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ノエル・コールマンの婚約‐四


ノエルは、控えめに挙手をしながら、気になっていたことを聞いた。


「あの、今更なんですが……パトリック様は、私と“同性”ですよね?本当に婚約できるんですか?」


“公爵家との縁談をいただいた”と言った手前で申し訳ないと思いつつ、よくよく考えたら同性同士で結婚はできないはずだ。

国の法律でも、確か『できない』と明記されていたはずである。


「ああ、大丈夫ですよ。婚約と言っても私もしくは、私の父と養子縁組をしてもらうだけなので。

最悪、使える“コネ”を存分に駆使して、迎え入れますので、心配なさらず。」


パトリックは、とても良い笑顔だった。

“謝罪をしろ”と言ってきた時の冷笑よりも朗らかに見えるのに、こちらの方が恐ろしく見えるのは何故だろうか。

“コネというより弱味ネタなのでは?”という考えが浮かんだが、頭を横に振り、かき消した。


「それでは、こちらの書類にサインを。ちゃんと目を通してくださいね?サインした後に、話が違うと言われても撤回できませんからね?」


蛇のような笑顔のパトリック、その笑顔を直視して身体が強ばるノエル。

まさに蛇に睨まれた蛙であった。

ノエルは、笑顔って種類があるんだな、と現実逃避をしながら書類に目を通す。

文字を追い、半ばで気になる文言に目が止まる。


“非常時を除き、いかなる時も乙は、甲に従順であること”


「(はちゃめちゃ怖いことが書いてある……)」

白目をむきそうになり、危うくペンを落とすところだった。

従順?パトリックに『椅子になれ』と言われたら椅子になるとかそういうことだろうか?

煮るなり焼くなり好きにしてくれ、と言ったが人間扱いされない可能性が見え隠れして、少し怖気付いてしまった。

ノエルはパトリックに「“あの……”」と声をかけ、書類の文面を指さす。


「いかなる時も従順とは、私に決定権がないということでしょうか?」


なるべく、異議申し立てがあるわけではなく、あくまで純粋な疑問ですよという体で話しかける。


「あら、そんな怖がらないで?書類用にちょっと固い言い回しをしているだけで、実際は私が尋ねたことに逆らわず、賛同だけしてほしいの。」

パトリックが“そうね……”とお茶をすすり、カップから口を離す。

「……例えば、ブラウスの色は白と黒なら、白の方がいいと思う?って聞いたら“そう思います”という具合に答えてくれればいいの。」


つまりは“貴方の意見など、最初っから聞いてないから、イエスマンに徹をしろ”という意味である。

ノエルもそれを察してしまった。

……たしかに、領地経営のことで私に相談なんてしないだろうし、私と一緒にいる時が、そもそも限られた場面だろう。

そう判断してノエルは「お答え、ありがとうございます。」と返事をした。


書類を読み終え、少し震える手でサインをしていく。


「これで、婚約成立ね。どうする?このまま生家に戻る?それとも、もうこの家に住み始める?」


「この家に、住み始める……?」


「だって、自分ノエルもバカにするような家に、わざわざ戻るなんて嫌でしょう?」


「……嫌、です。けど……」


「なら、決まり。今日は客室を使ってちょうだい。家具は明日、一緒に見に行きましょう。

この家に早く慣れてもらいたいし、怖気付いて“やっぱりナシで”なんて言われたら、私の腸が煮えくり返ってしまうもの。」


ぽかんと口が開いてしまった。

今日、初めて会った人間を、簡単に家に住まわせるというパトリック。

寛容なのか、無関心なのか?と思ったが、要は人質にされたと気付いた。

しかし、『もうあの家に帰らなくてもいい』と思うと、少し心が軽くなったように感じる。


「そうだ、婚約成立してから、最初のお勤めをしてちょうだい。私のブラウスのボタンを留めて。」


「“そろそろ身体が冷えてきたから”」

そう言って椅子の背もたれに、身体を預けるパトリック。

やはり絵画のように美しいなと思う気持ちと、甘えたな妹のようだなと思う気持ちが生まれる。

椅子から立ち上がり“失礼します”とパトリックの前に立つ。

『いや、これは甘えたな妹というより、従者扱いじゃないか、私?』

考えつつも、パトリックのブラウスへと手を伸ばす。


なんだか、扉の前が騒がしい。

―――バンッ


「パティ!やっと僕の婚約あいを受け入れてくれる気になったんだね!

わざわざ婚約者を探すなんて、回りくどい真似は、僕の愛を試す為かな?

大丈夫、僕の愛は八歳の誕生日会から変わらないよ!」


「再三言ってますけど、婚約しませんよ。」

「……」

「……」


気まずい空気が一瞬流れ、部屋に入ってきた青年の顔が一気に険しくなる。


「……お前、僕のパティに何をしている?」

「部屋に入るなら、ノックしてください。あとわたくしは王子のものではないです。」


「王子……?えっ!?もしかして、アーリヤ第一王子!?」


「僕のパティに馬乗りになって、ボタンをむしっている痴女め!僕だって、パティにそんなことしたことないのに!!」

「してきたら、はっ倒しますよ?王子。」


混乱カオスであった。


パトリックは男性のように振舞ってはいるが、身体はノエルと同じ。なんならノエルより胸が豊かであった。

気の知れた関係なのは、察せた。

が、この格好のパトリックを王子に見せるのはまずい!と思いノエルは急いで、パトリックのボタンを留める。

その間も「“証拠隠滅か!?”」「“今さら遅いぞ!”」とアーリヤ王子が騒いでいた。

パトリックは、「“隠滅も何も、私がボタンを留めてくれって頼んだんですけど”」と事実を述べるが、アーリヤ王子は頑なに認めない。


もう一度言おう、困惑カオスであった。



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