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MAX HEART!  作者: ユウ
――不思議絵師編!
47/58

お前の声で俺を呼べ!

 ――数時間前の事。ワタルは自宅に帰り、ポストの中を見てみる。

「おぉ、来てるぜ、リトルウォーズ! 嫌な予感しかしないけどな!」

 内容は予選第四回戦の事である。

「ふむ、対戦相手はフォースアラート。そして日時は……明日だとぉ! フザけんな、明日試合になるなら、もっと早く連絡よこせってんだ!」

 ワタルは大会本部から送られてきた封筒を、地面に叩きつけるように投げる。が、冷静になって再び自ら取る。

「はぁ……まぁ、事実は事実。ちゃんと受け止めないといけないな。やれやれ……」

 ワタルは携帯を取り出し、メンバー全員にこの事を伝える。全員が驚きの表情と、適度な文句を言っている。桐華に至っては呆れ口調でもある。

「――そういうわけだから。うん、明日は頼んだぜ!」

 全員に連絡を回すと、ワタルは最後に大きく溜息をついた。

「本当に、いつまで続くんだろうなぁ、この予選は……ん?」

 何かがワタルの足に触れる。まだ少し明るいこんな時間から幽霊か、と思いながらも、恐る恐る足下を見る。するとそこには見た事のあるものがいる。

「お前……確か、織部の描いてたゾウじゃねぇか、どうしたんだ?」

 物言わぬ像は、ただ事ではない様子でワタルに訴えかける。ワタルは像の伝えたい事の真意はわからなかったが、その様子を感じ取る。

「ちょっと待ってろ、すぐに戻るから」

 ――像に連れられ、ワタルが来たのは一つの廃工場だったのだ。


「とりあえず織部を返してもらいに来たぜ、そいつはお前達のような奴等と一緒にいる子じゃねぇんだ!」

 ワタルの通った大きな声は、廃工場中に響きわたる。

「……響、さん……?」

「おう、待たせたな!」

 結衣は涙を流し、痛みに堪えながら大きく頷く。

 すると、ソファに座ったリーダー格の男は、明らかな殺気を含みながら言う。

「もういい……ガキも、今入ってきたクソ野郎も、殺れ」

 その場に緊張が走る。不良グループは怒りの矛先が自分に向かないように、ただ従うだけの姿勢だ。

「おい、ボス猿!」

「……アァ!?」

「今言った事、後悔すんなよ。織部もこんなにしやがって、テメェだけはオレサマの全霊にかけてぶちのめす。二度と悪さできねぇようにな!」

 ワタルは持っていた木刀を、突き刺すように男に突きつける。

「テメェは誰に向かって口をきいてんだ!」

 近くにいた男が殴りかかってくる。それを難なくかわし、鋭い木刀の一撃を振り下ろす。鈍い音と共に、男は倒れそのまま動かなくなる。そのあまりの一瞬の出来事に、不良グループは静まりかえる。

「テメェ……一体何者だよっ!?」

「オレサマか、さっきも言ったけど正義の英雄でもなければ、悪の手先でもねぇ。……強いてあげるなら、チームマックスハートを率いる完全無欠のリーダーにして、今年のリトルウォーズを制覇する男……響ワタルだ、よぉく覚えておきやがれ!」

 ワタルの声につられるように、男の笑い声が響く。

「なるほどな、リトルウォーズの参加者か、どおりで少しは強ぇわけだぜ。それで、テメェはこのガキを取り戻しに来たってわけか? チームメンバーだから仲間に手を出したら許せねぇって、ハッハッハ、ガキくせぇ理屈だぜ」

「ボス猿だから少しは頭が回ると思ってたら、馬鹿のボスはやっぱり馬鹿だったな。オレサマはただお前らのような馬鹿と織部じゃ釣り合わねぇって言ってんだ!」

 怒りに満ちた二人の男の声が、その場の緊張の糸を、更に張りつめさせる。

「……ちょっと待ちなよ、織部はアタシ達の仲間なんだ。変な理屈でアタシらと織部の関係を壊すんじゃねぇよ! なぁ、織部?」

 女は結衣を、威圧するように睨み付ける。既に拒否はできない、といった形相の女。

「……そうなのか、織部? お前がこいつらが仲間だって言うなら、オレサマは引く」

「……えっ、あの……その……」

 結衣の頭の中は完全に真っ白だった。今まで全ての選択から逃げてきていた。その全てのツケが、ここに終結したような状況に、結衣が応えられるはずもなかった。

「本当にクズだねぇ、アンタは! さっさとハイって言えってんだろ!」

 我慢しきれずに、女は結衣の空いた頬を張り飛ばす。

「……うぅ……うっう……」

 その光景を静かに見ていたワタルは、ゆっくりと口を開いた。

「……織部。オレサマを呼べ、逃げるな。お前にしかできない、今のお前がするべき戦いをしろ! 逃げて……掴める未来は無ぇんだぞ!」

(ただ待つだけじゃ、ただ逃げるだけじゃ、道は開けない。辛いかもしれないけど、戦って、戦い抜いて、勝たないと、道は開けねぇぞ)

