02
アーちゃんが取り出したのは真っ白なローブ。たくさんの魔法がかかっていて、ローブの中は快適な温度に保たれる、らしい。フードを脱ぐと頭だけ寒くなるから気をつけてね、という注意も受けた。
さらには防御力がすごい。例え日本刀の居合いでも衝撃すら受けない。どういう状態になるのか全く分からないんだけど。とりあえず、野生動物から不意打ち受ける程度じゃびくともしない、ということらしい。
そしてそして極めつけは! なんと!
「ポケットを叩くとクッキーが増えるよ!」
「いらないよそんな機能!」
ただでさえ未だに大量にあるのに、これ以上増やしてどうするのやら。ちなみに当然だけど、割れて個数が増えるとかじゃなくて、本当に増える。意味が分からない。
「遭難しても食料は大丈夫だよ! まあ呼んでくれたら迎えに行くんだけどね!」
「ねえ、本当に必要性のない機能に思えるんだけど、どうしてこんな機能つけたの?」
「趣味です」
「あ、はい……」
全ての反論を封じられた気がした。いや、いいけどね。
「おそろいー」
ニノちゃんも嬉しそうだし。私に抱きついてきていて、すごくかわいい。ぎゅっとしちゃう。でも尻尾も隠れてるから、ちょっと寂しいかも。
「んー……。尻尾の部分が不自然に膨らんでる。気になる」
アーちゃんはニノちゃんの後ろ姿を見て唸ってる。しばらく考えていたかと思うと、突然はさみを取り出した。ちょきちょきちょき、と言いながら、ニノちゃんのローブに穴を作る。これってもしかして。
「尻尾、出せる?」
「えっと……。出せた!」
わ、尻尾が出てきた。尻尾様をもふっておこう……。
「お姉ちゃん……」
呆れたような声に傷つくけど、でもこのもふもふはやめられないのです。もふもふ。
「とりあえずローブの保護は尻尾にも届くようにしておいたからね」
「え。はさみで切ってるだけに見えたんだけど」
「魔法をかけながら切ったよ。精霊をなめちゃいかんのですよ、すずちゃん」
ふむう……。精霊ってすごい。いや、本当に。
とりあえず準備ができたので、出発だ。窓から外を見ると、未だに吹雪いているのが分かる。雪が入ってこないかな。警戒しながら、ドアを開ける。
「…………。アーちゃん。雪が入ってくる瞬間に消えるんだけど」
「うん。結界張ってるし」
うん。うん。何も言うまい。
ニノちゃんと二人、外に出る。扉を閉めて、周囲を見回す。真っ白です。
「すごい。目の前も見えない。すごい」
話でしか聞いたことがなかったけど、吹雪ってこうなるんだね。精霊たちが一緒にいてくれるって分かってるから大丈夫だけど、一人だけだとこれはすごく怖い。
「ちなみに、すごく寒いよ」
「そうなの?」
試しにフードを取って、すぐに戻した。
寒い! 耳が痛い! なにこれ! なにこれ! さっむい!
「アーちゃん。ローブありがとう。本当にありがとう」
「あははー。どういたしまして」
声は聞こえるけど顔は見えない、なんだか不思議な感覚だ。
普通なら出歩くのは危ないんだけど、私とニノちゃんは精霊たちが案内してくれる。だから心配しなくてもいい、というのは分かってるつもりなんだけど。いや、うん。やっぱり怖い。いやだって、迷子になったら戻ってこれる気がしないよ。
「まあ、今日はお試しだよ、お試し。たまになら晴れる時もあるから、ちゃんとした散歩はその時でもいいと思うよ」
「そうなんだ。……ちなみにその時に山越えはできないの?」
「途中で吹雪になるよ?」
「うん。だよね」
そんなにうまい話はないってことだね。分かってる。
とりあえず、ニノちゃんと手を繋いで歩いてみることに。何かにぶつかりそうな時やちょっとした段差があるような時は教えてくれることになっているので、とりあえず歩いてみる。
雪の独特な感触を楽しむ、なんてことは残念ながら思い浮かばない。精霊がいると分かっていても、怖いものは怖いから。
ニノちゃんの方は、怖い物知らずみたいだけど。
「何もみえなーい! すごーい!」
そう言って嬉しそうにはしゃいでいる。子供は元気だなあ……。
「ニノちゃん。精霊さんがいない時に、一人で出歩いたらだめだからね」
念のためにちゃんと言っておこう。精霊さんたちにも、しっかりと見張りをしてもらわないと。
そう思っていたんだけど、ニノちゃんは一瞬だけ黙って、それから不思議そうな声色で言った。
「私、そこまで命知らずじゃないよ」
「そ、そっか」
ニノちゃんって年齢のわりにしっかりしてる気がする。ちゃんと真剣な声で応じてくれたから、信用してよさそう。
「ゆっきー!」
遊ぶ時も全力だけど。そんなに引っ張っても、私は走らないよ。絶対に走らない。危ないから!
真っ白な中、三十分ほど歩いた気がする。ニノちゃんもちょっと飽きてきたのか、少し静かだ。唐突に、思い出したみたいに歌い出すけど。
「そろそろ帰る?」
私がそう聞くと、答えたのはニノちゃんじゃなくてアーちゃんだった。
「もうちょっと、あと五分、歩いてほしいな」
「それはいいけど……。何かあるの?」
「さあ?」
アーちゃんの、楽しそうな気配。んー……。まあ、いいか。やることもないし。
ニノちゃんと一緒にもうしばらく歩く。目的地はともかく、はっきりと時間を示してくれたのでちょっとだけ足取りは軽くなった。
そうして歩いた結果、
「あれ……? お姉ちゃん、誰かの泣き声が聞こえる」
「え」
ニノちゃんの報告を聞いて、私も耳を澄ませる。吹雪の音で分かりにくいけど、確かにこれは泣き声だ。多分、子供、女の子かな?
「アーちゃん。知っててここまで連れてきたでしょ」
「うん」
悪びれもせずにこの子はもう……。いいけどさ……。
私は、神様じゃない。だから知らない場所で死んじゃう人にまで心を砕いたりはしない。でも、こうして、聞こえる声は話が別だ。できれば、助けてあげたいと思ってしまう。
「アーちゃん。案内よろしく」
「あいあいさー!」
気の抜けるような返事の後、私の手を誰かが引いてくる。多分、アーちゃんかな。それに従い、歩く向きを変える。もう片方の手はもちろんニノちゃんだ。ニノちゃんも今は耳を澄ませていて、泣き声を聞くようにしてくれている。さすがニノちゃん、あとで撫でてあげないと。
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ではでは。




