反撃の鐘を鳴らす者!
「い、一体……どうちまったんだ、こりゃ?」
朝日が眩しくなってくる早朝。その廃工場には、数人の不良グループが倒れている。その廃工場にやってきた三人がいる。恐らくは彼らの仲間だろうか、二人の不良は倒れている人間の介抱に回っているが、その内の一人はこの光景を見ても、表情も変わらせずに仁王立ちしている。
「に、二之宮……か?」
顎が砕かれ、会話もままならぬ不良グループのリーダーが、その男の名前を呼ぶ。
「……なんだ、このザマは?」
二之宮は凍てついた殺気に満ちた眼光を、半死半生の男に浴びせる。
「ヘマしちまったぜ……だが、次はこうはいかねぇ。あの野郎……絶対にぶっ殺してやる……!」
「……あの野郎? 誰なんだ、あの野郎ってのは?」
「響ワタル、とかいう野郎だ。……赤いハチマキに木刀持った……そういや、あの野郎、リトルウォーズ参加者だとか言ってた、か……」
「リトルウォーズ、だと?」
二之宮はその言葉に、わずかな反応を見せる。何か怒りとは違う負の感情である。
「クソッ、絶対にぶっ殺してやるぜ!」
「その必要はない」
「えっ!? ……お、おい、何をするんだ、二之宮よ!」
二之宮は男の砕かれた顎を、左手で軽々と持ち上げる。左手で顎を潰すような勢いである。事実、男の顎からは次々に骨が砕けるような、気持ちが悪くなる音がする。
「ギャアアァァァァ! に、二之宮ァ、な、何をする気だ!?」
「……前から俺はお前が気にくわなかったんでな。丁度良いからここで貴様を叩き壊させてもらうぜ?」
「テ、テメェ、俺がこんな状態だからって……ヒデェ小悪党野郎だぜ! なぁ、二之宮よぉ!」
二之宮の左手に更に力が込められる。二之宮の連れの二人は、その光景を脅えるように見据えている。
「ウッ……ギャアアァァァァ!!」
「お前がこんな状態だから? 笑わせるな、お前のような小悪党……いつでもヤレたんだ」
二之宮は空いた右手で、弓を引くように構える。そしてその右手を勢いよく男の顔面に喰らわせる。口と鼻から大量の血をまき散らしながら、男は吹き飛ぶように倒れる。
「行くぞ」
「で、でも、二之宮さん。こいつら放っておいたら……」
「構うなよ。それで終わったらそれが、こいつらの器だ。……それに、こいつらは何の関係も無い、一般人の女の子を使ったんだろ?」
「えぇ、そういう計画だって数日前に聞いてます」
「なら、良いじゃないか。それがこいつらの罪滅ぼしだ」
二之宮は言葉通りに、不良グループに全く構う事無く歩いていく。
「フッ……響ワタルか。くだらねぇぜ」
二人の不良と、二之宮小次郎。朝日を背にして、彼らは響ワタルを目指す。
――七月二十九日。ワタルと結衣は、廃工場から全力で走っていた。
「やべぇ、これはまずいぜ! 早くしないとリトルウォーズに遅れちまうぜ!」
「ワ、ワタルさんっ、一体どうしたんですか!?」
「結衣、お前は親が心配してるだろ、それに怪我の手当てした方が良いぞ!」
結衣は急に立ち止まる。それを見てワタルも走るのをやめる。
「ワタルさん……あの、私……ワタルさんの、仲間……ですか?」
「……あぁ。お前はオレサマの仲間だ」
「なら、なら私もワタルさんと一緒に行きます。確かに両親は心配してるかもしれないけど……でも、私はワタルさんと……あの、その、一緒に……いたい……で、す……」
一人、顔を真っ赤にしながら、ありったけの勇気を持ってその言葉を言う。
「……そうか、わかった。その代わりに約束しろ。会場に着いたら、親に連絡する事。あとはちゃんと傷の手当てをする事。腫れたままの顔じゃ、台無しだぜ?」
「あ、は、はい……!」
ワタルは基本的には鈍感なのだ。そして残り少ない時間で、予選会場を目指す。
しかし結果的には、急いだ甲斐もあり、十分前には会場に到着する。あとはマックスハートメンバーを探すだけである。
