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蒼穹のヴィアトール  作者: yaoyao
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始まりの街 ハルモニア

プロローグ

バッタンッ、、、、。


「ふぅ、、」


静寂に包まれた図書館で、

一人の少女は「空に浮かぶ神話」そう書かれた書物を

満足そうに読んで閉じた。


その眼は、“それ”に魅せられ。

その腕は、これから起こる出来事に震えている。


少女は静かに優しく書物を戻し、、

「よし、行くか、、」

桜色の、透き通るような髪をなびかせ、

彼女――エーテル・ヴィアトールは、

机の上に置かれた「宮廷魔術師長」からの

直々のスカウト状を、鞄の奥底へとポイッと放り込んだ。


常に世界のどこからでも天高くに見えている、

誰もが知る、けれど誰も届かない伝説の浮遊島。


世界中のあらゆる国や種族の歴史書をひっくり返しても、あの島に関する確かな情報はどこにもない。

ただ、遥か昔にたった一人だけ、

あの島へ辿り着いた人間が残したという、

この一冊の古い旅行記を除いて。


「みんなが見えてるのに誰も行けないなんて、そんなの、私に行ってくださいって言ってるようなものじゃない!」


エーテルは魔法学校を最高の成績で卒業した、

学校始まって以来の「大変わり者」だった。

しかし、その実力は本物。

彼女が扱うのは、光や色を自在に操り、

実体のない幻にさえ色彩を与えて現実にする異端の魔法

――『色彩の魔術』。


18歳にして、

世界で最も優れた10人の魔術師に贈られる最高峰の称号、『十聖の魔導師』の一人に数えられる、

歴史的にも天才少女なのだ。


「ちょっとエーテル! またそんなところに籠もって!

卒業式、もう終わってみんなお前を探してるぞ!」


図書室の重い扉をガラガラと開けて入ってきたのは、

エーテルの使い魔であるアルトだった。

アルトは高度な変身術を得意とする珍しい魔法生物。

今は「お説教モード」ということで、

眼鏡をかけた生真面目そうな

『二足歩行の黒猫』の姿をしている。

彼はどんな生き物や無機物にでも化けられる能力を

持つが、

なぜか「人間だけには絶対に化けられない」という

特徴を持っていた。


「あ、アルト! 見て見て、この本! やっぱりあの島には、機械仕掛けの動物とか、天を舞う竜がいるんだって! ああ、早く本物が見たいな。どんな色をしてるんだろう!」


「人の話を聞けって! お前、せっかくの最高峰の就職枠を蹴って、本当にあの島に行くつもりか? 宮廷魔術師の称号を持ってりゃ一生安泰なのに、世界中の大冒険者が誰も辿り着けなかった未知の領域だぞ? 周りの先生たちだって、天然で危なっかしいお前を――」


「大丈夫だよ、アルト。

だって、私には世界一優秀な使い魔がついてるもん!」


「うぐっ……褒めても旅立ちは止め――わわっ、尻尾を引っ張るな!」


エーテルは黒猫姿のアルトをがしっと抱き上げると、

天然全開の満面の笑みで図書室を飛び出し、

廊下を全速力で駆け抜けた。


向かうは学校の裏手にある、古びた格納庫。

そこに眠っているのは、エーテルが卒業制作で勝手に改造し尽くした、鳥の翼のような形をしたおんぼろの小型空中船『プランタン号』だ。


「ちょっとエーテル、待てって! 許可なく船を出したらまた大問題に――」


「大丈夫、怒られる前に飛び立っちゃえば、怒る人はここにはいなくなっちゃうから!」


「その天才的だけど最悪な思考回路、どうにかしろ! ああもう、こうなったら!」


アルトはポンッと煙を上げると、

今度は飛行の風圧に耐えられるよう、

座席にがっしり固定できる

『シートベルト付きの頑丈な特大クッション』へと

変身した。


格納庫に駆け込んだ二人の背後から、

遠くでお怒りの先生たちの「ヴィアトール――!!」

という絶叫が響いてくる。


「よし、燃料よし、古代魔導エンジンよし!」


エーテルがコックピットの座席に飛び乗り、

操縦桿を握る。

クッションになったアルトは

「やっぱりこの旅、中止だぁぁぁ!」

と布地を震わせて叫んだ。

「いくよ、プランタン号! ――

『世界に満ちよ、

始まりの色彩(プルミエ・パレット)』!」


エーテルが叫び、呪文を唱えた瞬間。

彼女の桜色の髪がふわリと浮き上がり、

おんぼろ空中船のエンジンから、

見たこともないような鮮やかな七色の魔力光が

爆発的に噴き出した。


それはただの光ではない。

色彩の魔術によって物質化された、

空をも染める虹の推進力だ。


ズガガガガッ!!


と格納庫の扉を突き破り、

おんぼろ空中船は天高くへと急上昇していく。


眼下に小さくなっていく始まりの街「ハルモニア」と、

先生たちの呆然とした顔。


そして目の前には、どこまでも、

どこまでも果てしなく続く、

透き通るような美しい青――『蒼穹』が広がっていた。


その遙か先、雲の向こうには、

太陽の光を浴びて神々しく佇む「誰も届かない浮遊島」が、はっきりと見えている。


「ふふっ、待っててね、浮遊島!」


風に桜色の髪をなびかせ、

十聖の魔導師エーテル・ヴィアトールは

操縦桿をぐっと握りしめた。


こうして、危なっかしくて、

だけど誰よりも元気で鮮やかな、

彼女と相棒の「世界中を巡る楽しくて賑やかな旅」が、

今ここに幕を開けたのだった。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

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