ドラゴンがあらわれ、ゴブリンがあらわれ、そして国が…
その日、俺は拷問部屋に連れて来られていたが、もうほとんど意識がなくなりかけていた。
腰の骨は折れ、自分で歩くことはできない。
夜牢屋に戻ってもリウスさんと会話をすることもほとんどできなくなっていた。
拷問の兵士は
「いやーよくもったな。ここまで持ったのはお前が初めてだよ。そういえば拷問が楽しくて忘れてたんだがリウスとどういう関係なんだっけ?楽しすぎて目的が拷問になってしまってたよ。」
本当に楽しそうにそいつは言った。
「…恩人です。」
俺は聞こえるか聞こえないくらいの声で答える。
「あっ?なんだって?うんうん。そうか。王様を暗殺を企てたテロリストということだな。まぁ十分頑張ったから最後くらい大好きなリウスに会わせてやろう。俺はとても優しいからな。慈悲深いだろ?嬉しいだろ?ここへリウスを連れて来い。」
拷問の兵士はニヤニヤ嫌な笑いを浮かべながら下っ端の兵士にそう命じ、兵士2人が部屋から消えていく。
リウスさんに会える。
馬鹿な俺はそれを聞いただけで嬉しくなっていた。
今まではっきりしなかった意識が少しだけはっきりする。
今の俺の姿を見たらばリウスさん悲しませてしまうかな。
少しでも元気な姿を見せなくちゃ。
そう思って両足に力をいれようとするが、すでに足に力は入らなかった。
あっ…俺の足は…そこには力なく足が置いてあるだけだった。
そうか…足は壊れてしまったのか。
腰の骨が折れ脊髄を圧迫しマイルの足はすでに動かなくなっていた。
むしろそれでもよく生きているのが奇跡だった。
リウスさん守れなくてごめんなさい。
あなたのこと大好き好きでした。
あなたにこんな姿見せたくなかった。
でも、もう動けません。
こんな情けない姿をあなたに見せてごめんなさい。
本当はあなたと一緒に戦ったゴブリンの時の背中をあなたに覚えていて欲しかった。
俺の変わりに幸せになってください。
あなたくらい強ければこの国から逃げることもできるはずですから。
俺のことは忘れてください。
あなたがたまたま野良犬を拾って世話しただけですから。
今の俺ではあなたの横に立って幸せにしてあげることはできませんが、あなたの幸せを心から祈っています。
でも最後に一目だけ。
リウスさんの元気な姿を目に焼き付けさせてください。
それで俺は旅立とうと思います。
目の前がかすんでくる。
目をこすりながら一生懸命意識を繋ぎとめる。
「あぁそう言えば、お前ずるしてただろ。」
拷問の兵士が俺の方を見ていう。
「お前夜中にスライムに回復薬を尻にかけさせていただろ?魔法封じを使っているのによく魔物を操れたものだよ。まぁ今は兵士が追い払ってくれたから途中からそんなずるもできなかったがな。なかなか楽しませてもらったよ。やっぱりずるとか策略とかあった方が盛り上がるからな。
その妨害を排除するのも楽しみの一つだからな。」
最初そいつが何を言っていたのかわからなかった。
でも確かに初日冷たい感触がして痛みが引いていた。
あれはミルクが助けてくれていたのか。
いつも俺のことを助けてくれたミルク。
本当にありがとう。
ごめんな。
こんな弱いご主人様で。
最後までお前に頼りっきりだったな。
もう従魔契約は解除されているんだから好きに生きてくれればいいのに。
「俺の…スライムは…。」
やっとそれだけ声をだす。
「ん?さぁな。スライムごときに我々もかまってはいられないからな。兵士が一刺ししたとは聞いているがな。あっでもスライムを一刺ししたらば死んでしまうか。ガハハハ。」
俺を見下しながら嬉しそうにいう。
「残念だったな。お前もあんな弱い魔物を従魔にしていなければ生きられたかも知れないのにな。死体は見つかっていないが…そうだな。次見つけたらばスライム干しにでもして酒のつまみにしてやろう。」
ミルクが死んだ?
