不思議絵師 二筆!
注意:この話の内容は、貴方にとって嫌な事を思い出すかもしれない要素で満ちています。閲覧の際は、ご注意して閲覧してください。
――時が経ち、小学生高学年になった時の事です。
私の具現化する絵は、少しずつですが良いように見られなくなってきたのです。中には私の力だけではなく、私の事を影で悪く言う人も出てきたのです。その時期の私は、それに耐えられずに、泣き続けていた思い出だけがあります。
「結衣ちゃん、みんな羨ましいから、文句言ってるだけだよ」
泣いてばかりの私に、友達の女の子はいつも励ましてくれていました。
しかし、悪い噂は一度流されると、一瞬で広まり続け、いつの間にか私の周りには人がいなくなっていました。また数人の友達との学校生活が始まりました。私達はいつも、私が具現化した絵と遊びました。
ただ一つ心を痛めた事があります。それは私の周りにいた事で、数人の友達もグループから疎外された事です。
「ごめんね……私のせいで、みんなまで仲間はずれにされちゃって……」
「そんな事は気にしなくて良いよ。私達、結衣ちゃんと遊ぶの好きだもん!」
その言葉がとても嬉しかったです。やっぱり私のせいで、という気もありましたが、それよりも友達のその言葉の嬉しさが勝っていました。私の具現化する絵を喜んでくれる子は、今では少なくなったけど、私にはまだこんなにも素敵な友達がいるのだと、改めて知りました。
――それは私が小学生五年生だった時の事でした。
そして時の流れは早いもので、私は小学生六年生になりました。この時期になるとクラスメイトの仲間はずれは明確な虐めへと変わっていきました。私達は休み時間になると、教室から追い出されるような陰湿な虐めをされるようになりました。
「ねぇ、結衣ちゃん。図書室に行こう。あそこなら図書室の先生もいるし、大丈夫だよ、きっと」
「……うん……」
私達は逃げるように、図書室へと移動しました。そこにいる人達は、とても虐めをする事とは無縁そうな人達で、そこの雰囲気はとても落ちついていました。図書室の先生も、とても優しくて、私達は休み時間になればすぐに図書室へと移動をするほどになったのです。
――図書室へ移動をするようになってから、約半年が過ぎた日の事です。
「……あれ、他のみんなは?」
「あ、うん……なんか用事があるからって、来ないんだって……」
三、四人はいた友達は、いつの頃からか、図書室に現れなくなりました。私の友達は、いつの間にかに一人だけになっていました。
「大丈夫だよ、結衣ちゃん。みんなが来なくなっても、私はちゃんとここにいるよ!」
「……っ、うん、ありがとう!」
本当に嬉しかった。その言葉を聞いた時に、図書室で、私は人の目も気にせずに泣いていました。周りの子も私を見ていたし、先生も心配して様子を見に来ました。でもこれは、悲しい涙ではありません。嬉しい涙です。
それ以来、小学校を卒業するまでの残りの半年間を、私達は親友のように過ごしていました。
――ただ、卒業も間近だったある時の事。私にとっては不可解な事がありました。いつものように図書室で絵を描いていた時の事です。
「――あ、遅かったね。委員会の仕事でもあったの?」
「あ、うん、ちょっとね……」
「今日はね、こんな絵を描いたんだ。どうかな?」
私は絵を描いたものを、具現化して目の前に出したのです。
「へぇ、結衣ちゃん、今日はどんな絵を描いたの?」
「え……あの、ほら目の前に……あるよ?」
「えっ、あ、本当だ。やだっ、私ったら目の前にあるのに気が付かないなんてね」
これが小学生生活の最後に起きた不可解な出来事です。改めて思い直してみれば、不可解な事はまだありました。それは図書室内のみんなの反応です。私は絵を具現化していました。先生は大人だから見えないにしても、図書室内にいた他の子達が、具現化した絵に気が付かないはずは無いはずなのです。気が付かなかったにしても、半年間ずっと見なかったはずは無いのです。
そして、この不可解な出来事の正体を、もっと早くに気づくべきだったのかもしれません。
この出来事の正体に全く気が付かないままに、私は中学へと進学したのです。
――そして私にとっては、地獄を見るような日々が始まったのでした。それは小学生の時の虐めとは比べ物にならない程の事です。小学生の時は、具体的には仲間はずれが虐めの主流でしたが、中学生になると、反抗期の鬱憤も相まって、その苛立ちの、はけ口に私が使われたのです。