「ちくしょう、こう人が多くちゃ見つけにくいぜ!」
「……あ、あれじゃないですか?」
ワタルと反対の方角を見ていた結衣が、メンバーらしき人影を見つける。
「わかるのか!?」
「はい、この間屋上でチラっと女の方を見ましたから」
「屋上……かなっぺか。ナイスだ結衣!」
結衣の見ていた方角を調べてみると、確かにメンバー全員がいるのを確認できる。ワタルは結衣の手を引き、そこまで走っていく。小柄な結衣一人では、いつまで経ってもそこまでたどり着ける事はできないであろう。
「おう、みんな来たな!」
突然後ろから、大きな声で呼びかけるワタル。
「兄貴!?」
「ワタル君?」
「……ワタル」
三人が三様の反応の仕方をするのを、楽しんでいるワタル。
「全く、どうしようかと思ったよワタル君! 全然来ないから心配したんだからね!」
一人やけに怒っているかな。ヒロキと桐華はそう見ると冷静なものだ。
「悪い悪い、ちょっと色々とあってな」
「兄貴……その顔は、それにその子も、一体何があったのさ?」
「とりあえず今は時間が無い。オレサマの怪我の事は放っておいてくれ。それよりも、かなっぺに頼みがあるんだ」
「んっ……!? 何かな?」
「この子の名前は織部結衣。自己紹介はまた後ほどってやつだ。かなっぺは今回の出場は無し、この子の顔の手当てをしてやってくれないか?」
勢いのままに喋るワタル。かなは結衣の顔の腫れを見ると、冷静に怪我の具合を見る。
「……顔の他にも打撲があるね。わかった、私はこの子の手当てに今回は回るよ!」
「悪いな、かなっぺ! ……そういうわけだ結衣。かなっぺは何だかんだで優しいから安心してくれ」
「誰が、何だかんだで優しい、って、ワタル君?」
顔は優しい表情を浮かべているが、どう見ても怒っている。
「…………!」
結衣は突然のメンバー顔合わせに、軽い緊張が体に走っている。何よりも結衣の体に染みついているトラウマが、結衣の体に緊張を走らせるのだ。それを見かねてか、かなは結衣に近づいていく。
「……織部、結衣ちゃんだっけ? 大丈夫、かなに任せて。何があったかわからないけど……ここには結衣ちゃんをこんな目にあわせる人は誰もいないよ」
結衣は何かを吹っ切るように、頭の中の葛藤と戦っている。そして静かに口を開く。
「……うん。よろしくお願いします、えと……」
「相沢かな。かなで良いよ!」
「では……かなさん、よろしくお願いします」
「了解! じゃあワタル君、手当てが済んだらベンチに向かうから。みんな、負けちゃ駄目だよ!」
軽い激励をして、かなは結衣を連れて、手当てのできる場所へと移動する。その二人を出場メンバー全員で見送る。
「おっしゃ、というわけでヒロキと桐華。四回戦の試合をよろしく頼むぜ!」
「……うん」
「わかっているよ、兄貴」
「それで順番だが、先鋒戦は安定感が高い桐華。そして中堅戦にオレサマ。大将にヒロキだ!」
ワタルの言葉に一瞬間が空いたが、その言葉にヒロキが反応する。
「僕が大将戦!? 兄貴、正気で言ってるの?」
「本気も本気、大本気だ。オレサマは見ての通りボコボコで、大将戦で勝てる程の体調が整っていない。それに、お前には修行の成果を見せてもらいたい。やれるか、ヒロキ?」
「……わかったよ、兄貴。修行の成果を見せて、大将戦を勝ってみせる」
ヒロキ自身も試してみたかったのだ。アバターとの修行が、一体どれ程の力を備えさせたのか。失礼だと思いながらも、ヒロキにとって今の自分の実力を確認する良い一戦である。
「――続いて、予選第四回戦。マックスハート対フォースアラートの一戦を行います」
アナウンスにて、両チームに招集の連絡が流れる。いよいよ予選第四回戦の始まりである。
「うしっ、気合い入れて行くぜ!」
ワタル、ヒロキ、桐華の三人は、試合の行われるバトルリングへ向かう。




