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終の閨秀-幼女と女傑の異世界平定物語-  作者: 高麗俊
第一章 貴公女と亡霊
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009.魔法陣と魔法語

 魔法学習と言っても初歩の初歩と言う事もあり、魔法のお勉強は順調さを極めた。茜の知識を使い仮説を立て、アーシェに説明することで、茜はより深い理解を示す。

 もちろんアーシェも教わるだけの地位に甘んじている訳ではない。茜に足りていない常識や、この世界の知識をアーシェの知り得る限り提供し、二人の魔法への理解を潤滑にする。


 ──良し。一先ずはこのくらいで良いでしょ。

 ──では研究開発第一弾ね。


 魔法書と書かれた本を手に取り、アーシェは冒頭の前書きを読む。

 ミリアシル曰く、この書籍は初代が子孫に研究成果を正しく継承させるために残した本らしく、いわばセルヴ家秘伝の魔法学入門書にあたるものだとか。


「本書は我が一族の正当なる後胤(こういん)が、魔を望まんとするならば、自ずと開かれる書物である」


 ――なんで真ん中あたりの頁を開いたのに前書きが出て来たんだろうね。

 ――確かに。


「ん、あら?」


 前の頁に戻るも、そこに書かれた内容は同じものだった。最初に戻っても、末尾に飛んでも、その文字列は何一つ変化がない。

 ふと本を閉じ、表紙を見る。先程までは書名しかなかった表紙には『祈りを捧げよ』と、そして裏表紙には魔法陣が現れていた。その魔法陣は幾何学的な美しさがあり、アーシェか茜か、どちらともなく無意識に息をのむほどの()()である。


「神に祈りを。英知を残した御祖に祝福を」


 魔法書に魔力を送る。魔力は何の反発もなく魔法陣に吸い込まれ、いくら送っても魔法陣が満たされることはなかった。


 ――おかしいわね。

 ――あれ、あーちゃんおっきくなった?

 ――そう?


 魔力を消費する度に、精神世界のアーシェの存在感が増している気がする。そしてそのまま魔力を送り続け、ある時期を超えると、膨れ上がったアーシェの存在感は縮小を始め、次第に精神世界の身体は薄くなっていった。


 短時間の大量の魔力消費はアーシェの体力に負荷を与える。


 ――交代しようか?

 ――お願いするわ。


 アーシェの魔力供給を止め、続けざまに茜が魔力を送る。


「あら」


 一瞬だけ魔力が途切れた際、ほのかに浮かび上がる文字をアーシェは見つけた。そこには確かに「其方の力を示せ」と書かれており、挑発ではないのなら、魔力的な全力を魔法書に見せ付けなければならないのだろうと二人は解釈する。


 ――もう疲れたから全力でやってしまいなさい。

 ――はいはい、お姫様。


「ふっ」


 魔力を送るという新感覚のコツを掴んだ茜は、最大出力最大容量の魔力を一気に送り込んだ。しかしアーシェとは違い茜の身体は大きくなることはなく、それとは逆にどんどん小さくなっていくだけだった。


 魔力を送り続けること数十秒。茜の魔力が底を尽きるより前に裏表紙の魔法陣に魔力が満ちあふれ、魔法書はひとりでに宙に浮かび、自ら頁が捲れていく。


「これは……」


 頁移動は唐突に終わり、その白紙頁に文字が浮かび上がる。


「我が後胤よ、其方の望む魔導を語れ」


 ――わたくしの望む魔導?

 ――魔導って何だろう。魔法的ななんやかんやかな。

 ――とりあえず魔法陣の仕組みとか書き方とか知りたいわね。


「魔法陣の書き方を知りたいわ」


 望みを口にすると、魔法書のページが独りでにめくれ、次にはいくつもの魔法陣が浮かび上がる。魔法陣の中をのぞき込むと、そこには二人の望む魔法の知識が記されていた。


 ――ずいぶん古めかしい言葉だけど、セルヴ家っていつからあるの?

