それは全力オーラ!
「かなっぺ! あと四分ちょっとだ、行けぇ!」
周りの大歓声に負けない、大きなワタルの声が響く。その声と共に、かなは三木に向かって飛び出す。
(わかっていても……他人が作り出すみなの幻影が、私を縛る……)
「先ほどと比べ速度が少々落ちたな……相沢みなはもっと速かったぞ!」
三木は高速の左拳を、かなに向けて放つ。 いつもの構えに戻った為か、引き気味に構えている影響なのか、その高速の拳を完全に見切る。
(二人でゴールしよう。そう誓った……かなの星蹴拳、みなの星蹴拳と……どっちだけをやってても駄目だし、どっちが消えても駄目なんだよね……)
左拳を避けて、その交差法でカウンターの一撃を見舞う。しかし三木もこれを見切っていたのか、咄嗟の動きなのか、このカウンターの左足での蹴りはきっちりと防御されてしまう。
「ふん、威力においても先ほどの方が……ん!?」
「うああ……あああぁぁぁ!」
(かなとみなの星蹴拳を合わせた新しい星蹴拳……それを、創る!)
気合一閃。カウンターの左蹴りをジャブにして、軸足に使った右足から空中での星蹴撃を見舞った。
「ぐ、っは……!」
その一撃は三木の土手っ腹に深々と突き刺さり、大きく後退する。空中で放った為、攻撃したかなも地面へと叩きつけられるように落ちる。
「……凄い」
「あぁ、やべぇな……!」
その攻防を見て最も驚いているのは、かなの技を知っているワタルと桐華の二人だった。いや知っているからこそ余計に驚いたのだ。
「……本来、星蹴撃のような技は、蹴り足よりも軸足が要となる技。その技の性質上から考えても、星蹴撃を空中で放つのは良い方法とは言えない」
「それを最初の蹴り足である左足をジャブのように使い距離を計り、そしてその蹴り足を軸足へとシフトさせる。……つまりは地面は相手、軸足に使った右足も蹴り足にシフトさせたってか。ったく、オレサマとした事がアイツ(かなっぺ)の呼び名を忘れてたぜ……」
「……呼び名?」
「あぁ、あいつは紛れもなく、天才蹴撃少女だよ!」
三木は相当応えたのか、その場にもんどりうって苦しんでいる。かなも何かを感じたのか、倒れたまま全く動かないでいる。いつの間にか、歓声も二人を応援する声から、かなを応援する声に変わっていた。巻き起こる「かなコール」に、かなは何かが開いていく感覚を得ていた。
「残り時間三十秒!」
黒子によって知らされる残り時間。予選は十五分の時間制限がある。
「あと……三十秒……!」
震える体に鞭を打ち、かなは三木に向かって走る。時間を聞き、三木もダメージが残る体を押して立ち上がる。
「勝つんだっ!」
ロー、ミドル、ハイ。回し蹴りに踵落としなど、思いつくままに蹴り技の集中砲火を浴びせる。
余程のダメージが三木の体を支配しているのか、先ほどの余裕の表情とは一変、防戦一方になる。
「――3、2、1――!」
会場が一体となってのカウントダウン。そして――。
「そこまで! 時間切れ引き分け終了!」
わずか十五分だったかもしれない。しかしここにいた人にとっては長い十五分間が終わる。中堅戦の結果は時間切れ引き分けに終わる。
たった今戦っていた二人は、お互いに息を荒げていた。攻めも攻め疲れ、守りも守り疲れ。お互いにたったわずかの攻防だったが、肉体的にもそうだが、精神的な疲労困憊が目に見えていた。
「……はぁ……はぁ……!」
「……どういう事だ。最後の最後で放ったあの技は、相沢みなのものなのか? 相沢みなは俺の知らない間に、新しい技の開発に成功したのか」
「新しい技の開発なんてしてない。……みなは、もういない」
冷静な表情を崩さなかった三木は、驚きの顔を見せて言う。
「もういないだと!? ……ま、まさか、いや……すまなかったな。一番辛いのは君だ」