嘘だ。
「あぁっ――――――――--------------!!」
封じられた腕で殴りかかろうとするが、足が動かない上に俺の身体は言うことをきかない。
「いい反応だな。俺はそういう反応が見たいんだよ。今からもっと楽しくなるから待ってろな。」
そういうと俺の腹に思いっきり蹴りを入れる。
ミルクは従魔契約を解除しているから今どこにいるかわからない。
こんなことならば契約を再度しておけばよかった。
頭の中にミルクとの思い出がよみがえってくる。
いつも一緒にいた。
俺が師匠に怒られて落ち込んでいる時も横にいてくれた。
プルプル震えて俺と一生懸命意思疎通をとろうとしてくれて。
夏場はひんやりとした身体がとても良くて一緒にお布団で寝た。
俺が料理が下手だった時に食材を真っ黒焦げにした時も師匠にバレないように食べてくれた。
森で迷った時は必ずミルクが正しい道を見つけてくれた。
強い魔物にも負けずに戦いを挑み倒してきた。
一緒にいろいろな魔物を狩って一緒に食べて。
生肉よりも少し焼いたほうが好きなミルク。
この世界で一番長く一緒にいた俺の相棒。
普通のスライムとは全然違う強さを持っていたミルクが死んだ?
俺が人を傷つけないように言っていたから。
俺が街の中では魔法を使うなっていったから。
…ミルクごめん。
本当にごめん。
君がいたから僕はここまで生きて来れたのに。
最後に君と一緒にいられなくてごめん。
気が付けば俺は横になりながらとめどなく涙を流していた。
拷問の兵士は喜びながら
「いい顔になってきたじゃないかグフフ。いいよ。もっといい顔してくれよ。」
悔しくて、悲しくて、ふがいなくて。
自分の感情が溢れて止まらなくなる。
それから俺はリウスがくるまで放心状態だった。
「あれ?もう心が折れたのか?楽しいはこれからだぞ。」
その男の言っている意味がわからなかった。
何が楽しいのだろう。
そこへ兵士に両方から抱えられたリウスがやってきた。
リウスはもう…意識がない。
意味がわからない。
嘘だ。
嘘だ。
嘘だ。
だって…俺が我慢をすれば…リウスさんを助けてくれるって。
なんでリウスがそんなに傷ついて…。
あっ…。
あれ…。
なんだろ。
もう意味がわからない。
俺は拷問の兵士をにらみつける。
「おっいい表情になったな。リウスにもお前の分の拷問をお受ければマイルの方は楽にしてやるっていったらば本当に声もださずに我慢していたんだぞ。
いやーもう俺は涙がでそうだったよ。馬鹿が互いに助けあっているのは本当に滑稽だった。笑いをかみ殺すのが大変で。
わざわざ隣の部屋にしてやったのによ。お互いに強気なことを言って…ハハハハ。
本当にお前らバカだよな。
あっバカは死んでも治らないっていうからお前らは死ぬのか。」
男は本当に楽しそうにしながら笑う。
なんでこんな男に…。
リウスさんが何をした。
リウスさんは…
目の前が真っ暗になる。
頭の中に響く声。
『…やっと…繋がった。』
『力が…欲しいか。』
その声は捕まった日にも聞こえたどこか懐かしい声。
その声の主は誰だか全然わからない。
だけどなぜか非常に懐かしくて安心感がある。
『マイル…お前は力が欲しいか?』
「あなたは誰?」
『まだ完璧ではないようだな。…時間がない。力が欲しいか?』
俺はどうしたいのだろうか。
このまま死んでしまってもいいと思っている自分がいる。
楽になりたい。
正直これ以上辛い思いをするならば生きている意味がない気がする。
結局リウスさんも助けられず、ミルクも失ってしまった。
俺がこの世界に生きている意味があるのだろうか。
死んだ方がこの世界の為になるのではないか。
『マイル…早くしろ…力が欲しいか』
そんなことを言われても…。
その時どこからか声が聞こえる。
暖かい声。
「マイルさんあなただけでも生きて。」
この声は…リウスさん?
