06
「魔法も使えて薬も作れるって、すごいね。できれば、もっと早く知り合いたかったかなあ。ちょっと、気になる子とかもいたから……」
「ふふ……。もし、その気になる子というのがフロイちゃんのことなら、治療しておきましたよ」
その名前に。私も、そしてニノちゃんも、目をまん丸にしてしまった。
いや、だって。その名前が出るなんて思わなかったから。
魔力結晶だけしか手に入れられなくて、治療までは叶わなかった女の子。いつか、治療できるといいな、とは思ってたけど……。
「フロストさんのお宅に加護をかけたでしょう? おそらくですけど、その加護に私が呼ばれたんだと思います」
「はあ……。加護ってなに?」
「え?」
「ん?」
ぽかんと、口を半開きにするルーシアさん。私も首を傾げる。はて、加護とはなんぞや。
「あの……。本当に、知らないのですか?」
「う、うん……。え? ニノちゃん、そんなのかけた?」
「知らないよ?」
ふむ。ニノちゃんじゃない。じゃあ、アーちゃんかな?
そう考えて周囲を見回す。もちろんアーちゃんを探してるんだけど、その姿はなかった。ここに来る途中からいなかったみたいだから、帰ってしまったのかもしれない。
「んー……。ちょっと待ってね」
「え? はあ……」
戸惑うルーシアさんの目の前で、ペンダントを取り出す。それを握ってアーちゃんを呼ぶと、いつものようにアーちゃんがふわりと現れた。
「お待たせ致しました。用件を伺いましょう、すず」
新しいパターンだ……。これはちょっと……。
「気持ち悪い……」
私が濁そうとした言葉を、ニノちゃんは容赦なく口にした。しかも頬を引きつらせて後退るというおまけつきだ。
アーちゃんはえ、と固まって、私に視線を投げてくる。思わず視線を逸らしてしまった。いや、だって、否定できない……。
「い、いいよーだ! どうせ私は威厳もへったくれもないよ! ふん!」
拗ねちゃった。頬を膨らませてそっぽを向いてる。指先でつつくとぷすぷすと音が鳴って楽しい。つんつん、ぷすぷす。
「すずちゃん、遊んでる?」
「遊んでる」
「もう! 私は怒ってるんだよ!」
「アーちゃん、日頃の行いって知ってる?」
「はあ!? それってつまり日頃の私の行動に威厳がないとでも!?」
「あるの?」
「ないね!」
けたけたと、楽しそうに笑うアーちゃん。機嫌が直ったようで何より。
さてと。呆然としているルーシアさんとリリちゃんに向き直る。まあ、急にこんなうるさい子が出てくると困るよね。気持ちは分かる。
「すずちゃん。ひどくない?」
「騒がしいと楽しいよ」
「ならいいや」
うんうん、とアーちゃんが頷く。単純すぎないかな?
「えっと……。私の友達の、精霊のアーちゃんです」
「どもども。木っ端精霊のアーちゃんです!」
片手を上げて、元気な挨拶をするアーちゃん。けれど、すぐに真剣な表情になった。
「まあ、君には必要ないかな。君なら来ると思ってたよ、ルーシア」
「はい……。ご無沙汰しております」
ルーシアさんが丁寧に頭を下げる。面識があるみたいだけど、いつ会ったのかな。
「アーちゃん。いつの間にルーシアさんと会ったのかとか、聞きたいことはあるんだけど」
「うん」
「加護って、なに?」
「そのまんま。でも、まあ、無意識だろうなって分かってたよ。むしろあの加護の形が、座敷童の能力なんだろうなって」
ふむう……。いまいち分からない。座敷童の能力なんて言われたけど、今回の旅で意識してないことだ。私の能力は、気に入ったお家や、そんな人が暮らす家に反応するもので、自分から意図的にかけたこともないし、まずやり方が分からない。
不便だけど、困ってないから放っておいたんだけど……。
「アーちゃん。あとで詳しく」
「おまかせあれー」
アーちゃんに隠すつもりはないみたいだから、後で聞けばいいかな。とりあえず、私に身に覚えはないけど、私が何かをしていたってことで間違いはないらしい。
「えっと……。それで、私に何か用があるのかな?」
ルーシアさんに聞くと、彼女はリリちゃんの方へと視線を向けた。そう言えばリリちゃんが毎日来てるって言ってたね。
リリちゃんは私と視線が合うと、にぱっと可愛らしい笑顔を浮かべた。
「あのね! お礼が言いたくて! お兄ちゃんもそうだし、他の人もちゃんと治ったよ!」
「そうなの? それなら良かった」
インフルエンザと言っても種類があったと思うし、それ以前に日本の薬がこの異世界のインフルエンザに効くかも分からなかった。でも、どうやら無事にみんな治ったらしい。
日本の医療に感謝しつつ、、リリちゃんを撫でる。リリちゃんは気持ち良さそうに目を細めて、なんだか小動物みたいだ。よしよし、かわいいなあ。
そんなことをしていたら、ニノちゃんが頭をこすりつけてきた。撫でろということらしい。もしかして、嫉妬してる? そうなら、ちょっと嬉しいかも。
両手で二人を撫でていると、ルーシアさんが微笑みながら、
「懐かれてますね」
「あはは。なんでだろうね」
ニノちゃんは分かるけど、リリちゃんと会うのはまだ二度目だ。こんなに懐かれる理由が分からない。嬉しいからいいけども。
「あの……。すず様」
「へ!?」
なんで様付け!? 私がびっくりしていると、ルーシアさんは困ったように眉尻を下げていた。
「その……。世界樹の精霊様と親しいようですから……」
「ああ……。アーちゃんのこと、知ってるんだね……」
もうちょっと説明とかあってもいいんじゃないかな。非難をこめてアーちゃんを睨むと、さっと目を逸らされた。むう。
「呼び捨てでいいよ。敬語もいらない」
「分かりました、すず。口調についてはこれが素なんです。以前は違ったんですけどね」
「ああ……。ずっと使ってると染みついたってことかな?」
「そんなところです」
つまりは、それだけ長く生きてしまったってこと、だね。私がそう言うと、ルーシアさんは悲しげな笑顔になってしまった。苦労してきたらしい。
壁|w・)昨日は疲れて寝てしまいました。すみません。
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ではでは。




