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MAX HEART!  作者: ユウ
――勝利を掴め、三回戦編!
37/58

少女の幻影!

 予選第三回戦、先鋒戦は見事に桐華が勝利を収め、そのバトンを中堅のかなへと託す。二回戦と同じく、ここでかなが勝利する事ができれば、ワタルの出番は再び無くなり、マックスハートは次の戦いへと駒を進める事ができる。

「かなっぺ、ここで勝ってさっさと次へ進もうぜ!」

「うん、そうだね」

「どうした、なんか元気がないじゃないか?」

「そんな事ないよ。ただちょっと考え事……ワタル君、もしかしたら出番が回ってくるかもしれないけど、その時はよろしく!」

「……はぁ!?」

 当然の如く、かなは勝って戻ってくるという前提で話をしていたワタルは、かなの意外な言葉に目を丸くする。かなの顔つきは決して自信が無いというわけでもない。むしろ自信ややる気は目に見えてあるのがわかる。ワタルには何故なのかはわからない。

「わかるか、トーコ?」

「……さぁ」

 桐華はわかっているような、わかっていないような、つまりは無表情で答えた。

「相変わらずのポーカーフェイスだな。まぁ、試合が終われば全てがわかるってやつだ」

 ワタルと桐華は、バトルリングへ向かうかなを案じた。

 そしてリング中央には、中堅戦、かなの対戦相手である三木亮輔の姿がある。見た感じは相手チームの前二人、つまりは芹川と純ほど際だった特徴も無いように見える。いや見た目の特徴点だけならば、純に限り普通だっただけに、見た目で判断は良くはないのかもしれない。見た目で判断するな、という言葉があるように、最終的な結論は拳を合わせるまでわからない。

「宜しく。三木です。リーダーと純にはキャラが濃いという理由で、迷惑をかけたと思うが……」

「あ、いや、そんな事はないかな。かなに限り……」

 戦いをする者としては、少しお洒落が過ぎるとは思えるが、残り二人よりも幾分地味であり、むしろ軟派なイメージよりも硬派なイメージが漂う好青年な第一印象だった。肌もやや褐色であり、良い意味では最近のスポーツマンといったところか。体つきもよく、何かハードなスポーツあるいは格闘技をやっている事が伺える。

「それでは中堅戦――始め!」

 半ば強引に試合が始められる。どうやらこの黒子は、選手(こちら)の事情は気にしないらしい。

「さてさて……行こうか、ねぇ?」

 かなは誰かに問いかけるように呟き、いつも通りの星蹴拳の構えをとる。しかしいつもと違うところは、実妹みなのように前傾姿勢の構えであるという事。それでも、みなの星蹴拳ほどの前傾ではない。

 三木の構えはキックボクシングだろうかムエタイだろうか、各二つの中間のような構え。星蹴拳のようにオリジナルに昇華させた技であろう。そうなると速度という事に関しては、ほぼ互角と考えても良いだろう。

「女性とはいえ容赦はしない……行くぞ!」

 ボクサーとして鍛えたフットワークだろうか。屈強な見た目とは裏腹に、一瞬にして間合いを詰めてくる三木。かなもそれに呼応するように、前へ飛ぶように走る。

(……前傾姿勢な分、加速力は早い。この勢いのまま攻撃すれば威力は高くなる感じかな)

 かなは勢いのままに左ミドルキックを繰り出す。文字通りランニングミドル。三木もその蹴りを見て反応し、同じく左ミドルキックを繰り出す。二足の蹴り足がその場で交錯する。

「つぅ……!」

「むっ!?」

 二人は蹴りの威力のままに、後方へと下がる。お互いに想像以上の重さが、足に残る形となる。

「痛ぅ……さすが男の子って感じかな。威力や重さに関しては向こうの方が上だね」

「大したものだ。よもやこれ程の打撃力を有するとは……」

 今のたった一撃の攻防で、両者が持つ武器の性質がわかる。かなは繰り出した左足に激痛と重さが残ったのに対し、三木はどこか余裕すら伺える。むしろこのぐらいは当然、といった顔つきでもある。

