から顔を出す。
「……あれ?そこにいるのは――」
濃紺の髪色に、金の瞳。
――攻略対象でもあり、お忍びで、この学園に入学している隣国の王子、へーレーだった。
「えっ!ヘーレーもいるの!?やばい!めっちゃラッキーじゃん!やっと神様が、わたしに味方してるっ!」
やっぱりアーリヤとノアの好感度は高かったらしい!と、テイラーは内心ほくほくだった。
それなら一旦、二人に構わずへーレーとの親密度を上げよう!とへーレーの元に向かった。
「同じ教室だけど、お話するのは初めましてだよね?わたし、テイラー!よろしくね!」
乙女ゲームのスチルを思い出して、笑顔を見せるテイラー。
へーレーは、ジッと見つめて、頷くような会釈をする。
その後、視線が外れてしまった。
会話する気配がまったくない。
「(あれ?おかしいな……ゲームだと――)」
▶『我が名はへーレー。他の者には、気安く我の名前を呼ばせぬが……貴様だけは、特別に許してやろう。』
そんな返答だったはずだ。
「(ま、へーレーも好感度を上げていけば、デレ多めになるでしょ!)」
楽勝!と心の中でほくそ笑みながら、次々にへーレーに質問を投げかける。
しかし、彼は首を横に振るか、縦に振るしかせず、まったく会話にならなかった。
―――
「三人で、何の話をしてたのぉ?」
ペイジ先生の声を合図に、戻ってきた三人に話しかける。
へーレーの好感度上げも、順調だと判断して切り上げてきた。
彼が少し、困り眉になっていたので、きっと寂しい思いをさせてるかもしれない。
……でも、そろそろ話し合いが終わったアーリヤとノアも構ってあげなきゃ!
――ほんと、モテる女って大変よね!
声だけは聞こえていたのに、姿が見えなかった生徒の正体がわかった。
先頭を歩いて来たのが、黒髪赤目の男子だったからだ。
えっ、始業式の日に見かけて、ちょっと気になってた子じゃん!
ゲームのパッケージにはいなかったから、モブか隠しキャラかな?
「(お人形みたいにキレイな子……絶対に攻略したいっ!)」
彼が、爽やかに笑いかけてくる。
「情報の擦り合わせをしていました。状況確認は、基本ですからね。」
その顔を見たテイラーは、赤く頬を染めた。
「(顔良ー!笑った顔もめっちゃタイプ!)」
なんとしても親密度を上げなければ……!
――でも、ノエルと良い雰囲気だったのよね。
チラリと彼を見る。
笑顔で、小首を傾げていた。
……ノエル、ごめんっ!
我慢できない、めっっちゃ好みすぎる!
『悪役令嬢から、王子を奪い、親友から、この子を貰っちゃうなんて……罪なわたし!』
ノエルとは、まだ親友になれてないけど……
――でも、きっと許してくれるよね!
浮き足立つ気持ちが抑えられないテイラー。
心の中で、やるぞぉ!おー!と気合いを入れる。
「そ、そういえば、君の名前を聞いてなかったんだけど……」
裏返る声にも気付かないで、テイラーはパトリックと腕を組もうと、手を伸ばす。
――その瞬間。
彼が遠のいていった。
彼の目は、アーリヤの右手に覆われ、左手で肩を抱き寄せる。
そして、ノアもこちらを睨みつけながら、彼をアーリヤの方へ押し込む。
「そんな目で、僕のパティを見ないでくれるかな?パティが溶けちゃうだろ?」
「……」
何故、こんなことになったのか?
よくわからない。
テイラーの頭は、よくわからないなりに、この状況の辻褄を合わせ始めた。
「(……もしかして、二人共“彼”に嫉妬してる!?)」
わたしと彼を、近づけさせない為に……?
本当は、わたしを抱き寄せたかった。
けれど――恥ずかしさと、距離的な問題で、彼を引き寄せることにした……?
テイラーの脳内は、数秒間で、この誤回答を導き出した。
熱くなる頬を、両手で頬を押さえる。
「えーっ!かっこいいーっ!!」
うそ、うそっ!
好感度が、もうそこまで上がってたなんて、気づかなかったぁ!
じゃあ、あとは下がらないように気をつけつつ、他の攻略キャラと仲良くなるだけじゃん!
やっぱり、難易度優しめだったんだぁ!
――実際の好感度は、全くもって無いに等しかった。
知らないことが、幸せなこともある。
周りからの好意と、自分が受け取っていると思っていた好意に“ズレ”がある。
それがわかるのは、
――あと、もう少しである。
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