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MAX HEART!  作者: ユウ
――勝利を掴め、三回戦編!
39/58

舞う木の葉。舞うオカマ!

 始まりの合図。それは第三回戦、マックスハートとディーパーディーパーの、大将戦が始まった合図。

 その合図と同時に、一瞬にして芹川の懐へと踏み入る。その目にも止まらぬ高速ダッシュは、全試合の三木を遙かに超えたダッシュ力である。

「あら……これは驚き。響ワタル、貴方うちの三木ちゃんより全然強いのね」

「ったりめぇだ! オレサマは……」

 懐に飛び込み、左腰周辺に木刀を置き、まるで抜刀術のような構えをとる。

「優勝する男だぜっ!」

 そしてワタルらしい力任せの攻撃を繰り出す。繰り出す攻撃は、左から右へ薙ぎ払うように走らせる。

「さすが響ワタル。そう言ってくれなくっちゃね」

 芹川はワタルの攻撃を、扇子を用いてまるで風を切るように、右から左へ仰ぐ。

 ワタルの木刀は、まるで芹川を通り抜けたかのように、空振りしてしまう。

「なっ……!?」

「オホホ、言ってなかったけど……私、強いわよ?」

 まるで木の葉が風に飛ぶように、優雅に後方へ飛び、右手に持った鞭を展開させる。蛇の柄のような鞭は、展開させると正に蛇そのものにも見える。そして芹川はその鞭をワタルへ向かって放つ。風を切りながら、飛ぶその鞭の音が、まるで蛇の鳴き声のようにも聞こえる。

「つぁっ!」

 鞭による攻撃は、ワタルの左腕から背中にかけて、巻き付くように命中する。

「オホホ、皮膚の表面が焼けるように痛いでしょ? そうやってジワジワと蛇の毒にやられちゃいなさい。そして、弱ったところで美味しく食べてあげるわ」

「……蛇の毒、か。へへへ、ははは、はっはっは、はーっはっはっはっ!」

 ワタルは一人、大爆笑をしている。会場中が何事かと、ワタルに視線を集中している。

「……何を笑っているの、響ワタル。全力になりすぎて頭でもおかしくなったの?」

「いやいや、オレサマの頭は正常だぜ。ただな……もっと強く、そして毒のある蛇に遭遇してっと、な」

「気にくわないわね、響ワタル。仮にそうだったとしても、貴方はここで私に食べられるの」

 言葉通り、やや口調に苛立ちを込めながら、ワタルに向かって鞭を振るう。その木刀とは全く違った軌道で飛んでくる鞭だが、この芹川の攻撃を難なくはじき飛ばす。

「だから言ってるだろ? お前の蛇はきかない、その鞭で俺を倒したかったら速水仁(あいつ)以上の蛇を用意してくるんだな!」

「……なるほど。響ワタル、貴方は私と遭遇する前に、良い経験をしたようね。でも逆を言わせてもらえれば、それは私とて同じ事よ。勢いは確かに侮りがたいけど……響ワタルのように大振りな戦い方をする人間なんて、いくらでも見てきたわ」

 苛立っていた口調は、会話と共に冷静になっていく。恐らくはこれまでの戦いの経験を、思い出しての事だろう。予選といえども、仮にも三回戦のチーム。かつての最高戦績はベスト8に入った事もある。そうは見えないが、芹川という人間は、戦いにおける感情の制御を心得ている。

「……堅っくるしい奴だな。そんな事はどうでも良い話さ。戦場(ここ)では、理屈うんぬんよりも、強かった奴が勝つ……違うか?」

「ウフフ……いえ、全くその通り。だからこそ貴方は私には勝てないの。この大将戦を勝ち、サドンデスをいただき、次に進むのは私達よ!」

 再び鋭く鞭を、ワタルに向けて振るう。ワタルも負けじと鞭を木刀ではじいて、それと共に一気に接近する。

「でもそれも違う。ここで勝って次に進むのは、オレサマ達だ。お前らも踏み台にして、もっと前に行くぜ!」

 再び懐に入り込んだワタルは、先ほどの攻撃と違い、今度は斜め右上から左下にかけての袈裟切りを繰り出す。が、その袈裟切りも空を切るように、空振りしてしまう。そしてワタルが芹川を見る頃には、木の葉のように舞い後方へ飛び、鞭の適正距離から攻撃を仕掛けてくる。今度ははじかずに、ワタルも後方へ大きく飛び、鞭も届かない位置まで下がった。

