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第二章:触手を頼む、食用が届く・・・・・・うん、捌かれてるね!





第二章

触手を頼む、食用が届く・・・・・・うん、捌かれてるね!




「はい、触手の捌きです」

「うん、食用!!!!!」

 私は意気揚々と帰宅してきたサラに反射で答えた。

「捌き!? 捌きって言った!?? 私の触手捌いちゃったの!??」

 私はベットの寝ころんだ状態のまま、固まった。

 というか、今まで持っていた本をシーツの上に落とした。



「はい、ちゃんと塩もみしてヌメリ取りもして貰いました」

「ヌメリ取りまで完璧に!?」

「私、触手の触感が好きじゃないので、ちゃんと一人で食べてくださいよ」

「う”ぅん!! さ、捌いてヌメリ取りまでしちゃったか・・・・・・」

「は? 食べたいんじゃなかったんですか?」

「正しくは飼いたかったというか、研究の為に観察したかったというか・・・・・・」

「飼うぅう? 触手をぉ?」

 サラが顔を歪めた。

「はぁ? まぁ、飼う方もいるみたいですけど・・・・・・コレをですか?」

「・・・・・・いや、もう捌かれてるんなら・・・・・・手遅れなんだよね・・・・・・」

 サラが近付いてきて、桶の中身を見せられる。

 桶に入れられた触手は完璧に捌かれていた。


「さ、捌かれてる・・・・・・」

「だから、捌いて貰ったって言ったじゃないですか」

 はわわと口を押さえる私を、サラがじっとりとした目で見る。


 い、いや、触手の生態を知るにはいい・・・・・・のか?

 だけれど、まさかペット用の触手が来ると思っていたら、触手の捌きが来る展開は予想していなかった。

 残酷な現実すぎる。

 子供たちが泣いちゃうでしょ。



 息をのむ。

 そして、捌かれた触手に手を伸ばした。




 むに。




「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 つついてみると弾力がある。

 うん、うん。


「ほんとだ、ぬめってない」

「ヌメリ取りして貰いましたからね」

「ぬ、ヌメリの成分とかも解明したかった・・・・・・」

「せいぶん?」

「いいや、ナイフ頂戴・・・・・・いや、ピンセットとか小さい鋏や針みたいなのがいいかな」

「はい?」

「うぅん、捌くときに大分潰れてるかも・・・・・・」

 捌かれた触手をつつく。



 見た目は大きなピンクの角なしナメクジのようだ。

 ヌメリ取りされて乾いた皮膚にも弾力があり、ゴムのよう。

 ・・・・・・これ、加工したらゴム製品ができたりしないだろうか。

 あ、それもいいかも。

 でも、そうなると触手の乱獲が始まりそうだな。


「こんなのならありますけど」

 サラから小さな針が渡された。

「ありがとう」

 受け取って、一番手前にある触手の皮を突き、圧しながら破るように開く。


 中も弾力がある。

 サラが言っていた触感もコレかも知れない。

 これはなかなか噛みきれない。

 だが、噛みきれないからこそ噛む回数は増えて健康にはいいかも。

 あと、腹持ちも良さそうだ。

 嵩ましにもできるし、触手は庶民の味方なのかも知れない。


「・・・・・・やっぱり、骨とかはないね。抜いて貰ったりはした?」

「いえ、抜いて貰ってないです」

「うぅん、触手ってそこら辺にいるんだよね? ということは、陸で生活しているし、やっぱりナメクジ・・・・・・軟体動物に近いのかな? じゃあ、元々殻を被ってて、進化の過程で殻を捨てたりしているのかも・・・・・・生物図鑑とか合ったっけ?」

