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【番外編】ノア・オールデンの初恋


「ノアは、天才なんかじゃないですよ。」


――その日、俺そのものを否定された、そんな気がした。


―――

ノアは元々、孤児院の出身であった。

赤ん坊の頃に、教会と併設されている孤児院の前に置き去りにされていたらしい。


孤児院での暮らしが、五年を過ぎた頃。

ただでさえ、数いるうちの一人でしかなかったノア。

神父や修道女は、浄化魔法を出現させた少女に、かかりっきりになってしまった。


元々、口数が少なかったが、余計に無口な子供になっていった。

ノアの心を動かせるのは、神父が持っていた魔導書だけだった。

教会側の書斎へと忍び込み、魔導書を開き、文字をなぞる。

読めはしないが、それだけで楽しかった。


ある日、いつものように魔導書を手に取る。

本を開き、指で文字の跡を追う。

「……?」

頭の中へ流れ込んできた文字たちが、声に乗り、口から勝手に出ていった。

『こごえる、冬のかぜ?ふぶけ……?』


――突然、冷たい風が室内に吹き荒れる。

止め方もわからず、ノアはただ震えるしかできなかった。


異変に気付き、修道女が扉を開く。

“助かった”

ノアの頭の隅で、安堵の言葉が浮かんだ。


「ヒイッ!」

短い悲鳴を上げ、バタバタと走り去る修道女。


ノアは生涯、その時の彼女の顔を忘れることはないだろう。

――化け物を見るような、怯え切ったあの瞳を。


―――

「君は、天才だ!」

少し興奮気味の神父に、抱き上げられるノア。

才能ある者は、その能力を活かせる場所へ、と神父が紹介したのは、名高い魔道士だった。


「独学で魔導書を読んだというのは、君かい?」

長い髪のせいで女性かと思ったが、声を聞いたら低い声で、少し驚いてしまった。

にこやかな顔で、ノアと目線を合わすために、しゃがむ魔道士。

ノアは控えめに、こくりと頷いた。


――この日から、ノアは魔道士の元で暮らしていくことになった。


―――

魔道士と同じファミリーネームを与えられ、ノアは、“ノア・オールデン”になった。

孤児院より少ない人数だが、それでもたくさんの兄弟子たちと共に、魔法を学んでいく。

誰よりも早く魔法を覚え、誰よりも上手く魔法が使えるようになっていった。


周りは、「すごい!」「天才だ!」と賞賛の声をかけていた。

しかし、裏では「なんだか怖いよな」「魔法が上手くなるように、悪魔と取引をしたらしい」なんてバカバカしい陰口を言われていた。


「(変な妄想話をするより、その時間で修行すればいいのに)」

ノアは、周りから距離を取った。


基本、誰とも会話をしないノアを心配した魔道士は、王宮へと連れて行く。

「(確か、王子が同じ歳のはず。)」

友達でなくとも、話し相手になればいいなと思っていた。


王子と、たまたま居合わせた、剣術師範の息子と出会う。


「初めまして。僕はアーリヤ、よろしくね。」

「オレはカイル!よろしくな!!」


最初こそ、ぎこちなかったものの、ノアには劣るが兄弟子たちよりは魔法が上手い王子。

風魔法と強化魔法なら、いい勝負を見せるカイル。

三人は、次第に気兼ねない友人になっていった。


とある日のこと、アーリヤが知らない子を連れてきた。

黒髪に、深紅の薔薇のような赤い瞳。

男のような格好をしている女の子。


「パトリック・ブルックスです。」


――魔力さいのうが、まったくない子。


自己紹介も簡単に済ませ、師匠の指示で、課題をこなしていく。

キラキラと宝石のように目を輝かせ、必死に俺の真似をする。

だが、魔法が発動する気配はまるでない。

……当然だ。

なんだかマヌケだなと、思わず口元が緩んだ。


「……フッ、初歩中の初歩できないのかよ。」


――ペチンッ

乾いた音だけが、やけに大きく響いた。


今、何が起きた?

痛みはなかったが、衝撃的すぎて、思考が止まる。


「長ったらしい詠唱をするより、こっちの方が早いわね。」


この新入りに、平手打ちをされたのだと、やっと頭が追いついてきた。

「何すんだよ、お前っ!」

掴みかかろうにも、カイルに羽交い締めされて、身動きが取れない。

この馬鹿力めっ!


これが――

“パトリシア”・ブルックスとの、出会いだった。


―――

パトリックの本名を知り、“トリシア”と呼び始めて、数週間が過ぎた頃。

王宮内を歩いていると、通りかかった中庭からみんなの声が聞こえた。

なんとなしに、中庭へ近づく。


「しっかし、ノアってすごいよな!オレたちと同い年なのに、もうケンダル師匠と同格の魔法が使えるなんて!」

「そうだね、いわゆる天才ってやつだね。」


俺が合流する前に、素振りをしていたらしい。

「(やっぱり、こいつらも俺を天才と呼ぶのか……)」


中庭を後にしようと、踵を翻す。

その時、凛とした声が、中庭に響いた。


「ノアは、天才なんかじゃないですよ。」


俺の中の何かが、キシッとひび割れる音を立てた。

周りから、天才だと言われ続けてきた。

――だって、天才じゃないと誰も俺を見てくれない。

そう思っていたから。


心臓が、バクンバクンと動き出す。

喉の奥から得体の知れない物が、這い出すような。

喉が乾いて、張り付いているような感覚に襲われる。


「ノアの努力を、天才なんて言葉で片付けちゃあ、ダメですよ。」


その言葉が、心にストンと落ちてきた。

だんだん、心臓が落ち着いていくのがわかる。


「確かに……この前、何回も詠唱の練習してたな。」

「オレも見たぜ!……そうだよな、たくさん練習した成果だよな。」

オレたちも、ノアに負けないぐらい強くなるぞっ!


そんな三人を見て、「天才じゃなくていいのか」と呆然とするノア。

……じわりと滲む涙を拭い、三人の元へ向かう。


「お前たち、いつまで俺を待たせる気だ!」


……心の中で、アーリヤに小さく謝罪をする。

アーリヤより、無償の愛だとは思ってない。

カイルより、慈しむ愛でもない。

だから、この想いは届かなくていい。


――でも、トリシアを見つめることだけは、どうか許してくれ。



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