第一話 はじまりの事件(1/6)
昼休みを告げるチャイムが鳴り、教師が出ていくと同時に教室内が喧騒に包まれる。
「なあ、聡、今日も行くのか?」
前に座っている関が弁当を持ちながら振り向き、話しかけてくる。
「まあな。普通のバイトなんかよりも稼げるし、それに面白いからな。」
俺は鞄から弁当を取り出しながら答えると、関はいつものように俺の机に弁当を広げ、笑いながら問いかけてくる。
「そんなに稼いでどうするんだよ」
「金はいくらあっても困らないからな。」
「まあ確かにな。稼ぐってんだったら、血を撒いてモンスターをおびき寄せれば、短時間で稼げんじゃね?SNSの動画で見たぜ?」
そういうと、関はスマホでその動画を見せてきた。
「あー...その動画な、俺も見たが多分デマだぞ?」
「デマなのか?」
スマホを見せた態勢で固まっている関をよそに、俺は食べながら短く答える。
「前に試した。」
「試したのかよ」
「ああ。ただ、一時間たっても何も来なかった」
「まあ、少なくとも3階層ではの話だがな。もっと深いところは試してないからわからない」
「まあ、そう簡単には稼げないか。」
関は大げさに肩を落とすしぐさをすると、続けざまに
「じゃあさ、ダンジョンでチーズ作るとかどうよ?湿度や気温ってダンジョン内は一定だろ?それに、『ダンジョンチーズ』なんて名前つけたら、ブランド化もできてめっちゃ儲かりそうじゃん!」
「いやいや、ダンジョンに食い物置いておいたら、翌日にはなくなってるぞ?それに、その前に、お前、チーズ作れるのか?」
「...それもそうだな。はぁ、どこかに楽して稼げるようなもの落ちてないかねぇ」
肩を落としたまま、関は窓の外へ視線を向けた。
「悠斗も稼ぎたいんだったら、今日、一緒にダンジョン行かないか?」
「いや、今日はパスかな。今日はゲームの発売日だからな。また今度誘ってくれ」
なるほど。さっきから楽して稼ぐ方法ばかり考えていたのはそのためか。
「了解。ところで、どんなゲーム買うんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!あのビッグタイトル『ドラゴンファンタジー』の最新作だ!」
さっきまでの落胆はどこへやらのハイテンションだ。
「それって、あれだろ?ダンジョン攻略して世界救うやつ。リアルにダンジョンあるのにゲームでやるのか?」
俺には本当に違いが分からない。
「それはそれ、これはこれだよ。神坂クン」
むかつくどや顔で、まくしたてるように講釈を始める関の言葉を聞き流しながら、箸を進める。
「俺には違いが判らんね。むしろ、金が稼げるダンジョンのほうがお得じゃないか。」
関の講釈が一区切りしたところで、再び質問を投げかけた。
「わかってないね。神坂クンは。人生の9割は損しているよ。例えるなら…」
再び講釈を始めた関をよそに、後ろの時計に目をやる。
昼休みも残り僅かになっていた。
「講釈をしてくれるのはありがたいが、飯食う時間なくなるぞ?」
箸で時計を指し、関に時計を見るように促す。
「うぉ!まじか!」
九割近く残っている弁当を見て関の顔色が変わった。
「明日にはクリアしてるんだろ?そん時に、感想聞かせてくれ」
「おうよ!」
返事だけは妙に早い。
「明日にはクリアしてるってのは否定しないんだな。」
「もちろん!徹夜でやるからな!」
ゲームのこととなると、とことん全力なやつだ。
ただ、
「その気力を少しでも勉強に振り分ければ、テスト前に泣くはめにならなくて済むのにな」
「ほっとけ」
そういうと、関は急いで弁当を口に掻きこんだ。俺は、残りのおかずをたいらげ、弁当をしまい始めた。
昼休みは、関が弁当を急いで食べてむせたこと以外、いつも通りに過ぎていった。




