まぶしい
「はぅあ──!」
ヴィルの胸鎖乳突筋が、まぶしい──!
うっとり見惚れたノィユは、くずおれる。
うなじにね、斜めに線みたいのが入るよね、あれが胸鎖乳突筋なんだよ。首とか肩が凝るときは、お風呂の湯船でゆるゆるほぐすといいみたい。
ヴィルの胸鎖乳突筋は、色っぽくてつやっぽくて、たくましい首になめらかな曲線を描いて、最高なのです──!
お風呂に入ってないのに見えるなんて、最高──!
「きゃ──♡」
燃える頬を両手で覆ってもだもだするノィユの向こうで、爆速で駆けてくる物体は何だか想像がつく。
「お兄さまが行くなら、僕も行きますぅううう──!」
長い陽の髪を振り乱して到着したのはエヴィだ。
さすがヴァデルザ家、走ると爆速が出せる家だ。
思わずぱちぱち拍手するノィユと一緒に、両親も拍手してる。
「……え、な、なに?」
息も乱さず、きょとんとするエヴィに、ノィユは笑う。
「素晴らしい俊足ですね! さすがヴァデルザ家のエヴィさま」
瞬いたエヴィが、真っ赤になった。
「ふ、ふん! 懐柔なんか、されないんだからな!」
ぷいと横を向くエヴィが、かわいい。
「……ふつう、やな顔するんじゃないの……?」
ぽそぽそ呟くエヴィに、首をふる。
「エヴィさまは、僕の大切な家族です」
顔をあげたエヴィのまなじりが、あざやかな朱に染まる。
「ふ、ふんだ!」
ぷいと横を向くエヴィの口元が、ほんのりほころんでいて、トートとヴィルが目を細めて微笑んだ。
「ありがとう、ノィユ」
エヴィに聞こえないようにささやいてくれるトートが、やさしい。
えへへ。
照れくさく笑ったノィユは、ヴィルを見あげる。
ヴィルが大すきだから、エヴィのことも、すきになれるんだよ。
きゅ、と手を握ったら、握り返して笑ってくれる。
ああ、なんて最高な伴侶──!
ヴィルが一緒に来てくれるのは、最高にうれしいのですが!
「僕たち図書館でお勉強するだけだよ? つまらなくない?」
心配で聞いたら、ヴィルは首をふる。
「ノィユ、勉強して、領地、改革、しようと、してる。
伴侶が、何を、しようと、してるか、知りたい、し、たすけに、なりたい」
ぽつぽつ、つかえながらも一生懸命思いを言葉にしてくれる伴侶が、最高にかわいい──!
「うわあん、ヴィル! あいしてる──!」
きゅう
おひざに抱きついた。
ヴィルがふうわり朱くなる。
叫ぶかと思ったエヴィは
「……ま、まあ、ひ、ひざくらいなら?」
おひざはだいじょうぶみたいだよ。よかった!
ひざにはあんまりエロスを感じないから平気なのかな。……いや、待って? おひざの、あのなんともいえないまるみとか、お皿とか、ぽこんとしたところとか──
「またなんかえろいこと考えてやがる──!」
叫ぶエヴィに、頭のなかが筒抜けです。
「お義兄さまもエヴィも行くんなら、馬車を出すよ。朝ご飯を皆で食べてから行こう。今持ってるバチルタ家の朝ご飯の分は、エヴィとお義兄さまのおやつに回せばいい」
トートの言葉にありがたくうなずきそうになったけれど、底辺なバチルタ家が最上位のネァルガ家の馬車はやっぱりちょっと──!
「あ、あの、僕、鍛錬を兼ねて、歩きます! 体力は、ちっちゃい時につくられるので!」
「……いや、ちっちゃ過ぎない?」
トートの突っ込みが素早い。