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蒼穹のヴィアトール  作者: yaoyao
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色彩のパレットと幻影の白龍

「なるほど……。あなたが寂しそうに濁っていたのは、シノノメの『四季の色』を忘れちゃっていたからなんだね」


淡いピンク色の光に満ちた勾玉の精神世界で、

エーテル・ヴィアトールはそっと両手を広げた。


彼女の目の前に佇むのは、この郷の守り神である

『幻影の白龍』。


本来なら天を優雅に舞う神聖な姿であるはずが、

長年の時の流れの中でシノノメの美しい季節の記憶が薄れ、

その全身は灰色がかった哀しい色に曇ってしまっていた。


主を失った寂しさから暴走しかけ、

近づく者を拒むように低い唸り声をあげている。


「コハクさんたちも、街のみんなもね、あなたのことが大好きなの。だから――私が思い出させてあげる。この世界には、こんなにたくさんの綺麗な色があるんだよって!」


エーテルがにっこりと微笑んだ瞬間、

彼女の魔術の筆がキラキラと五色の光を放ち始めた。

世界を優雅に照らす最高峰の魔術師『十聖の魔術師』。

その秘められた真の魔力が、

結晶の空間全体へと一気に解き放たれる。


「世界よ、私の心に満ちる記憶の色彩を、ここに紡ぎ出しなさい――多色(マルチカラー)の魔法!」


彼女が世界を巡る旅の中で出会い、

心に焼き付けてきた「世界の美しさ」そのものを

魔法の絵の具に変えたのだ。


「まずは、透き通るような美しい水の青! ――『波光のサファイア(サファイア・アクア)』!」


エーテルが右手を振ると、

空間にパッと瑞々しい『深いコバルトブルー』の光の帯が走り、白龍の足元を清らかな清流のように潤した。


「次は、元気いっぱいの光の音色! ――『祝祭のトパーズ(トパーズ・ソナート)』!」


左手を差し出すと、

今度はまばゆい『黄金色のトパーズ』の光の粒子が、

シャンシャンと美しい鈴の音のような音色を奏でながら白龍の周囲をダンスするように駆け巡る。


「そして――情熱の炎! ――『鉄鋼のルビー(ルビー・スチーム)』!」


足元を一歩踏み出すと、

今度は力強く燃え盛る『鮮烈なクリムゾンレッド』の光の輪が、

寒さに震えていた白龍の身体を優しく暖めるように包み込んだ。


青、金、赤。


エーテルが紡ぎ出す多彩な光の絵の具が、

結晶の空間をまたたく間に万華鏡のように鮮やかな極彩色へと塗り替えていく。


そのあまりの美しさと温かさに、

暴走しかけていた白龍のレンズのような瞳から、

すっと険しさが消えていった。


外からのアルトの『和の変身』が、結界に風穴を開ける!


一方、結晶の外では、

使い魔のアルトが必死に動いていた。


「ええい、エーテルを閉じ込めるなんて、生意気な御神体め! 龍の神様を喜ばせたいなら、これならどうだ! ――とうっ!」


ポンッと紫の煙が弾け、招き猫の姿だったアルトは、

五重塔の部屋の天井に届くほどの

『眼鏡をかけた、雅(みやび)な巨大和太鼓』へと

変身を遂げた。


案内人のコハクが「な、何をする気ですか!?」と驚く中、

アルトは自らのバチを激しく振るい、

魂を揺さぶるような大音響を響かせた。


ドンッ!! ドドォォォン!!


それは、郷に古くから伝わる祭りのリズム。

人間にはなれないが、

あらゆる物に変身できるアルトの『和太鼓の響き』が、

御神体の硬い結晶の壁をビリビリと震わせ、

内側と外側の空間の境界線に小さな「風穴」を開けた。


シノノメの『四季の色彩』が満開になり、

白龍が覚醒する!


「あ、アルトの太鼓の音が聴こえる! 街の男の子(コハクさん)の優しい匂いも……!」


結晶の内部で、

アルトが開けてくれた風穴からシノノメの郷の空気が流れ込んでくるのを、

エーテルは敏感に感じ取った。


「最後は、このシノノメの街がずっと守ってきた、最高の季節の色だよ! ――『万紫千紅(ばんしせんこう)・八重桜吹雪(サクラ・パレット・フルバースト)』!」


エーテルが天高く両手を掲げると、

彼女を中心に、ピンクだけでなく、

淡い藤色、鮮やかな新緑の緑、

秋の紅葉のような燃える橙色

――シノノメの四季折々の美しい色彩が、

大爆発を起こすように空間全体へと広がっていった。


それらは数億枚の光の花びらとなって、

白龍の全身へと舞い降りる。


「キィィィィーーン……!!」


シノノメの四季の美しさを一瞬にして思い出した白龍は、歓喜の咆哮をあげた。


灰色に曇っていたその鱗は、

エーテルの多彩な魔法の光を浴びて、

あらゆる色を完璧に反射して輝く、

見たこともないほど神々しい

『純白の真珠色』へと生まれ変わったのだ。


次の瞬間、

眩い光とともに御神体の防衛結界が完全に解除された。


「……ふぅ、おかえりなさい、神様!」


五重塔の最上階に光が収まると、

そこには元の姿に戻ってへたり込んでいるエーテルと、

元の黒猫に戻って息を切らしているアルト、

そして、元の暗い輝きから一転して、

内側から五色の光を放ち始めた

『勾玉の御神体』があった。


窓の外を見ると、郷のすべての桜たちが、

まるでエーテルの魔法に応えるかのように、

いっせいに一分咲きから満開へと咲き誇り、

シノノメの空を鮮やかに染め上げていた。


「素晴らしい……! 御神体が、いや、郷の桜たちが完全に蘇った……!」


コハクが涙を流して感動している。


その時、五色の光を放つ御神体の中心から、

光輝く小さな結晶がポロリとエーテルの手のひらに落ちてきた。


それは、

あの誰も届かない浮遊島を囲む結界の周波数を合わせるための、

4つ目の古代遺物――『五色の勾玉結晶』だった。


「ふふっ、また一歩、あの島に近づいちゃったね、アルト!」


「全く、毎回毎回ハラハラさせやがって……。でも、今日のお前の魔法は、世界一綺麗だったぞ」


床に寝転んだまま、アルトは眼鏡を直して小さく笑った。


エーテル・ヴィアトールの鮮やかな旅路は、

シノノメの満開の桜に見送られながら、

さらに彩りを増して続いていく。





最後までお読みくださりありがとうございます。

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