つよい
さあ、借金返済のためにがんばるのです!
ヴィルの伴侶に、ふさわしくなるために!
というわけで、今日も図書館にゆくのです!
拳を握るノィユと一緒に、おそろいの角度で両親も拳を握ってくれる。
「いや、そんなにそろってなくてもいいんじゃないでしょうか、おかあさま、おとうさま」
ちょっと恥ずかしくなってきたノィユに、両親が首をふる。
「何を言うんだノィユ、バチルタ家の連帯を示さなくては!」
おかあさんが、やる気だ! めずらしい。
「皆でそろってると、がんばってるように見えるんだよ、ノィユ!」
胸を張るおとうさんは、たぶん『謝る時も、そろってると心から真摯に謝罪しているように見える』と言いたいのだろう。
さすが謝罪マスター!
たぶん昨夜、壁の分厚い立派なお部屋を貸してもらったので、敷布とかを汚さないように気をつけつつ、久しぶりにちっちゃいノィユを気にしなくてよい、いちゃいちゃを、両親はたっぷりしっぽり堪能したらしい。
お肌も髪も笑顔まで輝いている。
やる気に満ち溢れている両親が、つやつやだ。
ちょっとはずかしくなりつつ、ノィユは拳を掲げる。
「トートさまに送迎していただくことが、いかに分不相応かしっかりと自覚いたしましたので、本日は徒歩で図書館に向かおうと思います!」
「おー!」
バチルタ家の拳が、そろってる。
微笑ましそうに見ていたロダが拍手してくれた。
はずかしいのに、ちょこっとうれしい。ありがとう!
広大な敷地で馬を走らせるため、わずらわしい貴族のつきあいを避けるため、静かな場所を求めてなのだろう、王宮の近くに居を構えそうなネァルガ家の邸宅は郊外にある。
王宮近くにある王立図書館へゆくには馬車に揺られて45分くらいなので、徒歩で行くと2時間くらいかかる。
が、貧乏の強い味方、徒歩──!
歩けば、いつかは着く。
時間はかかるが、お金は掛からない!
貧乏暇なしだけど、バチルタ家には時間はある──!
しかも徒歩で頑張ると、馬車でぼーっとしてるのと違って、体力も筋力も持久力もついて、肺活量もあがって心肺機能が向上して、メタボの予防と改善になるしストレス解消になるし、頭の回転もよくなるんだよ! しあわせホルモンまで出るらしいよ。
貧乏すごい!
ちがった、徒歩つよい!
「じゃあ歩きましょう! おかあさまも、おとうさまも今までかつてないふかふかとお肉でぷよったら、唯一の武器が台無しですからね!」
体形維持と改善にもぴったり!
人間は動く生き物なのです!
「……唯一の武器……」
おかあさんの目が遠くなってる。
「がんばろー!」
おとうさんは自覚があるみたいだ。潔い!
「でもノィユは3歳だぞ。だいじょうぶか?」
「……あ──!」
おかあさんの突っ込みに、はっとする。
そうでした、大人の足で2時間なので、3歳児の足だと4時間!? もっと!?
往復で日が暮れて、図書館で一冊も本が読めないあれだ!
それだとまだいい方で、図書館に着くまでに力尽きる可能性さえある。
きゃ──!
「おんぶしてあげるよ、ノィユ」
ぽふぽふ頭を撫でてくれるおとうさんが、やさしい。




