04
私に、というよりもその後ろのアーちゃんに聞くニノちゃん。アーちゃんが頷くと、またリリちゃんに向き直って、
「うん。間違い無いって。だから、大丈夫。帰れるよ」
「ほ、本当に?」
「本当」
リリちゃんの視線が私にも。私も頷いてあげると、リリちゃんは立ち上がるとゆっくりと歩き始めた。まだちょっと怖そうだけど、こればっかりは仕方ない。近いらしいし、少しだけ我慢してもらおう。
「気をつけてね」
私とニノちゃんが手を振ると、リリちゃんは、
「うん……! ありがとう! お姉ちゃんたち!」
そう元気よく言って、洞穴から出ていった。
・・・・・
洞穴から出たリリは、腕を引っ張られる感覚に従って歩きます。
なんだか不思議です。目の前には誰もいないのに、誰かがリリの腕を取って引っ張っています。洞穴で出会ったお姉ちゃんの魔法だそうですが、こんな不思議な魔法があったなんて知りませんでした。
正直なところ、リリはもうだめだと思っていました。吹雪が弱くなった時に、少しだけ出て戻ってくるだけなら大丈夫、なんて思って。その結果が、洞穴で立ち往生というものです。
もう帰れないのかなと思っていたところに来たのが、あの二人。感謝してもしきれません。
しばらく雪の中を歩いていると、突然吹雪が弱くなりました。どうやら無事に、村の結界の中まで戻ってこれたようです。ここまで来たら、もう安心です。
気付くと、腕を引っ張る感覚もなくなっていました。なんとなく、ありがとうございますと頭を下げておきます。
誰かが頭を撫でてくれました。本当に、不思議な魔法です。
再び歩き始めて、すぐにたくさんの家が見えてきました。無事に村に戻ってくることができました。
「リリちゃーん!」
誰かが、リリを呼ぶ声。いえ、誰か、ではありません。村の人たちが、です。
当然と言えば当然です。村の外では吹雪が強くなっているのに、リリがどこにもいないのです。きっとお兄ちゃんが、誰かに捜索を頼んでくれたのでしょう。
お兄ちゃんの病気を治すためだったのに、無理をさせてしまいました。とても悲しくなってしまいます。
でもそれよりも、間違い無く待っているであろう大人のお説教が怖いです。逃げちゃだめでしょうか。だめですよね。
少しずつ歩いて行くと、やがて大人の一人がリリに気付きました。
「リリちゃん!」
その人がリリの元まで走ってきて、リリを抱きしめました。側の家に住んでいる狩人のおじさんです。おじさんはリリの体を何度も何度も確認してきました。
「怪我はないな? ないんだな? 良かった、本当に良かった……!」
そうしてまた、リリを抱きしめます。本当に、心配をかけてしまったみたいです。
「あの……。ごめんなさい……」
「うん……。言いたいことは山ほどあるが、先にお兄ちゃんに会ってきなさい。すごく心配していたよ」
「うん……」
おじさんと一緒に、おうちに帰ります。途中で探してくれた人たちに何度も頭を下げました。みんな、安心したような顔になっていて、なんだか本当に心が苦しくなってしまいました。
家に帰って。お兄ちゃんはとても怒っていましたが、それ以上に安心しているのがよく分かる顔でした。心配させてしまったことに罪悪感を覚えます。
でも、今はそれよりも大切なことがあるのです。
「お兄ちゃん、あのね、これ、お薬」
「え? 薬?」
「うん」
リリがお兄ちゃんにお薬を渡すと、すごく怪訝な顔をされました。
今思うと、リリもちょっと不思議に思います。
薬と言えば、薬草などを煎じたり潰したりしたもので、ねばねばしていたり細かい粒だったりとしますが、これはそのどちらでもありません。粒は粒ですが、大きめの粒なのです。
「これは、どこで?」
「えっとね……。白いローブのお姉ちゃんにもらったの」
「今は村にいるの?」
「んーん。結界のお外。洞穴で会ったよ」
「どこまで行ったんだ!」
「ごめんなさい!」
やっぱり怒られました。吹雪がなければ近い場所ですが、今だとそこまで行くのも命がけです。
お兄ちゃんは大きなため息をついて、そしてもう一度薬を見ます。すごく、悩んでいます。
確かに、なんだかすごく怪しいお薬だとリリも気付きました。けれど、どうしてでしょう。あまり疑おうという気は起きません。むしろ、早く飲まないといけないような気すらしてきます。
お兄ちゃんは結局薬を飲むことにしたようでした。信用した、というよりも、多分きっと、どちらでも同じだと思ったためかもしれません。
お兄ちゃんの顔色は、とても悪いです。今すぐにでも、消えてしまいそうなほどに青白いものです。だから、どうせ死ぬかもしれないのなら、試すだけ試してみようと思ったのかもしれません。
それが分かってしまったせいで、ちょっとだけ悲しくなりながらも、お兄ちゃんが薬を一粒丸呑みしたことを見届けました。
あ……。ご飯がまだでした。とりあえず、今らからでもいいかな……?
翌日。お兄ちゃんは元気になっていました。
早朝に起床したお兄ちゃんは、それはもう面白い顔でした。しばらく呆然としていましたが、残っている薬をひっつかんで外へと飛び出していきます。でもすぐに引き返してきて、リリも連れて行きました。
お兄ちゃんと一緒に来たのは、村長さんのお家です。村長さんは元気になっているお兄ちゃんに驚いて、次に薬についても驚きました。
そこからは大忙しです。動ける人で順番にお薬を飲ませていきます。全員に飲ませても、薬はまだ残っていました。これはもらったリリの家で保管することになりました。
そしてまた翌日。全ての人が元気になっていました。
「もしかすると、魔女様かもしれん」
リリとお兄ちゃんは村長さんに呼び出されて、そして言われた言葉がそれでした。
なるほど、魔女。それでしたら、すごく納得できます。物語の魔女っぽくはなかったですが。
リリがそう言うと、お兄ちゃんと村長さんは笑いました。
「リリ。魔女と一言で言っても、たくさんの人がいるんだよ。自分の研究以外に興味がない人もいれば、今回みたいに助けてくれる人もいるんだ」
「そっか。私が会ったのは、いい魔女さんだったんだね」
「そういうことだね」
お兄ちゃんがリリの頭を撫でてきます。とても落ち着きます。
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ではでは。




