01
壁|w・)第二話開始、なのです。
なお、第一話からちょっとだけ時間が経っています。ちょっとだけ。
「んー……。朝だ……」
そろそろ日の出の時間。私はお布団から出て体を起こす。隣のニノちゃんはまだよく眠っている。すやすや気持ち良さそうだ。こう、二度寝の誘惑が……!
でもそれに負けると、朝ご飯が用意できない。私はいいけど、ニノちゃんはたくさん食べないといけない。成長期だし。成長期かな? まあいいか。
とりあえず、テントを開けて……。
うわあ……。
雨です。豪雨です。なんかもう、前が見えません。なにこれ。
すぐ側にいた小さいドラゴンは、どこから持ってきたのか大きな葉っぱを傘代わりにしていた。小さい手で葉っぱの茎を持って、今も周囲に目を光らせている。私たちが寝ている間の、見張り役。
見た目はすごくかわいいけど、この子も大型の魔獣程度ならブレス一発で消し飛ばすと聞いた。ドラゴンは存在そのものが理不尽だと思う。
テントを開けた私に気付いたのか、そのドラゴンが振り返ってきた。
「おはよう、すず様」
「う、うん。おはよう。すごい雨だね」
「うん、そうだね。煩わしい?」
首を傾げて聞いてくる。少し、と私が頷くと、
「分かった」
ドラゴンは上を向いた。ちょっと待って、何を……。
止める間もなく、ドラゴンの口内に光が満ちていく。そしてその光は一条の光線となって、天へと昇って、あっという間に雨雲を散らしてしまった。
これは、いいの? だめなのでは? だめなやつじゃあ!?
「これ、怒られない? アーちゃんとかに」
「大丈夫。あとで報告するよ。明日あたりにまた降らせることになると思う。精霊様も、すず様の希望を優先するように、と仰っていたし」
「アーちゃん……」
あの子はもう! ほんとにもう! なんかもう、こう……、もう!
アーちゃんは私を優先させすぎだと思う。もちろん助かるし嬉しいよ。でも、アーちゃんはこの世界の精霊なんだから、もっとこの世界のことを優先してあげてほしい。でないと、私が気にする。他に誰が気にしなくても、私がすごく気にする。
とりあえず、アーちゃんとはまたあとで話をするとして。
「あのね。雨も旅の醍醐味だと思ってるから、散らす必要はないからね」
「うん? そうなの? 分かった、じゃあ次からはやめておくよ」
「ありがとう」
「いや。僕もどうかと思ってたし」
あ、やっぱりそうだよね。私の友達が本当に申し訳ない。
「それじゃあ、僕は戻るよ。また見張りが必要なら呼んでね」
「うん。ありがとう。またお願いね」
小さいドラゴンが手を振って、消えてしまう。うん。やったことは規格外だけど、やっぱり小さいドラゴンってかわいいと思う。
とりあえず朝ご飯の支度だ。テントから出て、手早く火を起こす。テントの前に出しっぱなしだった道具が無事なのは、やっぱりあのドラゴンが守ってくれたからかもしれない。魔法かな。どうして自分には使わずに葉っぱを使っていたのかは分からないけど。
ちなみにテントも無事だ。こっちはドラゴンじゃなくて、アーちゃんの仕業だ。数日前に小雨が降っていた時に、テントどうしようかなと思っていたら、アーちゃんが来た。忘れてた、とか行って、テントに水よけの魔法をかけてくれた。だからこの中にいれば雨はへっちゃらだ。
ただ、なんだか魔法がかかった持ち物が増えているのがちょっと気になる。リュックサックといいテントといい、仮に売れば魔力結晶よりもずっと高い値がつくんじゃないかな。もちろん売らないけど。
お鍋を火にかけて、ぐるぐるかき混ぜる。昨日の晩ご飯の残りだけど、さすがに全く同じはだめだと思う。日本から持ってきた、もしくは持ってきてもらった調味料を使って味を調えていく。
うん。悪くない。贅沢を言えばもっとちゃんとした料理をしたいところだけど、旅の間にそんな贅沢はだめだと思う。手早く、栄養を取れて、かつできるだけ美味しく。
良い匂いがしてきた。この匂いがしてくると、ニノちゃんもすぐに目を覚ます。あの子は鼻がすごくいいからね。
「んー……。お姉ちゃん、ご飯?」
予想通り、ニノちゃんがテントから顔だけを出してきた。まだ寝起きのためか、耳は垂れている。もふもふしたい。
「もうすぐだよ。出ておいで」
「はーい」
頭をひっこめて、テントからごそごそ聞こえてくる。多分着替えてるんだと思う。少しだけ待つと、すぐにいつもの服のニノちゃんが出てきた。
「あれ? 地面がぐしょぐしょ。雨ふってたの?」
「ふってたよ。少し前まで土砂降りだったけど、ドラゴンがやませた」
「あ、うん……。やんだ、じゃないんだね……」
そう。やんだ、じゃない。やませた、だ。これで何となくでも意味が伝わるあたり、ニノちゃんも随分と毒されていると思う。誰のせいだまったく。私だけど。
ニノちゃんに朝ご飯をたっぷり入れて、お椀を渡してあげる。ニノちゃんはお椀を受け取ると、お箸を器用に使って食べ始めた。最初を思うと、お箸を使うのも本当に上手になったと思う。
ニノちゃんは本当に美味しそうに食べてくれる。尻尾がふりふりしていて、とてもかわいい。もふもふしたいな。だめかな?
「じい……」
ニノちゃんの尻尾をじっと見つめていると、ニノちゃんが苦笑いを浮かべた。
「ご飯を食べた後ならいいよ」
「さすがニノちゃん」
やっぱりニノちゃんはいい子だ。……大丈夫かな、呆れられてないかな?
さて。朝ご飯を食べ終わったら出発だ。いつものようにテントなどを片付けていく。リュックサックを近づけて、ずりゅっと。ずるいとは思うけど、私にとってはとても楽で便利だ。
「行くよ、ニノちゃん」
「はーい」
ニノちゃんと一緒に、すでにうっすらと見えている街へと歩き始めた。さて、次の街はどんな街かな?
壁|w・)ちなみに第一話ほど長くはないです。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




