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終の閨秀-幼女と女傑の異世界平定物語-  作者: 高麗俊
第三章 二つの防衛戦
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099.カスタレア防衛戦・硬直

 組合連合の要求は有り体に言ってしまえば更なる援助が欲しいとのことだった。茜としても彼等に恨みはないし救えるものなら救いたいと思っているが、これ以上は危険に対する見返りが少なく、ミリアシルとの契約により国と領地を第一に考えなければならない彼女は情けでの取り引きではこれ以上支援することができない。


 放っておいても組合連合は小鬼に打ち勝つ。

 少なくともこの貿易都市が制圧されると言うことは無く、たとえ内部に侵入されようともいずれ殲滅することは可能だろう。

 むしろ撃退では無く完全な殲滅を行いたいのであれば、全ての小鬼を内部におびき寄せる方が確実だ。今は御柱の影響により魔力を求めて内部に侵入しようと試みる小鬼たちばかりであり、相手は何としてでもアーシェの屋敷にたどり着きたいと思っているからだ。


 しかしそんなことをすれば内部は蹂躙され、復興までに莫大な費用と時間がかかる。費用は一部をアーシェたちが払うことになったが、それでも復興にかかる時間が長くなるほど周辺地域の魔物の対処が後手に回り、都市壁を持たない町村の被害も多くなる。


 故に彼等は最小限の被害で最速決着を望む。


「しかしこちらの武官――私兵たちは全員出払っていますので、出し惜しみをしているとか以前に人員が足りていないのです」

「貴女方は全員魔力をお持ちなのでしょう?」

「その発言は、この都市では女子どもに剣を持たせて小鬼の中へ放り込むことが許されると言う解釈で間違いございませんか」


 使者大使は苦虫を噛みつぶしたような表情で前言を撤回する。


「と、とにかくそちらの代表と会わせてください」

「作戦前にお伝えしたとおり御柱発動中は魔力の奔流に当てられ命の保証ができないため、浄階貴族以外の面会はできません」

「そこを何とか……」


 別にアーシェを隠しているわけでは無く、本当に今御柱の麓へ行けば確実に命を落としかねないのだ。


 取り敢えず命を落としてでも会いたいのなら組合連合本部長の同意書と自分で執筆した遺書を持ってきなさいと言って追い返す。これで本当に遺書と署名を持ってきたらその時はその時だ。それ以上世話を見てやる義理は無い。


「こんにちは。情勢は如何ですか」

「フルクトースさん!」


 使者が屋敷の外に出たのを確認するとそのまま飛んで防衛本部である冒険者組合館へと降り立った。

 冒険者活動をしていたときは人前で魔法を使うことは無かったが、ここまで大々的に知られてしまっては隠す必要はもう無い。それに魔法を見せることによってこちらにも強大な力があるのだと味方に認識させ、士気を高める効果もある。


「本当に大国のお貴族さまだったのですね」

「ははは、同じ領の貴族からも似たようなことを言われましたよ。……それで、じきに日が落ちますが、それよりも前に片付きそうですか?」

「不可能です。報告によると東の大門が完全破壊され無防備の状態で、たとえ決死の特攻を行ったとしても我々だけでは殲滅には至らないでしょう」


 貴族たち協力のもと、使者を各支部へ送って支部長の書状だけを持って帰ってきた。

 書状を送った周辺冒険者組合の内、一番近くの支部で急いでも三日はかかる。そのためこの戦いはどうあがいても三日以上保ち続けなければならないのだが、戦争の長期化は冒険者たちにとって多くの不利を生むのだ。


「短期決戦をお望みかと思いますが、それが発令されることはあるのですか?」

「まさか」


 確かに冒険者千人ほどの命を犠牲にすれば三日後には決着がつくかもしれない。そして数千人の一般市民を犠牲にすれば明日中には小鬼の完全殲滅が完了する。しかしそれでは本来の目的である最小の犠牲者にはほど遠い。


 外壁に穴が空いた今、戦闘職員に大量の犠牲者を出すか、一般市民に被害が出ることを是とするか。どちらを採っても今後の都市経営に支障を来す。

 現在対策本部はその議論で二つに割れていた。


「ふむ。屋敷に使者が来たのもそれが理由ですか。使者とは思えないほど焦っていたようですが、指揮系統はしっかりしているのですか?」

「……実は先ほどの二つの意見は前者が組合連合、後者が冒険者と魔術師組合の意見でして、組合ごとに見事に分かれているのです」


 命をかける冒険者だって進んで死地に行くようなことはしたくない。そもそもそう言う自己犠牲の高い高潔な冒険者は南の大防壁の遠征に行っており、今残っている人間は他人より金、金より自分の命という考えを持った者たちである。