 かつて聞いた言葉と、今のワタルの言葉が、結衣の中でよぎっている。ただ泣く事しかできない結衣の心は、恐怖と、小さな希望の火との間で戦っていた。不良達の言葉を拒否すれば、間違いなく酷い事をされるのは目に見えている。だが、結衣は本当の心の奥底で叫んだのだ。いや叫び続けていたのだ。

「……響、さん……私を助けてください……」

「なんだと、テメェ、織部ェ!」

「私を……助けてください!!」

 女の威圧的な声に負けないように、結衣は自分が持てる最大の感情を、声に出して叫んだ。叫んだ声を無理矢理にでも消そうとするかのように、女は再び結衣に張り手を見舞う。しかしその女の手は、咄嗟にワタルの手に止められる。

「ふぐっ……!?」

 途端に女の腹部に衝撃が走り、女はそのまま意識を失う。

「ア、アナタ、女に手をあげるなんてサイテーよ!」

「……女に手をあげるのがサイテーだぁ? フザけんな、悪い事したら老若男女関係なくブッとばすのがオレサマの流儀だ。何でもかんでも女だからってよ、調子ブッこいてんじゃねぇぞ、コノヤロー」

 鋭い眼光を光らせるワタルに、近くにいた不良達は完全に畏縮してしまう。

「めんどくせぇから、全員かかってこい。テメェら全員、オレサマ自らによるオシオキタイムだぜ?」

 ワタルのその言葉を口火に、不良グループは全員でワタルに襲いかかる。ワタルと同じく木刀を持つ者や、拳で仕掛けてくる者、中にはビール瓶まで持ち出す者もいる。殴って殴られの攻防戦は、ものの数分で全てが片づく。文字通り男も女も容赦なく、オシオキされて倒れている。

「さて……あとはお前だけだぜ、大将?」

 体中に傷を作り、至る所から血を流している。赤いハチマキは、ワタルの血を浴びて深紅に染まる。

「テメェ……何者なんだ……?」

「だから言ってんだろ、響ワタルだ。こちとらこれから化け物じみた奴等を、相手に戦ってかなきゃいけないんだ。こんな所で小悪党が何人いようと負けるわけにはいかねぇんだよ!」

 言葉の終わりと共に、ぶったぎりの構えで男に突っ込んでいく。そのあまりの突進速度に男は何もできずに、ただ直撃を受ける。結衣が殴られた場所と同じ箇所をぶったぎられる。男の口から数本の歯と共に、血か吹き飛び、そのまま地面に倒れる。


「…………!」

「ふぅ……終わったな。大丈夫か?」

 ワタルは全ての不良が倒れているのを確認し、結衣に安否の声をかける。

「は、はい……」

「ったく、凄い腫れてるなぁ。立てるか?」

 まだ足に軽い震えがあったが、結衣は何とか立ち上がる。そのまま二人で廃工場を後にする。

「まぁ、あいつらも、もうお前の所に来ないさ、もしも来たらオレサマが返り討ちにしてやる……ぜ?」

 ワタルは途端に膝から崩れ落ちてしまう。結衣に支えられるようにして、ワタルは地面に寝転がる。

「響さん、しっかり!」

「あちゃ……予想以上に効いてたみたいだぜ……。さすがにビール瓶で殴られちゃぁな。まぁ良いや、織部……ちょっと」

「はい?」

 ワタルは結衣の膝に頭を乗せて、そのまま寝そべっている。

「あ、あのっ、響さん、ちょっと……!」

「良いじゃねぇか。あれだけの事やったんだ、少しはサービスしてくれよ、な? それに響さん、なんて他人行儀に呼ぶんじゃねぇ。もう、お前はオレサマ達の仲間だぜ?」

「え……あの、では何て呼べば?」

「ワタルで良いよ、代わりにオレサマは結衣って呼ぶから」

 結衣は顔を真っ赤にしつつ、かなり困惑した表情を浮かべる。

「ほら早く」

「え……と、わ、ワタ、ル……さん」

「さん、はいらないっての。……でもまぁ良いか、ハハハ」

「エヘヘ……ごめんなさい」

 混濁する意識の中で、一人の小さな天使を見たような気がする。

「……やっぱ結衣は笑ってる方が可愛い……な」

 一夜の惨劇は終わり、日が沈む。再び日が昇る時が新たな戦いの幕開けである。

 ワタルの旅は、織部結衣という仲間を入れて、まだ続いているのだ。

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