 ――王国の建国以前から今の王家を支えてきたと聞いているわ。今のお父様は一八八代目セルヴ公爵家家長だけれど、それは我が国パール王国が建国された時から数えているものなの。

 ――へぇ。ではこの初代というのはその建国に携わった人なのかな。

 ――いえ、そのお方は一代目と呼ばれていて、魔法書の著者はおそらく暗黒史と呼ばれる有史以前の領主よ。このお城もずっとずっと前にあるから、きっと本当の意味での初代様なのでしょうね。


 パール王国は人間史における最古の国家の一つであると言われている。

 その歴史は二千と六百年。その間多くの国が独立し、統合され、時には滅んだ。世が移り変わる中、徹底的な保守と中央の是正に努めた結果、歴史を正しく残す観測者となったのだ。


 ――つまりはとても歴史がある国ってことだね。

 ――魔法の技術もすごいのよ。まあ本当の意味で魔法が使える国は三国だけなのだけれど。


 話を戻して魔法陣の研究に取りかかる。


 魔法陣とは、どうやら人が個人でできないような、大規模な魔法を使うための補助機能だったり、普段使う魔法を魔法陣に依存することで、消費する魔力や体力を抑えたり、自分が扱えない魔法を、他人から授かった魔法陣により、魔力を注ぐだけで扱えるようになったりするものらしい。


 魔法陣を使うためには、魔力伝導率が高い特殊な液体で、それよりも伝導率の低い物体の上に描くか、魔石の中に取り込ませる必要がある。


 ――だいたい分かった。

 ――では次に魔法陣の書き方ね。


 魔法陣を構築する上で最低限必要な機能は、入り口と出口を作ることである。入り口は人が魔力を入れるもの、出口は神々に魔力を届けるもの。

 出入り口は一つだけとは限らず、複数の入り口から一つの出口に向かうものもあれば、一つの入り口から複数の出口に分散させるものもある。


 前者は一人の消費魔力を複数に分散させ、後者は一人の実力者が大規模な魔法を使う例だ。もちろん多対多の魔法陣も存在する。


 出入り口を設置しただけの魔法陣は、ただ神々に魔力を納めるだけの装置に過ぎない。その過程で魔力を捧げる代わりにどのような祝福を、効果を望むか記述することで、初めて効力のある魔法陣が完成する。


 ――つまり神様への依頼書ね。

 ――そんな表現する人なんて貴女くらいよ。


 まずは一番簡単な魔法陣。《灯火》と同じ効果を持つ魔法陣を作る練習をする。従者に黒板を運ぶよう指示を出し、アーシェの前に出させた。

 ただの白墨で書いた魔法陣は効果をなさない。しかし魔法陣の正誤を確かめることはできるのだ。


「どうかしら」

「拝見致します」


 セリアとメリッサが肩を並べて校正する。そしてやはりというべきか、二人は難色を示した。


「こちらの魔法陣で火を出すことは可能でございます」

「何かいけないの?」

「魔法陣は神への直接的な祈りと違って、意思の影響を受けにくいのです。例えば《灯火》の場合は魔法陣で書く場合、どれだけの威力を出すのか等を決める必要があります」


 威力は送る魔力量で決まるのだが、初めて使う魔法の場合はどれだけの量でどれだけの威力が出るのかわからない。そんな状態で魔法を発動していては、危なっかしくて()()()()()()()()のだとか。


「これでどうかしら」


 魔法書に記されていた制御の文字列を書き写し、二人から及第点をもらう。


 ――この文字は古代の文字、アルテスセルモという言葉らしいわ。

 ――あるてすせるも。


 魔法陣はこの言語で記述する必要があり、後にアーシェが通学する学院とやらで学ぶ内容らしい。つまり、後に学ぶことならば今予習しても良いということだ。


 ――貴族なら普通の言葉と一緒に覚えるのが普通なのよ。

 ――え、そうなの。


 茜が早速アルテスセルモの学習に取りかかろうとした瞬間、出鼻をくじくように四の鐘が鳴り響く。

 全ての領主の城にある巨大な神具、大砂時計。それは神が授けたと言われ、一日に一回自動的に反転する巨大装置である。

 一日のうちに推定早朝六時から十八時までの七回、距離に関係なく領地内であれば一定の音量で鳴り、一の鐘では一回、七の鐘では七回連続して鳴り響く。


 一般に共通で認識されているものは一の鐘は起床を、二の鐘は朝食を、四の鐘は昼食を、六の鐘は退勤を、七の鐘は夕食を知らせる鐘である。


「姫様。今はこのくらいにしてお食事に向かいましょう」


 魔法の勉強はいったんお預けになった。



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