ぷ
「歩けるところまで頑張って、あとはおんぶだな。
がんばれ、ノィユ。バチルタ家たる者、連続で3刻は歩けないと話にならん!」
ノィユの母ノチェが胸を張る。
貧乏だからね!
馬車とかないからね!
大体1刻が2時間くらいなので、6時間連続歩行が必須のバチルタ家──!
「が、がんばります……!」
ちょっとうるっとする目でノィユは拳を握った。
「……あれ? もう行くの? 早──!」
支度万端のバチルタ家に、起きてきたトートがくしゃくしゃの栗色の髪を掻きあげる。
「トートさまの馬車に同乗させていただくのは分不相応なので! 徒歩で行こうと思います」
握るバチルタ家の拳がそろってる。
「ぷ」
笑ったトートは首をかしげた。
「じゃあ別に馬車を出そうか?」
「もっと申しわけないので、徒歩で!」
拳を握るノィユに、両親もこくこくした。
「ノィユもバチルタ家の子です。連続3刻歩行ができるよう、今から鍛えておかねば!」
おかあさんが拳を握る。
「ノィユが疲れたら、おんぶです!」
おとうさんが拳を握る。
3歳児はかなり重たいよね、拳を握る覚悟がいるよね、ごめんよ!
「ぶ──!」
噴いたトートは、ふわふわの栗色の髪を揺らし、噴いたことなんてなかったかのように微笑んだ。
「じゃあ頑張って。途中で行き倒れたら拾ってあげるよ。うちの家紋は解るね。困ったら声をかけて」
「ありがとうございます!」
ぴし!
バチルタ家一同で、タイミングと角度を完璧に合わせて頭をさげた。
謝罪マスターに近づいてる気がする……!
喜んでいいことなのか、複雑な顔になるノィユの隣で、おかあさんの小鼻が誇らしそうにふくらんでる。
バチルタ家は、これでいいみたいだよ。
「朝ご飯とお昼ご飯に、こちらを。昨日はトートさまとご一緒されると思い、ご用意せずに申しわけありませんでした」
バスケットを渡してくれたあと、丁寧に頭を下げてくれるロダと
「すまなかったね、軽食を持っているとばかり思って、昼ご飯に誘うのを忘れていて」
眉をさげて謝ってくれるトートに跳びあがる。
高位貴族が底辺貴族に謝るなんて『目の前でヴィルにちゅうするノィユを、エヴィがスルーする』くらい、ありえない!!
「ととととんでもないことでございます!」
あばばばしたノィユと一緒に両親も深く頭を下げる。
「ごちそう続きで、びっくりしている胃腸を休めるのに丁度よかったです」
顔をあげてにこにこするノィユに両親もうなずいた。
「……ごちそう……」
顔を見合わせたロダとトートの眉が下がってる。
ロダが持たせてくれたバスケットには、ふかふかパンのサンドウィッチと果物とお茶の入った水筒が入っていた。
サンドウィッチには、お肉! 干し肉? サラミみたいなのと、チーズみたいなのと、お野菜が挟まってるよ! なんて豪華! 鼻血出そう!
隣で両親も鼻を押さえてる。
「こんなに豪華なご飯を恵んでくださるなんて、ありがとうございます──!」
泣きながら頭をさげるバチルタ家に、ロダとトートが切ないものを見る目になってる。
出発しようとネァルガ家の扉に手をかけたら
「俺も、行く」
あわてて着たのかもしれないラフな衣で、ヴィルが来てくれました!