「いえ、強いみなを知っていてくれる人がいて、微妙に辛いけど、嬉しかった」
「…………俺の敗因は、相沢みなの幻影に縛られ、それを克服できなかった事。そして、相沢かなに負けた事、か」
三木は静かにディーパーディーパーの控えベンチがある場所へと下がっていく。
「強かったぞ、相沢かな! 君の次の試合に期待する」
それだけを言い残し、三木は振り返る事もなく歩いていった。
かなは、自分でも気が付かない間に、三木に頭を下げていた。そして、かなもマックスハートのベンチへと戻っていく。
「お疲れ、かなっぺ!」
「……お疲れ様です」
「……ふぅ。あとがとう! ごめん、何となく予感はしてたんだけど、勝てなかった……」
複雑な表情をしながら、俯き気味に話すかなに、ワタルは努めて明るい表情で接する。
「バカ、でも負けてもいないだろ? かなっぺのミスは次のオレサマが補う。でもこっから先でオレサマがミスしたものは、かなっぺが補ってくれる。オレサマ達は仲間だ、チームだ。そんなんで……良いんじゃねぇか?」
ワタルの言葉に同意を示すように、桐華も小さく頷いている。
「……うん。ありがとう……」
流れる程でもないが、自然とかなの目にうっすらと涙が出ていた。
「ま、それに仮にも無い話だが、例えばオレサマが大将戦で負けたら、こっちも向こうも、完全に一勝一敗一分けになる。そうなったらサドンデスって形で、最後に時間無制限の一本をやるからな。そうなったらトーコかかなっぺ、どっちかにラストマッチのご指名が飛んでくるかもしんないぞ?」
「……プレイヤーは任意で選べないの?」
問いかけたのは桐華だ。
「あぁ、サドンデス戦は大会本部……てか黒子が独自で決めるらしいからな。例えば大将戦を戦ったプレイヤーと、先鋒戦を戦ったプレイヤーとでは、前者の方が体力面で不安が残るしな」
「運が悪くても良くてもやるっきゃないって事かな。全力で!」
かなの言葉に、ワタルは大きく頷き応える。
「へっ……わかってきたじゃねぇか。そういう事だ、状況も糞もへったくれもねぇ、やるっきゃないのさ全力でな!」
――そうこうしている内に、中央にいる黒子から呼び出しがかかる。大将戦が始まるのだ。
「さって、とっととオカマ野郎を倒して次へ行こうぜ!」
「ファイト、ワタル君!」
「……がんばれ」
見ると既にディーパーディーパーの大将の芹川はいる。優雅に派手な扇子を仰いでいる。更に手には、まるで蛇の柄にも似た鞭を持っている。恐らくはそれが、芹川の武器であろう。
ワタルも愛用の赤いハチマキを一発巻いて気合を入れる。そして木刀一本を片手に、バトルリングへと向かう。
「よぉ、待たせたな。二回戦では出番が無かったからな、暴れさせてもらうぜ?」
「あら、響ワタル。貴方、普段はおちゃらけて軽い印象があるけど……今の貴方、素敵よ」
「お前に好かれたって嬉しくはないぞ」
「オホホ……そう。でも、本当に今の響ワタルは素敵よ。全身からオーラがビンビン出てるもの。あの王者や天才とは違う毛並みよね」
扇子で顔半分を隠しながら、品定めでもするような嫌らしい目つきで言い放つ。
「へっ、王者オーラに天才オーラか。なら覚えておけよ、このオーラはその王者や天才を超えていく……さしずめ全力オーラだ!」
ワタルは力一杯の握り拳を作りながら、その言葉を高々と言う。
「全力オーラ……覚えておくわ。でもそのオーラもここで私に食べられたらそれでお終い……蛇は案外と丸飲みしちゃうものよ?」
「丸飲みはできねぇ。こんなでっけぇオーラを飲んだら、テメェの腹を突き破るぜ!」
二人の気合を見切ってか、黒子が高らかに右手を挙げて宣言した。
「それでは、予選第三回戦。マックスハート対ディーパーディーパーの大将戦――始め!」
前二試合の激闘を終えて、遂に大将戦が始まる。