「織部ェ、アンタ放課後にちょっと来なよ。来なかったらわかってんだろうねぇ!」
「……は、はい……」
何をされるのかは、わかっていました。でも行かないといけなかったんです。行かないともっと酷い事をされてしまうから。彼女達は決まって放課後の女子トイレを指定します。
「アンタ見てると、ムカつくんだよっ!」
「てか、チョーキモくない? いつも一人で絵なんて描いちゃってさ!」
五、六人ぐらいで私を囲んでの暴力行為です。手の空いている人は口で、思い思いの言葉を乱暴に言い放ち、そしてその内の二人ほどは私の事を殴ったり、蹴ったりは日常茶飯事、いえ空気を吸うのと当たり前の事ではなかったのかとも思えます。
「……うっ、ゴホッ……ゴホッ……」
ひとしきりの暴力で鬱憤を晴らし終われば、彼女達は満足げに帰っていくのです。少しの時間が経って、動けるようになってから、私も帰宅を開始するのでした。そして校舎を出て、校門に近づいた時です。
「結衣ちゃん……」
「あ……」
そこには小学生の時からの、親友の女の子がいました。
「結衣ちゃん……大丈夫?」
「……うん、大丈夫だよ、平気だよ」
私は不安にさせないように、笑顔を作りました。本当は笑顔になっていなかったけど、私の中では、満面の笑みを浮かべたつもりです。
「……結衣ちゃん」
「本当に大丈夫だから、本当だよ? 今日は帰るね、ばいばい」
私は精一杯に手を振り、別れ、帰宅しました。いつからか、私はその子とあまり会わなくなりました。一つの答えとしては、私が逃げていたのです。こんな虐められた姿を見たくなかったから。それに私と一緒にいる所を見られて、その子にも虐めの手が回ってほしくはなかったからです。
――しかし私のそんな考えは、無惨に裏切られました。それは虐めグループに再び呼び出された時の事です。
「相変わらずムカつくよ、織部は、さっ!」
言葉に力を込めながら、私のお腹や背中を蹴り飛ばしてきました。痛がる素振りを見せると、喜んでエスカレートし、反対に我慢すると、反応が無い事が苛立つのか、結局暴力はエスカレートするのです。
「このペンがあるからさぁ、こいつがキモチワルく一人で絵を描くんだよ」
「良いよ良いよ、壊しちゃいないよ、キャハハハ!」
暴力を振るわれ、動けない私は簡単に、愛用のペンを取られてしまいました。そしてそのペンは無惨にも、蹂躙されるように踏みつぶされ、壊されてしまいました。私は悲しんでる暇もありませんでした。その日の暴力は、いつもよりも激しく、私は私の意識を保っている事で精一杯だったからです。
「ちょっとヤバくない? 織部の奴、もう意識が無いんじゃないの……これ以上やったら死んじゃうんじゃ」
「良いんじゃない、死んじゃっても? こいつが死んだって悲しむ奴は『もういない』んだからさ!」
薄れゆく意識の中で、彼女の言葉はしっかりと耳に入りました。私が死んでも、悲しむ人、はいない。そんなはずはない、こんな私でもきっと悲しんでくれる人はいるはずだ。
「おっと、織部。意識が無くなっちゃう前に紹介しておくよ、私達の仲間の……だよ」
彼女が指差す方を、がんばって見てみました。もう視界はぼやけていて、一体誰なのかは確信を持って言えませんでしたが、それは私の知った顔であり、最も信頼していた顔でした。
「ちょっと……何も、ここまで……結衣ちゃんが死んじゃったらどうするの!?」
「あぁん? テメェせっかく仲間に入れてやったんだぞ、約束通りテメェが織部にトドメさせよ!」
「……結衣ちゃん……」
聞こえてくるのは、彼女達の下品な雄叫びでした。何を叫んでいるのかは全くわかりません。
「早くヤレって言ってんだろっ!」
「っ……!!」
大きな罵倒するような声が聞こえたと同時に、私の体に最後の激痛が走り、そして私のかろうじて保たれていた意識は、闇の中へと墜ちていきました。
そして本当に最後の最後。私の意識は一瞬ながら、泣き声と謝罪の声で目覚めたのです。
「……ごめん……ごめんね、本当にごめんなさい。……何回謝っても許してはもらえないかもしれないけど……ごめんなさい。結衣ちゃんとの仲を切らないと、酷い事をするって……脅されて、恐くて……だから私、こんな事……」
言葉は一部始終は聞き取れなかったのです。最も、その時の私の頭に浮かんだのは、裏切られた、という言葉だけでした。こうして私はまた本当に一人になってしまったのです。
――ある人を見るまでは。