あなただけって。
ダメだよ。リウスさんのいない世界で俺だけ生きたって意味はないよ。
リウスさんも一緒に生きていかないと。
俺はリウスさんと一緒に生きていきたいんだよ。
リウスさんのことが大好きなんだよ。
『マ…イ…ル。リウスを…助け…たいなら力を…』
俺は…リウスさんに笑っていて欲しい。
「わかった。
リウスさんを守る力が欲しい。」
『よし。わかった。
やっとこの日がやってきた。
お前に恩を返せるこの日を待っていたぞ。
古の約束より我はマイルの古き友人としてマイルに力を貸し与えそして一生涯の盟友としてマイルが死ぬまで側で我が力を振るおう。我は古の黒龍。名はドラクル。共に生きようぞ!わが友よ!』
そう頭の中で声がすると目の前にミルクがあらわれる。
ミルクは俺の方を見て嬉しそうな顔をした後、黒龍へと姿を変えていく。
古き友人?
頭の中では疑問だらけだが牢屋と城壁の一部を破壊するくらい大きくなる。
俺とリウスはドラクルに抱えられている。
「なんだ。なぜこんなところに古龍がいきなりあらわれる!?」
城の中は一瞬でパニックに陥った。
兵士たちは普段から訓練がされていないのか右往左往している。
ドラクルに抱えられ牢屋から出るとそこにちょうど異常を察した王がいた。
王は黒龍を見るなり、
「おぉ黒龍様我が国にあらわれてくれるとは、我が国に幸運をお与えください。」
黒龍はこの世界で人と会話ができ、豊穣の神様として崇め奉られていた。
その昔、黒龍は人と仲良くし、魔王があらわれた時に勇者と共に魔王を倒したという伝説があるのだ。
その後黒龍が寿命で亡くなった後荒地を広範囲にわたって緑地にしたという伝説が残っており今でも豊穣の神として祈りの対象となっている。
黒龍は王様を見ながら、
「フハハハ。お前たちは我の友を傷つけ殺そうとした。なぜそんな奴らの為に我が力を貸さなければいけない。お前たちは…」
俺はドラクルが話しているのをさえぎって消え入るような声で
「…頼む。殺さないでやってくれ。」
とそれだけ伝える。
俺達は確かにヒドイことをされた。
でも、だけどどこかでこの恨みの流れをとめないといけない。
俺が我慢をすればそれですむ。
幸いにも死ななかったのだから。
「マイルよ。甘いのは昔も今も変わらないようだな。安心しろ。我はこんな下等生物に興味はない。それにこの国は我が手を下さなくても、もう滅ぶ。」
そう言うとドラクルは羽をふるい空へ舞い上がる。
どういうことだろうか。それよりもリウスさんを助けないと。
魔法封じの手錠を外さないと。
ドラクルは俺達に回復魔法をかけながら空をかけていく。
だが、リウスはすぐに目を覚ましそうにない。
「うん。これはいささかまずいな。ちょっと飛ばすぞ。」
ドラクルはそう言うと俺達にバリアをはり音速を超えて空を飛んだ。
ドラクルが飛び去った直後、門からはゴブリンの襲撃を伝える声が聞こえてくる。
ドラクルが壊した城壁からもゴブリンたちが流れ込んでくる。
もし俺がドラクルにこの国の人を助けるように言えば助けられただろうか…。
でも俺はそこまではしなかった。
俺がこの国の人を滅ぼしたともいえるかも知れない。
この日、ゴブリン10万の行進により国といくつもの街が消えた。
俺達を捕まえた騎士団も、拷問をした兵士も、もちろん王様でさえもすべてをゴブリンたちは差別なく蹂躙していった。
その日、その国で生き残った数人の人は後で語っていた。
あの国はドラゴンの友人を殺そうとして滅ぼされたのだと。
この世界では命が非常に軽い。
昨日優位にたっていても次の日には捕食される側になってしまうのだ。
もし、あの日俺達を捕まえなければこの国は救われたかも知れない。
簡単なボタンの掛け違いだ。
もし…。
この世界は非常に優しくない。
だからこそ命を輝かせて生きる必要があるのかも知れない。




