2 衝撃の真実※
私の落ちたこの下の空間にはおびただしい数のミイラが横たわっていた。干からびて土気色になったその顔はおそらく元は質の悪い悪党だったのだろう、ひどい人相をしていた。しかし私が恐怖したのはそこではなかった。
ミイラの口から蠢くようにはいずりだしてきたのは、ついさきほどまで私の足元で惑わさんばかりに輝いていた金貨、宝石の数々だったのだ。
(生きている……金貨が、宝石が)
はっとして、座り込んでいたのを立ち上がり、服についた金貨を振り払った。
これは質が悪い宿主型の魔物ではないか! 私は愕然とした。
蜥蜴は疑似餌だ!
入り口の明るい光で侵入者の心を油断させ、奥の疑似餌に注意をひきつけた餌を下に追い落として、この空洞で囲い込み、そして……。
私の足元で震えだす金銀財宝に私は思わず悲鳴をあげた。
私の悲鳴をききつけて上空の穴からはクラリスさんの声がする。
「ユリアさん!」
まるで迷いなくクラリスさんは飛び込んできた。ああ、こちらに来てはだめだったのに。
トン
軽快に着地してクラリスさんは私をぎゅうと抱きしめた。この時ばかりは私も涙が出そうだった。
「すみません! おそくなって」
私たちの足元の金銀財宝が震える。パキパキ、と音をたててテントウムシのように割れ、昆虫のように空中に飛び上がった。
「いやあああああ!」
声の限り叫ぶ私をぎゅうと抱きしめて、クラリスさんは低く冷静な声で言った。
「雷」
広範囲殲滅雷撃だった。彼は指一本動かすことなく、まるで彼の周囲を覆うかのようにフラッシュが瞬いた数刻で、紫の雷が辺り一面の敵を殲滅した。
「あぶなかったですね、ユリアさん」
彼の腕の中で私は泣いた。もう足はがくがくだったのだ。
地下の焼け焦げた空間の奥には大きな宝箱があった。踏破報酬だ。
どうやらこの金銀財宝こそがこのダンジョンのボスだったらしい。
踏破されたダンジョンは崩壊しようとしていた。
「すぐにここを出ましょう!」
クラリスさんがさっと私を抱き上げて、別の出口から外に出た。
がらがらと音をたてて崩壊するダンジョンに私はようやく人心地ついた。
クラリスさんの手元には金色のランプがある。
「どうやら当たりだったみたいですね」
すっかり夜になった砂漠の空には満点の星空がまたたいていた。
私はすっかり安堵していた。ララピア王子から逃げ出していたことなどきれいさっぱり忘れ去っていたのだ。
「僕から逃げようとするなんて悪い子だね」
その特徴的なアルト声に思わず身体がこわばった。振り向けば、夜の砂漠に似つかわしくない金髪紫目の王子がまるでなんでもないとでもいった様子でたたずんでいるのだった。
…………
「第二王子がどこにもいないだと!」
王城地下の鍾乳洞からもどってきたベンジャミン王子一行は、王城に戻ってくるなりまさかの出来事に目を剥いた。
ベンジャミン王子は地下のあの一件ですっかりルークの尻にしかれており、ララピア第二王子に焚きつけられようとしている最中だった。宣戦布告に乗り込む予定がとんだ肩透かしでルークは浅く息を吐く。
「まあ、いいですよ。では代わりに陛下のもとにでも向かいましょうか」
ずるずると引きずるようにベンジャミン王子の腕をひいて我が物顔で城内を闊歩する。もはやどちらが王太子候補かわからない振る舞いに、ナージルは頭をかかえた。どうしてこうなった。
「やめろ! 父上をわずらわせるな!」
ベンジャミン王子の抗議もむなしく、王の私室に連れ込まれて一行は愕然とした。
ベッドの上では痩せて骨と皮の状態になった陛下がよわよわしく横たわっていたのだ。
「父上、この一週間で何が……」
ベンジャミン王子の驚きも仕方がない。彼が引きこもる前まではしっかりと自分の足で立っていたのだから。
「おまえたちは……」
陛下の濁った目がこちらを向く。おもわずといったようにベンジャミン王子が枕もとに駆け寄った。
「すまなかった……ベンジャミン。私はお前に多くのことを求めすぎた……」
まるで最後の言葉かのように紡がれた言葉にベンジャミンは心をえぐられた。
「ルーク、お前は……捨てた私のことを恨んでいるのだろうな」
首を動かして陛下はベンジャミンの後ろにたたずむ人物に目を向けた。
「いいえ。ただ、第二王子を次期王太子として認知したことには腹を立てています。彼は、違うでしょう。もう、……ララピア第二王子ではない」
ルークの冷えた目はまっすぐに陛下に向けられていた。
「どういうことだ」
ベンジャミン王子がわずかに震える声で言う。
「もはや中身がちがうという意味ですよ」