「あら、怖じ気づいたの? そんな所じゃ鞭はおろか、剣なんて届くわけがないわよ」

「わぁーってらぁ、そんな事っ!」

 距離を大きく離したのは、一度間を置いて考えたかったからである。

(本当に木の葉みたいな奴だ……あいつのオカマキャラからは想像し難いけど、良い言い方をするなら、舞子のように舞って戦う華麗なタイプだ。戦い方自体は江藤に似ているな……江藤は必殺のぶったぎりで倒せたが、あのオカマは……はてさて)

「考えているのね、無理もないわ。正直私も考えているもの。お互いに攻めては捌かれの攻防……決め手が無いものね」

 ワタルは今の言葉から、あらかたの戦略をたてた。お互いに決め手がない、という言葉。嘘か誠かは定かではないが、仮にこれが本当だとしたら、不意打ち効果でぶったぎりは効果があるといえよう。

 いずれにしてもパワーの面では圧倒的にワタル有利。技術の面では圧倒的に芹川が有利。ワタルは当たれば一撃だが当たらない。芹川は当たっても必殺の一撃が無い。戦局は互角のように見えるが、倒すか倒されるかという観点で見れば、倒せる技がある分だけワタル有利と見るべきであろう。

「よっしゃっ、やらないで後悔するよりは、やって後悔しようじゃねぇか!」

 ワタルは自分の両頬を両手で強く叩き、ワタルなりの気合入れをする。

「それに……ヒロキも待ってやがる事だしなっ!」

「ヒロキ……? まぁ、どうでもいいわ。覚悟は決まったようね、響ワタル」

「おうよ! 馬鹿と言われようと、オレサマの戦い方はこうだぜ!」

 木刀に持てる力を注ぎ込みながら肩に担ぎ、腰を深く落とし重心を低く、そして全体重を地面に乗せる。

「……す、凄いわ、響ワタル。今の貴方のオーラは特大級よ! ……でも技はどうかしらね」

「へっ、技も特大級だぜ!」

 ワタルは大きく飛翔した。下半身に溜めた力で一気に飛び上がる。上半身では文字通りぶったぎる為の力をまだ蓄積している。

「なっ、なんて体のバネしてるのよ、人間技じゃないわ!」

 あまりの飛翔距離に、冷静な表情が一変、一気に驚き慌てふためく。芹川は右手に持つ鞭を、がむしゃらに振りまくった。しかしただ飛んでいるだけではない、その必殺のぶったぎりは、移動中はその体勢のまま体当たりでもしているかのように、体に当たる鞭をはじき飛ばしていく。

「いってぇ……けど。当たれよ、必殺のぉ、ぶったぎりぃぃ!」

 前に進む事により生まれる突進力。山なりに飛ぶ事により生まれる落下の慣性。そして持ち前のバネと鍛え抜いた肉体から繰り出されるパワー。これら三拍子が揃っての必殺のぶったぎりである。

「……なるほど、攻撃に特化した技ね。しかも当てる事を念頭に置いてないで、当たった時の事を考えた一種の博打技ね……。さしずめ大振り台風ってところよっ!」

 芹川はぶったぎりの軌道に合わせ、左手の扇子を舞わせる。これ以上ない程の轟音と共に、空振りさせられる必殺のぶったぎり。一人豪快空振り劇を、華麗に捌く舞子。見ていた客は誰もがそう思った。

 そして相手が押した分だけ、舞うように引く。台風の強力な風により、吹っ飛ばされる木の葉だが、結局はのらりくらりと威力を回避したのだ。

「なぁっ、避けやがったな、ド畜生!」

「響ワタル、貴方は馬鹿ね。これ以上ない程の馬鹿だわ。そんな馬鹿な所がちょっと好きだけれど……舞い落ちる葉に、力任せに棒を振ったって当たらないわよ」

「……力任せに棒を振っても当たらない!?」

「えぇ、そうよ。そりゃまぐれ当たりはあるかもしれないけども、そんなまぐれ当たりなんて期待するのは、三流のやる事よ」

 ワタルの脳裏に何かが走った。それは、ひらめきの閃光。

「よっしゃ!」

「ん……? 今度は何をする気かしら?」

「へっへっへ。ぶったぎり」

 ワタルは再度、ぶったぎりの構えで立つ。ただ一つ違う所があるとすれば、木刀を担ぐ手が、従来の両手で構えるのではなく、片手で構えている事だった。

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