「今の攻防で足を痛めたようだな。ならばこれは俺の勝機だっ!」

 三木の速度に衰えはない。かなの蹴りは、三木にほとんど聞いていないのだ。一気に接近され鋭い拳の弾幕を降り注がれる。かつての相手――リバティーズの西岡住吉の拳を超えるキレの良さである。更に拳すらも重そうに感じさせる攻撃に、めずらしくかなが畏縮していく。唯一、今のところ全ての拳を避けられているのは、三木の攻撃が全て頭だけの攻撃(ヘッドハンティング)しか来ていない為だろう。

「せいっ!」

「……っ!?」

 そう思ったのも矢先、ヘッドハンティングしか来なかった攻撃が突如、足への攻撃へと変わる。いわゆる足払いをされた格好で、かなはその場に倒れる。

(……やられた。頭狙いは囮だ……)

「おとなしくしていれば、痛みはないぞ」

 全く容赦なく、倒れたかなの顔面に向けて拳を振り下ろす三木。

(避けろ、かな! 避けろ避けろ避けろぉ!)

 真横に転がるようにして、振り下ろされた拳を間一髪でかわす。空振りに終わったが、殴られた地面には鈍い音と共に、拳が下ろされていた。かなはその拳が直撃していたらと思うと、体に緊張が走っている。

「なるほど。反応速度はズバ抜けて良いようだ。まるで数年前に戦った、相沢みなを思い出すな……」

 三木から出たその名前に、かなは敏感に反応する。

「ちょっと……みなを、知っているの?」

「む? あぁ、あれは中学三年の頃だったか、ある大会で俺は相沢みなと戦った事がある」

「……中学三年の頃、みなと……」

「……!? そうか、相沢……君はもしかして相沢みなの姉妹なのか?」

「……うん」

「やはりか、試合中に何だが、相沢みなは元気なのか? あれ以来全く姿を見る事が無くなった……、俺はあれ程の強さと才能を持った選手を他に知らない」

 かなは少し黙った後、不意を付くように一気に責め立てる。

「今は試合中! 無駄なお喋りはいらないんじゃないか……っな!」

 語尾に力を込めながら、かなは星蹴撃を繰り出す。それを十字防御(クロスアーム)でガッチリとガードする三木。

「そうだ、思い越せばその奇妙な構えも、相沢みなが当時やっていた構えにそっくりだな」

「星蹴拳――連星撃!」

 一撃で駄目ならば、連続で攻撃をする。しかし放たれた連星撃はかつての連打が見る影もなかった。無論、ボクサーとしてもムエタイ格闘家としても、鍛えられた三木に勢いの無い連星撃は、回避する事に造作もない。

「だが一つ一つの技のキレはそっくりとはお世辞にも言えんな。なんだこの出来損ないの技は?」

「くぅっ……!」

 三木の言葉に悔しさからか、唇を噛みしめるかな。その言葉の呪縛から逃れるように、かなは大空を舞う。

「喰らえぇ、落星撃!」

 空から落とす無数の蹴り。真っ直ぐに三木を狙って落ちていく。だが、余裕の笑みすらも浮かべずに、それをただ作業のように避ける。星蹴撃、連星撃、落星撃といった技を全て攻略された。かなは地面に着地し、一人息が上がっている自分に気が付く。

「ふむ、再び相沢みなと戦えるかと思い、勝手ながら期待をしたが……お前は相沢みなの劣化コピーに過ぎん」

 一度決めかかっていた心が、再び揺らいでいる事に気が付く。この世でたった一人だけ、いつまで経っても相沢みなの幻影というプレッシャーを受けているのだ。

「コラァ、かなっぺ!」

 いつの間にか塞ぎ込んでいた心に、バカみたいな大きな声が響く。

「……み……な……!?」

 かなが声をする方を向くと、そこにいたのは相沢みなではなかった。そこに見えたのは赤いハチマキ、響ワタルの姿だった。

「テメェ、かなっぺ! 何を中途半端な事してんだっ、お前に何があったのか、何を考えてるのかとか、オレサマはそんな事は知らねぇ! だけど、何があろうとお前はお前だ、相沢かな!」

 会場中に響く声で、ワタルは叫んだ。

「……あと五分。がんばって」

 桐華も応援した。気づけば体を支配する緊張は、全てでないにしろ無くなっていた。

(……ワタル君の言う通りだ。今は中途半端な事は駄目。できない事はできない、やれる事をやるの。良いね、かな!?)

 再び構えなおした星蹴拳の構えは、いつもの構えだった。

 ――残り時間あと四分四十秒。

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