第十一章:ヤンデレお兄さまと一緒
第十一章
ヤンデレお兄さまと一緒
リナ・アーバスノットの両足は元々動かなかったわけではない。
リナ・アーバスノットは元々塔に監禁されていたわけではない。
リナ・アーバスノットは貴族の令嬢として教育を受け、屋敷をその両足で歩いていた。
原因はやはり両親であるとアルバート・アーバスノットは回想する。
いつも通りの両親のヤラカし。
王族に連なる男が要求したのは【アルバートの両足】か【両親の首】だった。
両親は当然のごとく、アルバートの両足を差し出せと喚く。
何を馬鹿な。
お前たちに俺の両足をよこせというのか?
お前たちみたいな屑共に?
どうせ、俺の両足が動かなくなれば用済みとして捨てるくせに。
今までだって多くのモノを犠牲にしてきたのに。
なんで、俺がお前たちのために両足を捨てなければならないんだ。
俺は黙っていた。
黙っていたが、両親の首を差し出す気だった。
両親が居なくなれば【貴族】の地位目当てで、親戚やら何やらが幼い俺たちにまとわりつくだろう。
だが、それでいい。
コイツ等の為に捨てるものなどもう何もない。
「それって、お兄さまではなくて、私の足じゃダメなんですか」
その時に待ったをかけたのが当時六歳のリナだった。
両親はそうしろとはやし立て、男もそれを了承した。
リナの両足は動かなくなった。
事が済めば当然のようにリナの扱いは悪くなり、九歳で塔に幽閉された。
「両足が動かないんじゃ、政略結婚にも使えないわね。本当に迷惑な子なんだから」
母親がリナに言った言葉をまだ覚えている。
アルバートが成長した今、両親からのリナへの目に見える暗殺や嫌がらせは減った。
否、減らさせた。
魔法でリナの周囲を監視できるようにしたから。
本当はリナについて居てあげたい。
しかし、両親のやらかしや無礼の尻拭いに各地を回らなければ、リナを守る家を守ることができない。
両足が動かないあの子には優しい優しい鳥籠が必要だ。
本当はさっさと邪魔な両親を始末しておきたいが、未だにアルバートは貴族の成人年齢を満たしていない。
つまりはまだ両親を生かしていないといけないのだ。
「分かるかな、リナは私の大切な大切な妹なんだ。そして、いずれ唯一の家族になる。だから、くれぐれもよろしく頼むよ。
それにしても、リナってば本当に元気だよね。そして、すぐにお友達を作っちゃう。今回はペットまで増えるなんてね。
ペットか、ペットって心の支えになるとか言う奴もいるけど、どうかな。あの触手、リナの心まで入っていっちゃってるんだろうか。だとしたら、許せないかな。
あーぁ、両足が動かないから油断していたのかも。どうすればもっと私に頼ってくれるかな? 両手も動かなくしてみようか? だって、両足も両手も動かないんじゃ、もう唯一の家族である私を頼るしかないもんね。そしたら、もっともっと私のことが好きになって、私から離れられなくなってくれるかな?」
「ねぇ、君はどう思う?」
「あ、お兄さま!」
ベットに座ったリナが私に微笑みかける。
手に持った篭の中には小型犬ほどの触手。
あそこまで干からびさせたのに、今は元気に震えている。
いや、私に怯えているのかな。
身体の大きさや自身の排出した粘液を自在に操り、触手の弱点である乾燥にも耐える。
やはり、ただの触手ではなさそうだ。
「ンキュワ°」
触手が身を捩り、身体を縮める。
「お兄さま、あんまりポチを見ないでください。怯えてるじゃないですか」
リナが頬を膨らまし、触手の入った篭を私から遠ざけた。
「ははは、悪いね。ついつい、気になって」
にっこりと微笑むと、リナが胡散臭いモノをみる瞳を向けた。
しかし、すぐに諦めたのか小さく息を吐く。
「・・・・・・で、サラとジャンとの個人面談ってやつは終わったんですか?」
「あぁ、もちろん。二人ともとっても素直に話を聞いてくれたよ」
「そうですか」
リナが安心したように肩の力を抜く。
「それじゃあ、二人はどこに?」
「二人なら、私が話をし終わったらスゴく疲れちゃったみたいで・・・・・・それぞれ自室で休ませてるよ。さぁ、此処からは邪魔者なしの兄妹水入らずで就寝する時間・・・・・・いや、まだ触手がいたか・・・・・・リナ、お兄ちゃんにその触手・・・・・・ポチを貸してくれないかな? ちょっとキュッとしてみるだけだから」
優しく微笑んで片手を差し出す。
そこら辺のご令嬢であれば、この微笑みでコロリと転がすことができる。
しかし、リナは眉間に皺を作り、更に触手の入った篭を私から遠ざけ、自身の影に隠す。
ジトリと恨めしげに見上げた瞳は私と同じ色なのに、どこまでも私とは違った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・何やったんですか?」
「何もしていないよ?」
いや、絶対嘘でしょ、それ__と全く隠し事のできない私のかわいい妹の瞳が語っていた。
私は優しく微笑んでかわいいかわいい妹の頬にキスをした。