08
あったかい部屋でちびちびとココアを飲む。ふむう。幸せだなあ……。
膝の上にはいつの間にかニノちゃん。尻尾がちょっとくすぐったいんだけど、そろそろ自分の椅子に戻ろうか。やだ? 仕方ないなあ。
ココアを置いてニノちゃんを後ろから抱きしめて、尻尾をもふもふ。顔に当たるニノちゃんの耳もくすぐったい。
そうしてニノちゃんとじゃれていたら、ルーシアさんに笑われてしまった。
「お二人は仲がいいんですね」
「そう? そうだねー」
いい子だからね。ついつい甘やかしちゃう。もふもふしちゃう。ニノちゃんも甘えてくるから、ついつい。
「最初は一人旅の予定だったんだけどね。こうしてニノちゃんがいてくれるから、寂しくなくてすむよ。ね、ニノちゃん」
「うん。でももふもふもふもふたまにうるさい」
「え」
え。……え。待って。そう思われてたの? いや、私もやりすぎだとは思ってるけど。やめた方がいいかな……?
そう思ったけど、ニノちゃんが笑って、冗談だよと尻尾をふりふり。一安心だ。
「もう」
「ごめんね」
許してあげよう。私は心が広いからね! だからもふもふ!
「ルーシアさんはずっと一人旅なの?」
「そうですよ。たまに冒険者を雇うこともありますけど、ほとんど一人旅です」
「寂しくない?」
「まあ……。寂しくない、と言うと、嘘になりますね」
やっぱりそうなのか。私も、ニノちゃんがいなかったらそう感じていたのかな。ニノちゃんがいることが、少しありがたい。ぎゅっとニノちゃんを抱きしめると、ニノちゃんも体をすり寄せてきた。
「さてと、ルーシアさん。私に話があるんじゃないの? 私はこの世界に詳しくないから、答えられることは少ないけど」
「そうですね……。それでは前提のお話として、先に私のことを話してもいいですか?」
「いいよー」
人の過去語りは嫌いではないからね。実話なだけあって、お話よりも興味深いことが多い。ただ、ハッピーエンドで終わらない話が多くて、反応に困ったりもするけど。
ルーシアさんの過去語りは、ハッピーエンドではないけどバッドエンドでもない、というよりも今も続いているお話だった。
ルーシアさんは吸血鬼に近い状態らしい。吸血鬼ではないけど、その特性を持ってしまったんだとか。それをどうにかできる精霊さんを探したらしいけど、アーちゃんですらどうにもできないって言われてしまったそうだ。
で、何故かアーちゃんに、私に会ってみるように言われたんだって。
うん。最後が意味不明なんだけど。
「アーちゃん」
「はい」
すでにアーちゃんは正座で待機していた。いや、別に怒らないよ。うん。怒らない。
「ほんとに?」
「多分?」
「怒られるやつじゃないかやだー!」
やだとか言われても、むしろ怒られる自覚があったってことだよね?
アーちゃんから話を聞いてみると、アーちゃんは長い生との付き合い方を話してほしい、とのことで。
「それは、少し興味があります」
ルーシアさんもこっちに視線を向けてきた。期待されても困るんだけど。
「というより、アーちゃんの方が長生きしてるよね? アーちゃんの方が参考にならない?」
「んー? 創世神話を語るよ?」
「あ、うん……。ごめんね、アーちゃん……。使い走りだったんだね……」
「待って。ねえ待って。ひどくない? ひどくないかな!? しかもあながち間違ってないし!」
間違ってないんだ……。冗談のつもりだったんだけど……。
「まあ、いいや。ちょっと待ってね」
私の生き方は座敷童そのものなので参考にならないと思うけど、それでいいなら昔語りもいいかもしれない。恥ずかしいけどね。
でもその前に。
「ニノちゃん、そろそろ寝る?」
「んー……」
いつの間にかニノちゃんは船をこいでいた。寝る子は育つ、だね。歯を磨いてないけど、その辺りは精霊さんたちに任せておこう。よろしくねー。
頷いてくれた精霊さんを連れて、寝室へ。この寝室はいつの間にか増築された場所だ。最初は何もない部屋が増えただけだったんだけど、どこから持ってきたのかいつの間にかベッドが備え付けられていた。自重は、もう言っても無駄だと察しました。
ニノちゃんをベッドに寝かせて、アーちゃんたちの元へと戻る。二人ともちゃんと待ってくれていた。
「お待たせー。えっと、私の話だっけ」
「そうそう。長く生きるための秘訣とか!」
「んー……。そもそもの前提が違うからなあ……」
「前提ですか?」
おや。そこが気になるのか。それぐらいは分かってるものと思ってたんだけど。
「えっとね。私は座敷童っていう妖怪なの。妖怪って分かる? 精霊みたいなものだと思ってもいいけど」
「はい……」
「うん。それでね。私たちって元々そういう存在なんだよね」
私は姿が人の姿で、それなりに人間の営みを見守ってきたから、彼らの価値観はそれなりに理解しているつもりだ。それはアーちゃんも同じだと思う。
でもそれは、理解しているだけなんだ。私たちは根本的に人間とは違う。私は自分のお家に住む家族が幸せそうにしていたらそれだけで満足できたりするし、アーちゃんはそもそも一人でもなんだかんだと過ごしてると思う。他の精霊と同じように。
これは私たちが特殊というわけでもなくて、座敷童なら私みたいな考え方を持ってる子の方が多いだろうし、精霊ならむしろ一人で仕事し続けている方が本来の姿のはずだ。
だから、私たちの過ごし方なんて、人間であるルーシアさんには参考にならないはずだ。
「そうですね……。そうかもしれません。けれど、今はそんな生活とは違いますよね?」
あー……。まあ、確かにそうだ。今は私もどこかの家を守ってるわけじゃない。
「んー……。えっと、怒らないでね?」
「はい?」
「ルーシアさんは、ちょっと考えすぎじゃないかな」
私がそう言うと、ルーシアさんは首を傾げた。ふむう、なんて言えばいいのかな。
「難しいことなんて考えずに、のんびり生活してみようよ。のんびりまったり、だらだらっと」
「え、ええ……」
困惑してる。でも、私から言えることなんてそれぐらいだ。
私の旅の目的なんて、この世界を見て回るっていう漠然なものだ。いつかこの長い生が終わった時に、おじいちゃんおばあちゃんにお話しをする、ただそのための旅。
「人間みたいに限りある命だったら、生き急ぐのも分からなくはないけど……。私たちは良くも悪くも先が長いからね。考えすぎると、身動き取れなくなるよ」
「そういうものですか?」
「そういうものです」
私はね、といたずらっぽく笑うと、ルーシアさんは困ったような苦笑を浮かべた。あまり参考にならなかったかもしれない。まあ人間と妖怪の考え方は根本的に違うだろうし、無理もない。
壁|w・)つまりはお気楽ってことですよ!
おうちが少しずつ魔改造されているのもお気楽だからですよ……!
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