 冒険者組合本部長の代理である副長もそれは重々承知のことであり、それで離反者を出すくらいなら一般市民を安全な後方で従事させることで、戦闘職員を戦いに集中できるようにすることくらいは考えていた。


 一応どちらも一般市民を犠牲にとは考えていない。

 あくまで都市の地下にある避難施設に退避させるか、そこにいる若い衆に後方支援を行って貰うかで意見が分かれているだけである。

 しかし後者の場合は少しだけ危険があり、たとえば戦線が崩壊したときや弓矢や魔法で攻撃されたときに被弾する可能性が出てくるのだ。


 魔法に当たれば即死は確定、矢に当たっても毒が塗られていたら命に関わることがある。平民に用いることのできる治癒魔法では解毒が行えず、もしも毒でやられた場合は薬師組合の備蓄で補うしかなくなる。

 平民が使う解毒薬がどのようなものは知らないが、少なくとも魔法のようなトンデモ万能薬にはならないだろう。


「フルクトースさんもやはり戦闘には参加しないのですか?」

「そうですね。お嬢様からは特に指令は出されていないので待機です。ただ、さすがに高級市街地にまで小鬼が入ってくるようであれば、お嬢様が無事安全圏まで退避できるまでは命を賭して戦いますが」


 命を賭すと言っても茜の身体は作り物だ。

 刺されたり斬られたり殴られたりすると精神的にくるものがあるが、肉体的にも魔力的にもあまり影響は無いので神風特攻もし放題だ。


「そう、ですよね……ご主人さまの安全が第一ですものね」


 ――ふむ。せっかくできたコネだし、使い潰すのも忍びないな。


 茜は手提げから一つの玉を取り出し、受付嬢へと手渡した。


「これは?」

「魔具です。試作品でしたが、まあ納得できる段階までは開発できたのでお渡ししても良いかなと。もしも命の危機に陥ったらそれを噛み砕いてください。近くに私がいれば、助けに行けます」


 救難信号を出す機能に似た魔法は数多く存在する。

 その中でも最も単純な魔法は魔力をとにかく大量に発することである。故意的ではないにせよ、以前ルーラシオが攫われた尼君を発見することができたのも魔力の放出のおかげであり、武官が雪山訓練や樹海遠征で隊とはぐれたときにも、定期的に魔力の放出を行うように教育されている。


 この魔術具は魔鍾石内部にある微量の魔力を封じ込め、内包する魔法陣が崩れた瞬間に特殊な波形となって放出されると言う特性を持たせた使いきりのものである。

 壊すだけで良いので平民でも扱え、更に今まで魔術具には適さないとされていた低級の魔鍾石でも作成可能と言うことで、試作段階とは言えそれを開発した茜はエリザベートからたいそう褒められた。


「世界中どこでもとかではないんですね?」

「安請け合いはしない主義なので」


 ただこの魔具には一つ欠点がある。

 それは魔力の枯れた土地で使用した場合、せいぜい二、三キロ程度にしか魔力が届かず、遠くまで届けようとするとその魔力量から使用者に負担を与えてしまうという点だった。

 使用者が平民であることを念頭に置き、使用者に負荷をかけずに最大限魔力の拡散範囲を広げた結果がこの魔術具だ。


「そういうところですよ」

「こればかりは性分なもので」

「まったく。……ありがとうございます」


 気休め程度にと念を押して茜はその場から離れようとした。

 しかしその直前、一人の冒険者が飛び込むように入館し、館内全てに響き渡るほどの大声で報告をする。


「北と南のそれぞれ半数が東と合流! 東門の大穴、炎の壁が消える前に臨時防壁完成しそうにないです!」

「なんだと!?」


 曰く障害物の調達が滞っているらしく、その原因は以前建物を爆破された際の修繕で備蓄の多くを使い、冬の間は伐採した側から使っていく予定だったからだ。

 そして数日前から森に行った杣夫が失踪する事件があっても都市内の修繕工事は続いており、もう材木も殆どない状態で小鬼の存在が発覚した。


 樵の失踪を報告しなかった責を問われて復興担当が解任されたらしいが、そんなことは茜たちの知ったことではない。


「物資が足りないのですか。そう言えばこの都市の建築物には木材が豊富に使われていますよね」

「そうですね……そうか、周囲の建物を解体すれば!」

「なるほど。ただ、その場合は建築物の所有者に了解を得なければなりませんね。わざわざ避難所から見つけ出すのは骨が折れますし、東門の周辺に使われなくなった組合の施設でもあれば良いのですが」

「使われ……今は物置として使われている旧兵舎があります! 距離も東門から遠くありません!」


 ダリラは茜に断りを入れて対策本部へと向かう。

 それを見届けた茜は彼女が帰ってくる前にその場所から姿を消した。



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