「えぇ・・・・・・いや、ないですね」

「お兄さまに強請っておこう・・・・・・あと触手を研究している人とかいないのかな? 学術書とか出てたらいいんだけど」

「はぁ? いや、聞いたことないですよ、そんなの」

 サラが困惑と呆れの混じった声を出す。

「まぁ、お兄さまに伝えておいて。もしかしたらいるかも知れないし」

 以前の世界では、絶対にこういうの調べている人間が居たんだけどな。

 第一人者とか、変わり者って言われる感じの研究者。

 まぁ、この世界の上流階級は全て魔法で済ませている。

 というよりも魔法が全てであり、魔法で全てが決まる。

 わざわざ金額や労力を使って魔法生物、それも下級の触手を調べるよりも、新たな魔法の開発に力を入れるだろう。

 新たな魔法の開発こそが名誉であるのだから当然だ。

 なのに、魔法ではなく下級魔法生物を研究していますなど言えば、笑い物になるかも知れない。

 家によったら勘当物かも。


 その上、庶民だって魔法魔法らしい。

 庶民の中でも、魔法が使えるか否かで序列が変わるらしいのだ。

 まぁ、そもそも上にいる貴族が魔法主義なので、魔法が使えない庶民よりも魔法が使える庶民を取り立てる・・・・・・いや、選ばれるのは当然なのかも知れない。


「んあー、魔法魔法だね、本当に。嫌になる~」

「ちょっと、そんなこと言わないでください、反魔法主義のテロリストだと思われるじゃないですか」

「はいはい」


 聞き流しながら、針でツツケそうな所はつつく。


「お、コレ胃かな?」

「えぇ? 触手って胃とかあるんだ・・・・・・」

「何食べてるんだろ」

「ちょっと、嫌だ。虫とか出てきそう・・・・・・」

 サラがどん引きした様子で身を引く。

「どうするんですか、生きてるゴキブリとか出てきたら・・・・・・」

「昆虫食なんだって思う」

「最悪」


 胃に穴をあけ、ソレを広げていく。




「お」

 何か動いている。

 そうか、触手って生きたまま獲物を丸呑みにするのか。

 ソレが分かっただけでも、食用の触手を買って貰っただけの成果はあるかも。




「み”ぃいいいい!!!!」

 元気な触手が飛び出してきた。

 胃袋から爆誕した小指サイズのちっちゃな触手が元気に暴れ回る。



「お」

 桶でピチピチと跳ねるそれは活きのいい小魚のようだ。



「は!? ちょ、何!? 何が出たんですか!?? 何そのこえ!!??? え、え、なにが・・・・・・!!」

 距離を取っていて私の手元を見ていなかったサラが触手の声に驚き、混乱し始めた。

「え? 何? え? ゴキブリ? ゴキブリ出ました?」

 口をヒクつかせて此方を見ている。

 逃げ出したいけど、逃げられないという顔である。




「んわ°ー!!」

 その声に反応したのかなんなのか、ちっちゃな触手が再び鳴き始めた。


「おぉ・・・・・・」

 元気である。

 そのちっちゃな触手をジッと観察してみるが、大きな怪我はなさそうだ。

 ついているのが胃液か触手の粘膜かは判断できないけど。

 これって、拭くべきなのかな?

 それとも、胃液を採取するべき?

 いや、生きている触手を優先して水で胃液を洗ってあげるべき?

 そもそも、触手って水で洗っても大丈夫なのだろうか?


「・・・・・・ちょっと、さっきから何の声なんですこれ!???」

 サラの声が大きくなった。




 ちっちゃな触手がプルプルと身体を震わせている。

 大きな声に恐怖しているのだろうか?

 それとも、胃から外に出れて安心している?

 感情はあるのだろうか?

 目は確認できないけれど、どうやって周囲を確認しているのだろう。



 いや、それよりもだ__



「触手って共食いするし、鳴くんだ・・・・・・」

 私は言葉にならない感動を覚えていた。



「ちょっと!!! リナお嬢様!!???」

 そして、サラは正体不明の鳴き声に錯乱していた。

 つま先立ちになり、自身のエプロンドレスの裾を力一杯握っている。

 今にも飛び上がって尻尾を巻いて逃げ出しそうである。

「何? 何が居るんですか? ちょっと、こわいんですけど!? ねぇ!!? ちょっと、答えてください!! 何なんですかいったい!! ねぇ!!??」




「ぷわっ!!」

「またなんか聞こえた!!!! ちょっと、本当に何なんですか!?? 本当に無理なんですけど!!!」

「サラ・・・・・・運命の女神は私たちに微笑んだようだね・・・・・・」

「・・・・・・もしかして、今、何か吸ったらヤバいブツが大気中に漂ってたりします!?」




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