07
「それで? どうしたの?」
「その、ですね」
ルーシアさんがちら、とリリちゃんを見る。リリちゃんがいると話しづらい内容なのかもしれない。多分、人間じゃないことに関するお話だろう。
「リリちゃん。そろそろ帰ろっか。村まで送っていくよ」
「えー」
「えー、じゃありません。みんな心配するからね?」
私の説得に、リリちゃんは渋々ながらも頷いてくれた。聞き分けが良い。なでなでしてあげよう。あ、ニノちゃんももっと? 仕方ないなあ。なでなで。
「あの、すず……」
「は!」
思わずまた撫でちゃった。かわいいから仕方ない。うん。
私はニノちゃんとリリちゃんを促して、リリちゃんの村に出発することにした。
雪の森の中、リリちゃんとルーシアさんが先に歩いて行く。その後ろに私とニノちゃん。アーちゃんは私たちが道を逸れないように、後ろで見てくれてる。
アーちゃんは村には入らずに、一度世界樹に戻るらしい。何をしに行くのかなと思ったら、晩ご飯作ってくる、だって。何を食べたいか聞かれたからついついカレーライスと答えてしまった。
これからルーを選んできてくれるそうだ。なんというか、アーちゃんは自由だね……。
村までたどり着いて驚いたことは、村にちょっとした結界が張ってあったことだ。雪よけの結界らしくて、吹雪がかなり弱まるらしい。雪の多い地方にはそういった結界を張る道具が結構あるんだとか。
「道具といっても、精霊たちが張ってくれるというものですけどね」
「ふむふむ。つまりは精霊にお願いするための通信道具、みたいなものなのかな」
「おそらくは」
対価は、少量要求される作物だそうだ。結界を張る精霊が食べてるのかな?
村ではちらほらと村人さんを見かけた。この時期は作物は育てられないから、道具とかを作ったりしているらしい。だからあまり家から出歩くことはないらしいけど、今回はリリちゃんが外に出ていることで、みんな心配して出てきているそうだ。
「一度遭難したそうですから」
「あー……」
私たちと会った時だね。やっぱりすごく心配かけていたらしい。当然だと思う。私だって、ニノちゃんがいなくなってたら心配する。
村人さんたちの視線に晒されながら、大きなお屋敷へ。大きなといっても、三階建てのお家だけど。せっかくここまで来たのだからと、村長さんに挨拶することになってしまった。
正直に言えばとても面倒だけど、是非にとルーシアさんに頼まれてしまうと、私としても断りにくい。フロイちゃんをはじめ、色々と助けてきてくれたらしいから。
村長さんとは、そんな大した話はしなかった。薬をありがとうございます、というのと、できるだけのお礼はします、という内容。
私はあまり何もしていないから、むしろ本当に何もしてなくて薬を渡しただけだから、少し心苦しい。お金をかき集めます、なんて言われてしまったから、お金じゃなくて食べ物をお願いしておいた。
もちろん越冬の食べ物までもらうわけにはいかないから、余裕あればでいいとも言っておいた。私のせいで餓死者なんて出たら、さすがに居たたまれないからね。
村長さんへの挨拶を終えた後は、リリちゃんに見送られつつ私たちの家へと帰ることになった。
「どうしてこんな場所に、こんな立派な家があるんですか?」
「アーちゃんが作りました」
「ええ……」
私たちの家にたどり着いたら、ルーシアさんがすごく呆然としていた。その気持ちはよく分かる。最初は私も驚いたものだ。今はもう慣れちゃったけど。
「すずとニノちゃんは、本当に精霊に愛されているんですね……」
「愛されているというかなんというか……。アーちゃんとは友達だよ。親友」
「世界樹の精霊様にそう言えるというのがすごいです」
そう言われても、なんとも実感が湧かない。だって、あれ、だからね。
ちなみに、帰り道はちゃんとアーちゃんも一緒だったわけで。私の言い方にアーちゃんが唇を尖らせた。
「あれってひどくないかな!?」
「だって、結構遊んでるよね、アーちゃん」
「それは否定しないけども……!」
「でも、私はアーちゃんのこと、好きだよ。お世話になってるし、いつも気に掛けてくれるし。すごく、感謝してる」
「うにゃ……。すずちゃんが卑怯だ……」
顔を真っ赤にしたアーちゃんに笑いながら、家の中へ。家に入るとローブについていた雪は綺麗さっぱり消えてしまう。前も思ったけど、結界が万能すぎる。
「すごい結界ですね……。特定のものの侵入を拒む結界なんて、かなり高度な結界ですよ」
「それが雪よけに使われています」
「…………」
あ、ルーシアさんが沈黙した。頬が引きつってる。ちょっと面白い。
「慣れるよ。すぐに慣れるの」
ニノちゃんはニノちゃんでちょっとひどくないかな。全面的に同意するけど。
私とニノちゃんが並んで椅子に座って、テーブルを挟んで向かい側にルーシアさんが座る。三人とも座ると、どこからか精霊さんたちがふわふわとやってきて、私たちの目の前にカップを置いた。
湯気の立つあったかいココアだ。ちなみにこのココアも日本製です。そろそろアーちゃんは自重を覚えた方がいいと思うんですが、その辺りどう思いますかアーちゃん。
「やだ」
「だよね」
即答だった。いや、いいんだけどね?
ルーシアさんはと言えば、呆然と、目の前のカップを見つめていた。
「お姉ちゃん、飲んでいい?」
「いいよー。やけどに気をつけてね」
ニノちゃんがカップを持って、ちびちびココアを飲む。うん、見ていて癒やされる。かわいい。
「精霊が給仕をするなんて、なんというか……。驚きです」
ルーシアさんの声。なるほど、そこに驚いていたらしい。
「ちなみに晩ご飯も精霊さんが作ってくれるよ」
「…………」
あ、また固まった。これは時間がかかりそうだ。
早く慣れてくれないかな、なんて考えながら、私もココアを飲んだ。甘い。
壁|w・)誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




